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48話

 

  そんなこんなでとても大きな施設に連れてこられました。


  よく分からない状況で一室に案内されて、この組織のお偉いさんと面会するみたいです。

  メイクしてないけど大丈夫かな。


  私が待つこと十分。

  新しい首輪を付けられたアースを連れたカーミラさんがやって来た。


  あぁ、もう馴染んじゃって。


「カーミラさんって、本当に偉い人なんですか?」

「世界で五本の指には入るな」


  カーミラさんはそう言いながら、右手の指を開いて揺らした。


  大きなソファーに相対しながら面接のような質問を幾つか受けた。


「本題はここからだ。昨晩、何がお前の中に入ってきた?」

「手のひらサイズの光のボールが私の胸の中に入ってきて、こんなふうになってました」

「こんなふうって、私は元のお前を知らん」

「金髪碧眼の美少──」

「それはない。少なくともお前が美少女はない。せいぜい、ちっぽけな町に一人か二人いるくらいの程度だ。自惚(うぬぼ)れるな」


  その言葉に、少なくはない精神的なダメージを負った。

  ちょっとふざけただけなのに、素で返さなくても。そんなに否定しなくてもいいと思います。

  それよりも、アースがカーミラさんに私よりもなついている事がショックです。


「それよりも、私の力?かどうかは分かりませんが、何なんですか?」


  カーミラさんが、身を乗り出して私の腕を触る。


「ほぉ、まさか本当に……ジョーカーの奴め、本当の事を言うとは」

「ジョーカー?何ですか?」

「お前が知る必要はないが、いずれ知る事になるだろうな」

「……へぇ」


  カーミラさんが苦虫を噛み潰したような忌々しげな顔をしている。でも、ここまで美少女だとさまになるな。


「それにしても巫女の力とは凄まじい。使い方を工夫すればあのゴリラを越えるかもしれんな」

「ゴリラ?」


  私の知らない間に、勝手に満足されても困るのですけど。

  カーミラさんは私の手から自らの手を離す。


「ペッタンコ、お前の力は大体理解出来た」

「ペッタ──失礼じゃないですか!私だって気にしてるんです!誰もがあなたみたいにスタイル良くて顔も可愛くて、肌がすべすべじゃないんです!普通の女の子は苦労するんです!」

「……そうか、それはすまなかった」


  カーミラさんは少々、後ろに()()りながら驚いた表情を浮かべる。


「あっ!すみません」


  冷静を取り戻した私は、頭をおもいっきり下げた。


「気にするな。私の心はそこまで矮小(わいしょう)ではない」


  カーミラさんは、私の言葉を遮るように手を向けて話を続けた。


「お前には、明日から学校に通ってもらう。その学校は、私の組織が設立した学校で、対策課の物とは違い異能力全般を取り扱う。きっとお前の力も上手く使いこなせるようになるだろう。部屋も金銭面も全て私が手を回している。気にする必要はない。質問はあるか?」

「家族とは会えますか?」

「春、夏、冬に長期の休みがある。その時だけなら構わない。それと、ピッグ家といったか。あの家に嗅ぎ回られても面倒だから手を打っておいた」

「手?……そうですか」


  なんだか怖い。

  聞かない方がいいかも。


「もう行っていいぞ」


  こうして、私の怪奇と未知の詰まった奇妙な学校生活が始まった。






  私が学校に転入して一週間。


  ウィーレ魔術聖堂──これが私の学校。

  ワシントンの高層ビル一棟が校舎だけど、ビルのエレベーターに乗ればそこは別世界。

  階段が浮かび、廊下は動く。

  ファンタジーなんて信じていなかったけれど、これはファンタジーなのだと思う。


  私の力は、たった一週間のカーミラさんがじきじきについた特別な訓練だけど、ある程度は使いこなせるようにはなった。

  そして、カーミラさんが言うには、私の力は異能力者の中でもかなり特異な物らしい。だけど、カーミラさんは強い。強すぎる。


  私はぼうっとした頭の疲れを追い払うように、おもいっきり布団を蹴りあげた。


「なっ、何してるんだ?」


  驚いたような声を上げたのは私のルームメイトの一人、ミランダ・メーディンちゃん。

  男勝りで頼れる性格で、ショートの銀髪と八重歯はとても似合っているけれど……スタイルがいい。特に胸が。


「……なっ、何だ?胸ばかりじろじろ見て気持ちが悪いぞ」


  シャツ越しでも分かる大きな胸を両腕で隠す。

  少しでも分けてほしい。

  別にカーミラさんに言われて気にしだした訳ではないけど、流石にもう少し大きくてもいいと思う。

  世界は理不尽だ。


「どうしたの?二人して元気ね」


  奥のベットから顔を出したのは、レオ姉──じゃなくて、レオーネ・アンバリアンちゃん。

  おっとりとした黒髪美人……だけど私と同い年。いつもお菓子をくれたり甘やかしてくれるけど、レオ姉もデカイ。


「別にいいもん!」


  私は蹴りあげた布団を手元に引き寄せ、頭から被った。


「ルーンちゃん、お菓子食べる?」

「食べる」


  布団から顔を出し、差し出されたクッキーを口に挟む。


「おりゃー!」


  その隙にミランダちゃんは私から布団を剥ぎ取った。


「もう!ミランダちゃん」

「もう起きないと遅刻だぞー」


  ミランダちゃんの言葉を聞き、置時計を見ると既に授業が始まるまで三十分を切っている。

  特に私は、普通とは違うカリキュラムを組まれている為、授業の開始時間も早い。


「ヤバッ!」


  私達は、急いでパジャマを着替え学校へと走る。


「もう遅刻だよぉー」

「それは、ルーンが悪いんじゃん」

「二人とも、お菓子でも食べる?」

「「そんな時間はないよ!」」


  ビルが見えてきた。


  ビルに入り、カードを通した。

  エレベーターに乗り、学校へと到着した途端にまた走った。


「ルーン、じゃあな」

「また、昼食時に」


  ミランダちゃんとレオ姉はそれぞれの教室に向かっていった。


  私は一度深呼吸した。

  扉に近付きノックをしようと手を上げる。

  その前に声がかけられた。


「入れ」

「……失礼します」

「十五分の遅刻だ。弁明なら聞くぞ」

「……ぐうたらしてました」

「正直に言う馬鹿があるか!」


  カーミラさんの拳骨が頭にぶつかる。


()ったぁ」

「痛くて当然だ。(しか)る時間がもったいない。始めるぞ」

「はいっ!」


  私は声を張り上げ、部屋の中央に立つ。

  私が歩いたんじゃない。カーミラさんの魔術だ。カーミラさんは空間を操る魔術が使えるらしい。


「いきます」


  私は両手を前にかざす。

  体に流れる膨大なエネルギーを上手く掌握出来ていないけれど集中すれば何とかなる。


  両目をつむり、雑念を振り払う。

  無心を心がけ、感情を抑制する。


  お腹が鳴るが気にしない。

  そう言えば朝食を食べ忘れたけど、昼食は何だろう?


「ルーン!」


  カーミラさんの叱責(しっせき)に両手を見ると、ピンクの光は四方八方に暴れだす。

  だが、すぐに私の腕に押し戻された。


「また考え事か。十分に扱えない間は、無心でやれといくら言ったら分かるんだ?お前の頭はゴミでも詰まってるのか?」

「すいません。昼食について考えていました」

「……そういえば、腹が鳴ってたな」


  カーミラさんはポケットに手を入れ、飴を取り出した。

  その飴を私に差し出すように手のひらに乗せて、そのまま自分の口に含んだ。


「あぁ、くれるんじゃないんですね」

何故(なぜ)?」

「でっ、ですよねー」


  生粋のサディストは、嘲笑いながら飴の入ったままの口を開いた。


「もう疲れたのか?私は休憩していいとは一言も言ってないはずだが?」

「やりますよぉ!やってやりますとも」


  私はもう一度同じ動作を繰り返す。


  またお腹が鳴った。


「乱れだしたぞ」

「はい!」


  私は気を引き締める。


「何か感じたんじゃないのか?」


  カーミラさんの言葉に、体へと意識を向けると体内を循環している力の脈動を感じ取れる。

  今までは、こんなにはっきり感じなかった。

  濃い霧の中で石を探しているような感覚だったのに、ここまで変わったのは何が原因だろう?


「教えてやろうか?」

「勝手に人の心を読まないでください。それと、教えてくれるなら教えてください」

「理由は自分で調べろ」

「えっ?」


  教えてくれるような口振りだったのに。


「知りたければ自分で気付け、そして感じろ」

「感じる?」

「そうだ」


  私は意識を向ける。

  体を循環するエネルギーを。


  私は意識を向ける。

  手のひらに纏われたピンクの光を。


  少しずつ理解してきた。

  言葉では言い表せないけど、この力をコントロールする方法を掴んできた。

  このエネルギーは暴れ狂う狂犬ではではない。上手く付き合えば──一辺の疑いを持たず、受け入れればエネルギーの方から私の意思に従ってくれる。


「上手く出来たらしいな。後は、お前でやれ」


  カーミラさんは、部屋を出ようとドアへと向かう。


「どこに行くんですか?」

「聖王協会にな。少し前に異界へ行ってすぐに帰って来た小僧からプレゼントを貰ったらしいからな」

「そうですか。お気をつけて」

「今晩には戻ってくるから、多少はマシに使えるようにしておけ。今のままでは不格好だ。お前の力は、お前の心の状態に左右される。容姿の醜さは隠せても、内面の醜さだけは隠せんからなぁ。至るところから膿のように(にじ)み出る」

「はいっ!」

「返事だけは立派だな。まあ、今のお前にそんな心配はいらないだろうな」


  少し照れ臭いけど、そんな私を無視してカーミラさんは部屋から出ていった。


  私のこの力は不定形で何の特殊な能力も無い。

  けれど、それは私が力を掌握していない証拠らしい。どうやら、カーミラさんは私の力に心当たりがあるみたい。


  広い部屋の端にある本棚から数冊の本を取り出し、読み漁る。

  一言一句丁寧に読んでいくのではなく、流し読みをしていく。


  探すのは、私の能力と関係がありそうな項目。カーミラさんは、この本を読むのはまだ早いとか言っていたけど、意味の無い事をする人ではない。きっと何か意味があるはず。


「あったっ!」


  思わず上げた大声を両手で塞ぐ。


  誰も居ないと分かっていながら、念のために周囲をキョロキョロと見渡します。


  誰も居ない事を確認して、一度閉じたページを開けると、私の能力と思われる力の説明が書かれていました。

  丁寧に絵まで書かれています。


  私は興奮で激しく鼓動する心臓をゆっくりと落ち着かせ、最初から目を通しました。






「それで結局、書かれた言葉の意味が分からずに断念したと」

「うん。カーミラさんの言う早いは単純に私の頭が足りないって意味だったみたい」

「ルーンちゃん、お菓子でも食べる?」

「うん」


  レオ姉から飴を貰った。

  偶然、カーミラさんがお腹がすいた私の前で食べた飴と同じメーカーの物だった。

  恨みとばかりに口に入れた飴を噛み砕いた。


  おしゃれなカフェテリアで(くつろ)ぎながら、昼食の残りを口に頬張る。


「飴と味がごっちゃにならないか?」

「いあいでおういかある」

「えっ?何だって?」


  私は口に入ったパンをレオ姉が差し出してくれた水で押し込み、言い直す。


「気合いでどうにかなる」

「はあ。……そうか、頑張れ」


  ミランダちゃんは、呆れながら視線をテレビへ移したが、何かを思い出したかのように私に質問を投げ掛けた。


「ルーン、あなたはさん付けしてるけどカーミラさまがどれだけ凄いのか知ってる?」

「さあ」

「さあってあんた、カーミラさまがどれだけ偉い方なのか知らないなんて言わないでしょうね?」


  呆れたミランダちゃんに、私はただ苦笑いを返すので精一杯だった。


「どのくらい凄い人なの?」

「カーミラさまは、異能力者の社会では五本の指には入る程の権力者よ。あっ、お菓子でも食べる?」

「いや、もうお腹いっぱいだから。それで、異能力者の社会って言われてもどのくらい凄いのか分からないなぁ」

「その気になればこの国の大統領を辞任させる事も不可能ではないと思うぞ。本人は権力の乱用は嫌うからやらないだろうけど」


  権力の乱用を嫌う……か。ピッグくんの件は黙っていよう。


「だったら、他には四人くらい同じくらい偉い人がいるんだよね?」

「まあな。一人はジョーカーっていう聖王協会のトップ、いわゆるボスだな」

「その聖王協会っていう組織はカーミラさんから聞いたよ。数年前、とてつもなく強かった組織だよね」

「まあな、数年前はな」


  ミランダちゃんは含みのある言い方をした。


「じゃあ、今は違うの?」

「どうだろうな、確かに数年前は強かったらしい。ジョーカーを筆頭に、和尚とエンシェント・ドラグーンに神童なんていう数世紀に一人現れればめでたいくらいの猛者がいたからな。だが、和尚は前線を退き、最強の異能力者と言われた神童は行方不明、ジョーカーは組織を回すのに手一杯。動けるのはエンシェント・ドラグーンしかいない。それに対して、私達が所属しているトワイライトはカーミラさまとブラッディブラッドがいるからな。最後に、三大異能力組織の一つである国土異能力対策課はとんでもなく強い兄妹がいるらしい。そしてそいつらが──」

「へぇ、詳しいんだね」


  私はミランダちゃんの話を打ち切らせた。

  一週間の付き合いで分かっていたけど、ミランダちゃんは噂の類いに好奇心が旺盛らしい。女の子なら当然とも言えるけど、少し強すぎるとも思う。それも、ミランダちゃんの魅力だと思うけど。


「でもルーンちゃん、他の組織についてはもう少し知っていた方がいいと思うわ。お菓子でも食べる?」

「飴なら貰います。それで、気になったから一つ質問をしてもいい?」


  私は受け取った飴をポケットに入れて、ミランダちゃんに問い掛けた。


「トワイライトに所属するのは、この学校を卒業してからじゃなかった?それに、他の組織に入るって選択肢もあるって聞いたけど」

「ルーン、ここはトワイライトがパトロンの学校なのよ。他の組織に所属する選択なんて出来ないぞ。仮に入ったとしても肩身が狭いだろ」

「……確かにね。そうだね」


  私はふとテレビのニュースを二度見した。


「えっ?」

「ルーンどうした?」


  ミランダちゃんの続く言葉がよく聞こえなかったけれど、私の視線の先にはテレビの画面しか無かった。


  その画面には、私達の学校が崩壊する光景。


「あれを見て!」


  ミランダちゃんとレオ姉は一度テレビを見たが、戸惑った表情を私に向けた。


「えーっとルーンちゃん、メジャーリーガーのスキャンダルしか映ってないけど……」

「どういう事?私には確かに学校が壊れてる映像しか見えないのに」

「もしもし、ルーン?もしかしたら、魔眼の力?」

「魔眼?」

「おうっ!これも知らないのか。魔眼の説明は後回しとしてどう見えてる?」


  私はありのまま伝える。


  それを書き留めたレオ姉は、冷静だった。


「カーミラさまに言うべきね。いつ帰って来るの?」

「今日中には帰って来るって」

「それなら、カーミラさまが帰って言えば解決だな」


  そして、ミランダちゃんとレオ姉は問題解決とばかりに、最近流行りのカフェの話を始めた。


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