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儚い夢

ときどき夢を見る。


この世界にやってくる前の古い記憶だ。遠い世界になったはずなのに、なぜか鮮明に情景が再生される。


夢の中で俺は一人でご飯を食べていた。孤児院の中の狭い部屋の中で壁に囲まれながらご飯を食べていた。照明は暗く、椅子も机も用意されていない。地べたに座りながら部屋に置かれたご飯を無心で頬張っていた。


多分6歳くらいのことだと思う。そのくらいの時には俺はもう皆と一緒にご飯を食べることは許されていなかった。みんなと同じご飯であるはずなのに、その味はいつも味気なかった。


ご飯を食べている俺の横に何者かがやって来る気配がする。横を振り向くと、そこにはモモがいた。モモは俺の横に座りながら、俺がご飯をを食べている様子をじっと眺めていた。そこには孤児院の他の人達が俺に向けるような視線はなかった。ただ純粋に俺のことを見つめていた。


俺はおそるおそるモモの頭に触れてみる。モモは逃げようとする気配も見せず俺の手を受け入れてくれた。震える手に伝わってくるモモの温度は不思議なくらい温かかった。手を伝って俺の全身に熱が届いてきた。


俺は何度も何度モモを撫で続けた。俺の手とモモの頭は隣同士のパズルみたいにピッタリあっていた。モモは俺に撫でられるためにやってきたと言わんばかりにいつまでも頭を俺に差し出した。


次第にモモは俺の膝の上にやってきた。俺はモモを膝に乗せながらご飯を食べる。まだ子犬だったモモは温かくて、どこかに飛んで行ってしまいそうなくらい軽かった。


もう一度膝に乗ったモモを見る。しかし、膝に乗ったモモはなぜか悲しい顔を浮かべていた。


そこでいつも目が覚める。俺の唯一の幸せな時間だった、と同時にこの夢を見る度に不安な気持ちになる。


モモは死んだ、俺が死ぬよりも先に。だけどこんな世界があるのならばモモもどこかで生きているんじゃないかと考えてしまう――望むならば、この世界に。


 モモの悲しげな顔はなにを意味しているのだろうか。何度考えても思い当たらない。


 目が覚めた世界では、まだモモの声は聞こえてこない。


2章突入です。

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