第二話 その森、奇々怪々にて―――未知なる暗黒
しばらく森での話が続きます。
2019/5/25 やや加筆&修正しました!
神聖暦八紀221年、おれは迷宮を脱出した。
あとは森を抜けて王都に帰るだけだ。
一時は死を覚悟したが、今は希望に満ちている。
「それにしても、この森はどの辺りだ? 迷宮周辺にしては……」
先ほどからおれに向かってくる魔獣が、やけに強い。
もう何体討伐したかわからないが、とにかく魔獣が多い。
雷魔法、思考強化、身体能力強化、自己再生を習得したおれには脅威とまではいかないが、ちょっとビックリする。ちょっとだけ。
[ジェアアッ!!]
「ふぉおおう!?」
すさまじいスピードで何かが飛んできた。
白い大きな塊をおれは寸前で回避。
魔獣の姿を確認して、またもや心臓の鼓動が早まった。
「おたく……まさか、フラッシュラビットですか?」
それにしては、でかい。通常サイズが普通のウサギくらいなのに、こっちはイノシシぐらいある。
[[[[ジャジャジャアアッ!!]]]]
囲まれ、一斉に襲われた。
通常なら『風の盾』で吹き飛ばせるが、こいつらには通用しそうにない。同様にこの森の魔獣には総じてセオリーが通じない。
「セイ、ハッ!! セイやっ!!」
だとしても迷宮でギドラを討伐した後だ。
今は体調も万全。
『風圧』による高速運動で、剣を振るう。
憎たらしいルーサーの剣はおれの銅甲冑を貫いただけあって良く斬れる。
「チッ、憎たらしい。だがおれを殺すための剣が生かすことになるとは、皮肉だな」
敵を屠り終わった。
しかし、これは前哨戦のようで、戦えば戦うほどの他の魔獣がやって来た。
入れ食い状態。
誰か順番待ちの案内でもしているのだろうか?
「はぁはぁはぁ……なぜおれがこんな人気者に?」
討伐回数を重ねるごとに逆にこの森が不気味に思えてきた。
「なんでスパルタンベアがあんなに小さくて速いんだ? スパイダーブルは音もなく上から降ってくるし、イビルアイウルフが眼に頼らず群れで襲って来るし……」
迷宮脱出の解放感。
それが今は状況分析の妨げになっている。
「やはり異常。なんだ? ここは、なんなんだ?」
『記憶の神殿』に答えを求めても、こんな森はパラノーツ王国内にはない。だとすれば今まで見つかっていない秘境、未開の地ということになる。
「ん? あれ、ここはさっき通ったか」
方向感覚が狂う鬱蒼とした森の中で迷ってしまった。道に迷うなんていつ以来だろう。
そうしているうちに闇が濃くなりやがて真っ暗になった。
暗闇が随分苦手になった。
迷宮の奈落を思い出す。
そんなおれの不安を嗅ぎつけたかのように、音もなく巨大な影が忍び寄って来た。
「んん?」
[ゴォギャアアアアアキイイイイッ!!!]
偶然振り向いて目が合ったそれは、正に正体不明。
おれの心臓がギドラと相対した時と同じように高鳴り、耳に鬱陶しい。
黒い、というより闇を思わせる体毛。鋭い牙、爪を持つ四足獣。体長が2トントラックぐらいはある。確実に身体強化魔法を使っている。
迫りくる爪を剣でとっさに捌き、距離を取って魔法で攻撃しようとした。
「……あれ?!! なんだ、クソ!? レジストされただと?」
『風圧』がレジストされたのか、魔法が発動せず、体当たりを食らった。
「ガッハッ!!!!」
身をよじって直撃を避けたにも関わらず大ダメージを受けた。体毛がまるで鉄の束のように固く、鉄骨に叩きつけられたような衝撃だった。
意識が昏倒し、動けなくなる―――そう直感し、おれは起きるよりも魔法の発動を優先させた。ゴロゴロと転がりながら、今度は『火炎』の発動を試みる。
失敗、それに備えて『石棺』も発動させようとしたが失敗。
岩にぶつかり、意識が昏倒、動けない。
だが寝てはいられない。
おれは気合で立ち上がり、追撃を躱した。
接近した相手に再び魔法を試みた。
「……はぁはぁ、クソ、やっぱりだめか……!」
なぜだか魔法が発動しない。レジストされている。
雷魔法もレジストされた。パスに干渉して魔力供給を遮る、または魔法ごと奪うためには対象魔法の属性を合わせなければならない。つまりこの魔獣は、おれと同じく全属性を扱えるということになる。しかも、魔力量もおれより上で、発動スピードもおれより上。
「こんな魔獣がいるなんて……! ぎゃッ!!」
おれは残された唯一の武器である剣を構えるが、暗闇の中、片目だけで、魔法が使えずに戦えるわけも無く暗黒魔獣になぶられた。
地面をゴロゴロと転がされ、木にたたきつけられ、完全に遊ばれた。
だが、絶体絶命ではない。
「この程度、あの時に比べれば……!!」
魔力量で負けているなら、魔力操作で勝負すればいいのだ。
おれは同時発動の魔法を二つ、三つと徐々に増やしていった。体の近くで発動させるものはまとめてレジストされるため、暗黒魔獣を囲うように前後左右に魔法を発動させた。
おれは何度目かの魔法の行使でようやく発動に成功した。
(よし!!)
成功したのは五つ目の魔法。つまり常に五つの魔法を発動し続ければ、五つの内、いずれかの魔法で反撃できる。
おれが選んだ属性は光。
[ぎゃうう!!!?]
五つ同時に『閃光』を発動させ、内一つが視界を奪った。しかしそれもすぐにレジストされてしまったのか、パスが掻き消えた。眼は見えていないはずなのだが。
(視覚的に発動の兆候を捉えているのではない? なら発動スピードで上回ってるわけじゃないのか? 魔法が完成する前に魔力を知覚してレジストしている。魔力を知覚する器官があるのか?)
つまり、視界を奪ってもレジストは続く。しかし、『閃光』が決まった時点でおれの勝利は決まっていた。
「所詮は獣だな!」
おれは眼の潰れた暗黒魔獣と『風圧』で一気に距離を取った。
離れた場所で発動された魔法に対しレジストする対応が遅いことから、距離的制約があるのは明らかだ。
距離を取ればおれの勝ちだ。
「グォオオオン!!」
暗黒魔獣はすさまじい速度でおれを追いかけてくるが、こういう追い詰められ方は初めてではない。距離を詰められた分だけ『風圧』で距離を取る。やがて、あきらめたのか暗黒魔獣が動きを止める。
「これで勘弁してやる」とでも言いたげな去り際だ。
だが、おれが逃がしてやらない。
光魔法『発光』→『光彩』でマイクロ波を用意する。これは対魔級の新たな魔法と言ってもいいだろう。
『光線』とおれは名づけた。
百メートル以上離れている標的に向けて指向性のある『光線』を発動。
「焼け死ね」
[ギッ!!!? グォォォォォォォ―――]
ジジジ、という音と共に、暗闇の中を不可視のマイクロ波が暗黒魔獣に到達する。
暗黒魔獣は悲鳴を上げながらもがき、逃走するが、身体から放たれた蒸気で位置は分かる。遮蔽物に身を隠そうとも、この魔法からは逃れられない。
時間にして三十秒。
暗黒魔獣は体から蒸気を出しながら絶命した。
「おお……えげつないな……」
自分でやっておいてなんだが、ここまでの威力になるとは思わなかった。かなり魔力を消費させられた分、相応の威力と言える。
(本当に人には使わないでおこう……)
例え敵でもこれを使うと戦いではなくなってしまう。この『光線』は眼に見えず、当然光の速さで攻撃が決まる。しかも隠れても遮蔽物を透過するからおれが発見した時点で絶対勝ててしまう。
引き返して加熱された暗黒魔獣の元に着いた。
「やはりおれの知らない魔獣だ。魔獣がレジストするのも聞いたことが無いし」
考えたが知らないことは知りようがない。
ともかく、今は身体を休ませる必要がある。
うまそうな肉の匂いがした。せっかくなのでおれはその場で火を起こして野宿がてら、食事にした。傷の治療用に薬草も採って傷を消毒した後、慣れない巨獣の解体に苦戦しながらなんとか一部の肉をこしらえることができた。
「ん……うまいな。少し癖があるし、鉄っぽさがあるけど脂が乗っている焼き鳥みたいな食感だな。血を流したしちょうどいい」
食料なら六頭竜の尻尾肉がまだあるが、持ち運べる量は限られている。それに神気の回復ができない以上、その肉の治癒効果が貴重だ。瀕死にでもならない限り使うべきでは無い。
おれはおなか一杯になるまで食べ、眠りにつこうとする。
眼を閉じる。
中々寝付けない。
「迷宮に入って、もうすぐ八日目か」
今頃、捜索されているかと思うと申し訳ない。しかし、携帯の無いこの世界で今、自分の無事を伝える方法は思いつかない。
「奴らは今頃おれが死んだと報告しているはず……皆どんな顔してるかな。姫様とヴィオラは……」
(姫様は気丈に振舞われるだろうが優しい子だ。心配を掛けまいと隠れて悲嘆に暮れている姿が目に浮かぶ。
ヴィオラも心配だ。下種たちがおれの死で横暴を働くのは想像に難くない。一介のメイドである彼女が、もしあいつらの餌食にでもなっていたら―――)
「だめだ、寝てなんていられない!! ああああ、くそ、なんで星が出てないんだ! 方角もわからない! この魔獣は図鑑に載っていなかったし、一体ここはパラノーツからどれだけ離れているんだ!」
問いかけは闇夜に吸い込まれ誰の応えも返っては来ない。
体力、魔力を消費して夜の森で叫ぶというのは自殺行為にも等しいが、そうせずにはいられなかった。
居てもたってもいられずに暗い森の中をさまよい歩く。フラフラで危険なのはわかっていたが何もしないことが辛すぎる。
どれくらい経っただろうか。ふと、何かの気配を感じた。
「水の音がする」
河なら下降に歩いていけばどこかに出る。そう考え水の音の方へ駆けた。
「ここは…泉か…?」
おれは『発光』で様子を確認した。
その時―――
《☆▽*@〇!!》
光の下に姿を現したのは泉だけでなかった。
泉の中には女がいた。
月桂冠を乗せた長髪の女。なぜか服を着たまま泉の中央にいる。入水自殺というわけでもなさそうだ。泉の底が浅いのか女の膝下までしか浸かっていない。
突然の光に驚きながらこちらに向かって何か叫んだ。怒っているようだ。しかしおれは会話を試みた。
(人がいるなら、助かる!!)
その考えが先行しておかしな状況には思考が及ばなかった。
(この言葉に聞き覚えは無い。古代言語5:バルト語3ぐらいのイントネーションと発音だな)
つまり何を言っているのか意味不明だ。専ら身振り手振りで悪意が無いことを伝えながら微笑み、ゆっくりと近づこうとした。
微笑みは敵意が無いという原始的意思表明だ。
「大丈夫、何もしないから、落ち着いて……」
[ドゴッ!!]
頭に鈍痛を感じながらおれは大地とキスして、意識を失った。
2018/09/25
『色彩』を『光彩』に変更しました。




