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幕間 騎士


◆駐屯騎士団 第一陣部隊・隊長 スパロウ・スペイド・スピリタス 


 ギブソニアン家の剣術指南としてこのロイドという少年に稽古をつけて三日目。もう数えきれないほどおれは驚かされている。

 以前もおれはこの家の剣術指南をしていた。しかしギブソニアンの二人の息子が全くおれの言うことを聞かないので一度指南役を辞退した。今回はヒースクリフ様が頼まれるので仕方なくこの仕事を受けた。仕方なくだ。

 だが、正直、この子の相手をしている方が騎士団の訓練よりよい訓練になっている。

 

 このロイドという平民出の子供は魔法の天才だ。彼の魔法は全て実戦を想定している。初めは剣術のみの稽古をしていたが、彼には剣術の才能はあまりないようで、初日でそれを自覚していた。剣に対する恐怖心で身体が強張る。子供なら仕方ないが剣術を修めるためにはこれを克服しなければならない。しかし二日目には克服してきた。というより剣が当たりそうになると魔法を使う。なので、どうやっても彼に剣が当たらないのだ。

 さすがに魔法で攻撃はしてこないが、魔法による防御を頼りにどんどん前進してくるので手数が多い。接近戦で魔導士と戦う経験などめったに無いことだ。おれは彼との訓練に夢中になっていた。なりすぎてしまった。

 それで同時期、馬術の指南で雇われた腐れ縁のローレルに注意されてしまった。

 

「それじゃあ、若様の剣術の鍛錬にならないでしょう? 防御も剣でできるようにならないとダメなんだから! きみの訓練じゃないよ!」

 

 ローレルに注意されるとは不覚!

 この女は普段はフラフラしているのに、時々まともなことを言う。確かに剣の試合で魔法は使わない。四日目からは魔法を禁止しての訓練となった。

 

 素振りや型の練習をメインにやっていく。地味で辛い反復練習なのだが、彼は一切泣き言を言わず、淡々とこなす。普通五歳くらいの子供は続けられず途中で飽きたり遊びたがったりするものだが、彼は違った。ローレルに話すと馬術でも同じらしい。


◆駐屯騎士団 第二陣部隊 隊長 ローレル・ダイヤ・ブルボン



 この子は常に考えてる。というか警戒心が尋常じゃない。私が忍び寄ると魔法を放つ態勢に入っている。いやちょっと後ろから抱き着こうかと……

 

 この子、スパロウより隙が無いよ?


 こういうタイプは馬と相性悪いから苦戦しそうだなぁ――とか思っていたら、すぐ乗れるようになった。馬が相手だと全く警戒が無い。なんで?


「だって、馬は可愛いじゃないですか。賢いし、信用できる」


「ええ~先生は? 先生も可愛いでしょう?先生のことも信頼して~!」


「先生も賢いですよね、本当は」


 聡い子供に賢いと言われてしまった。本当に五歳かい? 応答がスパロウより大人だ。


「アタシそんなこと言われたの生まれて初めてかもね~。若様からはそう見えるの?」

「ええ、教え方がうまいです。理論的で」


 いえいえ、あなたの理解力がすごいんですよ。あと馬を信頼して身を預けることができてるからかな。馬は感情に敏感だし、若様を馬の方も警戒してない。これを教える方が難しいんだよね。前に上の二人に教えた時は全然ダメで、二人とも馬に嫌われてたなぁ。アタシのせいにされたからちょっと本気で怒っちゃって、それからまともに教えてないから今も乗れないのでは? これは、もしかしてすでに馬術は二人よりできてるのでは?


「あと先生も可愛いですよ」


 スパロウより大人だぁ。でも若様、できればもう少し感情を込めて下さい。そんなついでみたいに……

 でもなんだかこの子のこと気に入ったかも。

 

 魔導士ってエリート志向でプライド高い人多いけど、ヒースクリフ様の影響かな? 若様にはアタシたち前衛職に対して優越感があまりないみたい。このままで大きくなっておくれ。この歳で魔導士なのに魔法もひけらかさないなんて、達観してる~!

 というか魔法を見せようとしない。ちょっと私、警戒されてる?

「見せて~」って頼んだら上を指さすから見ると、基礎級で『水流』?をずっと使い続けてた!

 もう馬術の授業は一か月くらいやってるけどその間ずっと、というか外にいるときはいつもやってるらしい。でもなんであれ落ちてこないんだろう?『水流』って水を操る魔法だけど、水が宙に浮くなんて普通あり得ないよね。


「『成水』で水を作り出してプロペラ状に成型。中心以外を『水流』で回転させてホバリングさせてるんです」


 と、若様が説明してくれた。なるほど、プロペラ?、〝ホバリング?。わかりませ~ん!

 アタシが聞くと若様は一つ一つ、魔法の工程を見せてくれた。蝶の羽に角度つけたようなものがプロペラね。これを回転させることで風をつかんで宙に浮く、なるほど。


 風属性の魔法を使わず基礎級だけで風を利用するなんてすごい発想!


 でもこれってどう利用するんだろう?

 

 すると宙に浮いていたプロペラが急降下して地面に激突した。


[ドッ!]という音と土埃が舞う。

 

 落ちたところにはこぶし大の穴が深く空いていた。プロペラはというと氷柱状になっていた。若様によると、高速回転を逆向きにして急降下、回転率を上げたことと、急降下で水の温度が下がって、水と風の複合属性魔法、氷と同じ効果が得られるらしい。なるほど。

 

 う~ん……これは聞いてよかったのかしら? 水の基礎級だけで【対魔級魔法】に相当する複合魔法を生むなんて、秘術なのでは?


 魔法の等級は魔導士の実力の指標。


 基礎級―対人級―対魔級―対軍級―対界級。


 この順でより高い等級の魔法を使える人ほど有能とされる。


 でも若様の説明だと〈基礎級〉しか使えない人が〈対魔級〉を扱えることになっちゃうよね? しかも複合魔法なんて高等魔法なんだし。もしかして秘密にするとか考えがない?


「さぁ? 父上は特に何も。魔導士は父上を含めて二人しかあったことが無いんです。だから魔導士の常識とかぼくに聞かれてもよく知りません。これはまあ気が付けば誰でもできるので使っている人もいるんじゃないですか? ローレルにも教えましょうか?」

「やった~! お願いします、先生!」


 こうして馬術の時間にアタシが魔法を教わることになった。何か忘れてる気がするけど多分大丈夫だよね!

 

「ローレル! 貴様おれに偉そうなこと言っておいて自分も若様に教わってるじゃないか!」

 

 スパロウに見つかってしまった。ちぃ……! 

 こうして二人仲良く、授業の合間に若様に魔法を教わることになった。こっそりね。

 

 すぐ団長にバレたけど。


◆駐屯騎士団 団長 エルゴン・スペイド・ピット


 ヒースクリフ殿が養子を迎えた子供、ロイド君と言ったか。あのローレルが珍しく褒めていた。奴は適当に社交辞令を使うことが多いが、今回はそうではないらしい。剣術の才能は無いらしいが直向きに修練を重ねているとスパロウの評価も高い。これは一度会っておく必要がありそうだ。

 

 上の二人はダメだ。この領地を継ぐことはさせられない。どうしてヒースクリフ殿の息子がああまで病的な性格に育ったのか、もはや本当に彼の血が入っているのか疑わしいほどだ。

 もしロイド君に才覚があるのなら、早めに挨拶に行き、縁を築いておかなければ。養子が優秀な成果を上げれば……奥方が黙っていないだろう。あの人は感情的に動くことが多いからな。私が後ろ盾の一人になれれば、少しは歯止めになるはず。さすがに騎士団長が気にかけている中、大胆な行動には出られまい。そうと決まればまずヒースクリフ殿に打診せねば。


 そんなことを思っていたら、ローレルとスパロウはロイド君から魔法の手ほどきを受けていると発覚した。ここのところ二人の戦いが変わったのでおかしいと思い観察していたところ、訓練中スパロウがおかしな魔法を使ったのがきっかけだ。


 スパロウが扱えるのは土の〈基礎級〉のみ。魔剣には火属性の魔石が埋め込まれており、その火の制御だけならできる。今までは魔剣に火を纏わせ攻撃、土魔法で目くらまし、防御をしていた。


 ところがスパロウが見せたのは、土魔法を魔剣の鍔に纏わせる、一見無駄にも思える魔法だった。しかし鍔に纏わせた砂が鍔の周りで激しく回転していた。すると魔剣の発する火力が増し、『炎の槍』となって放出されたのだ。本来これは火と風の〈対魔級〉複合魔法のはずだ。

 

 それに対しローレルも水魔法を風の魔剣に纏わせた。

 

 基礎級しか扱えないローレルの水魔法では『炎の槍』は止められないはず。だがローレルは剣の先に『成水』で生み出した水で模った蝶のような盾をつけた。炎に対し小さいそれは役に立ちそうもない。

 

 だが次の一瞬ローレルを見失った。後方へ高速でバックステップしたのだ。そしてそのまま剣を地面に向けると高く飛び上がった。


 風魔法の〈対魔級〉『風の舞踏』か?


 風の魔剣で風を起こせても空は飛べなかったはず。しかしローレルが剣を向けるとそこから風が巻き起こり自在に空を舞った。

 

 二人を問いただすと、ロイド君が編み出したプロペラなる羽の形にすることで、土魔法『流砂』が風を生み、炎を大きく、水魔法『水流』は風の魔剣の生む風ををさらに大きくしたのだという。

 

「このプロペラなる術は秘匿されるべき革新的術だ。ヒースクリフ殿になんと言えば……」



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新作です。よろしければこちらもお読み下さい
『ゾンビにされたので終活します × 死神辞めたので人間やります』
― 新着の感想 ―
[良い点] まだ途中ですが、とても面白いです。 読んでいて疑問に思ったところを、主人公がしっかり自分でツッコミを入れてくれるので、不快になりません。 応援してます。
2020/03/27 00:10 退会済み
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