プロローグ 退治と対峙
刀に染まった鬼の血が、俺に命の重さを訴えかけてくる。
ここに来るまで、いったいどれくらいの鬼を殺して来たのだろう。
後ろを振り返ると、鬼の屍が俺の通って来た道を示していた。
おとぎ話で読んだ鬼ヶ島は、血なまぐさと喚き声が混ざり合う戦場となっていた。
鬼の大将は目の前でじっと俺の事を見つめ続けている。
その目には戦意というよりかは憐れみの情がこもっている気がして、気持ち悪い。
(俺はこいつを殺すためにこの世界に転生してきた)
俺の中に刻まれている本能が目を覚ます。
この鬼とは初めて会ったはずなのに、なぜだろう、憎しみがこみあげてくる。
刀を強く握りなおして鬼をじっと睨みつける。
俺の目が赤く染まっていく。
俺の身長の倍くらいはある巨大な赤鬼。
全身が筋肉でおおわれたその姿は、おとぎ話のようなかわいらしい存在では決してない。
(やはりこいつは危険な化け物だ。何としても排除しなければ)
声なき声が俺にささやく。
後ろからは戦いの音が聞こえてくる。
島の中を駆け巡る足音、武器を振り回す掛け声、敗れ行く者の喚き声。
喚き声は痛々しさを残しながら島全体にとどろく。
俺はその声が仲間のものでないと信じるしかない。
今はほかの事に意識を回す余裕はない。
戦いはおとぎ話のようなチャンバラごっこでは済まされない。
どちらかが死ぬまで終われない。
与えられた選択肢は「生」か「死」のどちらかだけだ。
「準備はできたか小僧」
そう言って、鬼はこん棒を構える。
「この一瞬で終わらせよう、すべてを」鬼は不思議と柔らかい表情な気がした。
気持ち悪い顔をしているはずなのに、その目を俺はいつまでも見ていることができた。
戦いの火ぶたは落とされた。
鬼ヶ島に乗り込んだ時点でもう後戻りすることはあり得ない。
はずなのに、それなのに…
俺は自然と涙を流していた。。
なぜだかわからない。
でも、俺はこの鬼を知っている。
どうしても思い出せない。とても大事なことのはずなのに。
とめどなく無く流れる涙。
それを俺の本能は無情に乾かせようとする。
体は自然と戦いの構えをとっていた。
涙の意味は分からない。
ただ、今あるのはこいつを倒さなきゃいけないという使命のみ。
俺はただそれを信じて走りだすしかなかった。
それが大きな過ちだったと気づくのは、もう少し後の話である。
これは、俺に与えられた使命と、罪と罰の物語。
タイトルは昔話のまま「桃太郎」なんて言うのは、まじめすぎるかな。
これから、どうぞよろしくお願いいたします。