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第十八話《改稿版》 一角獣


自己再生(リカバリー)』により、身体の回復に成功したロイドは休眠から覚め、行動を始めていた。


「・・・・」


 ロイドは悩んでいた。

 道は三つ。

 上か左右どちらかだ。


「上は無理だな」


 回復した魔力で『風の舞踏(ホバーヴェント)』を発動させれば飛べるが、暗黒では飛べないので光魔法を同時に使わなければならない。途中魔力が切れれば今度は死を免れないだろう。


「となれば左右どちらか・・・・」


 どちらも似たような岩に囲まれた洞穴だ。

 ロイドはとりあえず、片方の道を進んで様子を見た。


「はぁ、はぁ、はぁ、これ以上体力を消耗するのは危険か、先に進むのが危険か・・・」


 水は『成水(アクア)』で確保できるが、水だけでは生きられない。

 脱出するまで体力が持つか、時は一刻を争う状況。それでも焦らず冷静に対処し判断を誤ることは絶対に避けなければならない。

 しかし、その判断を妨げるように、ロイドを頭痛と吐き気が襲っていた。『思考強化(リミットレス)』時の負荷。


「これが思考強化の影響か・・・これは本当に最後の最後まで使わない方が良さそうだ」



 その時の記憶、どうやって『自己再生(リカバリー)』したのかを神殿で探っても何のことやら意味不明。医学書を英語で読んでいるような気分で何の参考にもならない。

 

(今はとにかく周囲の情報を確保して脱出につながる手がかりを・・・・・・)


 ここに迷宮魔獣が出てこない以上、どこか特別な階層であることは察していた。しかしロイドは自分が99階層まで落ちていることを知らなかった。迷宮で発見される便利な魔導具の類は大抵秘密の部屋や、隠し通路の先にある。ここにも何かある可能性は高い。





「はぁはぁはぁ、ん? これは・・・」


 巨大な扉がある広い空間に出た。

 そこはそれまでのただの岩の洞穴ではなく白い石を積み重ねた構造物になっていた。おびただしい数の石柱とそこに刻まれた文字からこれが何らかの魔法により維持されていることがわかる。しかし、あるのはその扉だけ。


「出口って感じじゃなさそうだな」


 近づいて見てみるとその扉の表面にも膨大な魔法陣と文字が刻まれている。


「この迷宮のボスだったりして・・・ハハ・・」


 扉の奥になにがあるのか想像しつつも、『岩の鎚(ロックハンマー)』を使って慎重に扉を開ける。不用意に触れれば何か魔法が発動しそうだし、そもそも腕力では開けられそうになかったからだ。

 無事扉を開けると、さらに広い空間に光る透明な鉱石が自然物とは思えないくらいしっかりと組み合わさり円形の闘技場のように部屋を象っていた。


 そしてその闘技場の中央。



[ギィィ、ギャアアアアアスッ!!!!!]


 

 そこには巨大な六頭を一つの胴に持つドラゴンが鎮座し首だけを向けて侵入者を歓迎した。


「うぁぁぁぁぁぁ!!」


 直ちにロイドは反転、撤退。

 扉の外に出た。


「ギドラだ・・・」


 ロイドの悪い予感は的中していた。そこは迷宮最深部の守護者のいる部屋にして終着地点。

 

 六頭竜を倒さなければ攻略とはならない。そしてこの六頭竜さえ倒せば迷宮から脱出できる。と、ロイドが推測に至るには十分だった。なぜなら、六頭竜の背後にまた扉が見えたからだ。


「ボスを倒して攻略、脱出か。本当に何なんだ迷宮って。まるでゲームだ」


 



 ロイドに悩んでいる暇はない。


「よし・・・・・・行くぞ!!」


 作戦を練り、シミュレーションを繰り返し、覚悟を決めて再び中へと入った。


[ギャシャア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!]


 その瞬間に、六頭の口からそれぞれ魔法によるブレスが放たれた。

 それぞれが対魔級魔法の破壊力を有し、合わさればもはや対軍級。

 


「ぐぅ・・・・おおおッ!!」 


(今の状態ではきつい・・・!!)


 初めから『風圧(ウィンドプレス)』による回避を準備していたロイドは部屋の外まで魔法による牽制をしながら脱出した。


「!!」

 

 六頭竜の鱗はロイドが牽制で放った『風の刃(ソードヴェント)』を弾き返した。


「クッソぉおお!!」

 

 現在使えるのは魔法だけ。体の動きに冴えは無い。六頭もの魔法攻撃を避けるには魔法による回避が不可欠。その中で魔法による攻撃もしなければならない。その魔法も跳ね返される。


 ロイドの消耗と関係なく、六頭竜の能力がロイドの戦闘スタイルと相性が悪いもは明らかだった。


・六頭それぞれに属性魔法――光(熱)、火(火炎)、水(水流)、氷(氷結)、風(風切)、土(岩礫)―――を具える

・巨体を覆う鱗は魔法を反射する

・尻尾、巨体、長い首が全て当たれば即死級の重量


 たまらずロイドは入口の外へ全力で逃げた。


「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・どうすればいい・・・」


 様子見によって情報は引き出したが、絶望的な状況だ。

 

 そもそもここは誰かを通すようにはできていないように思えた。

 普通にここまで来るには食料が足りない。

 来られたとしても人数が限られる。

 持ち運べる物資には限界がある。

 

 だがこの部屋の六頭竜は『鬼門/気門法』を使える戦士が数名いて、魔法をレジストする魔導士が何人も交代しながら戦わなければ倒せない。


 少人数では絶対倒せない怪物なのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、これじゃ魔力より先に体力が尽きる」


 現状ロイドの手持ちの戦力は魔法による攻撃以外では、聖銅(オリハルコン)の剣―――ロイドを刺すために使われたルーサーの剣だけだ。ここまで身体を支える杖として持ってきたが、この魔力を通さない剣を活用できないかを考えていた。


(おれでは刺すことも出来なさそうだ。せめて、身体強化ができれば・・・)


 その時、ロイドの疲労した脳は一つのイメージを絞り出した。


「そうだ!!」



(雷魔法、思考強化の他に試していないことがあるじゃないか!)


 

 勝算は全て、〈魔術三大難問〉にあった。





 

 まず『思考強化(リミットレス)』の準備だな。

 

 おれは光魔法『光彩(ブライトカラー)』で光の波長を変え、マイクロ波を創り出した。

 

 これは料理を温めるのに便利そうだな。人には絶対当てないようにしよう。

 

 次に鎧の破片に当ててスパークしたところにパスをつなげる。あらかじめパスを準備しておくのがコツだ。

 

 よし、これで雷魔法の基礎級は出来た。

 『紫電(ライトニング)』と呼ぼう。

 

 この電流を頭に流して電気信号と同期、信号の操作をする。


「・・・・キタ、キタ、キタぁ―――!!!!」


 ふう、よし。思考強化の影響だろうか、アドレナリンの大量分泌で興奮気味だ。

 時間も限られているから、速攻で倒す!

 といってもこの状態だと周りの時間がゆっくりに見える。実際のリミットが数分でも、思ったより時間はありそうだ。


 魔力残量 70%

 体力 17%

 思考強化 残り180秒


 おれは三度、六頭竜の部屋へ足を踏み入れる。


[[[[[[[ギィィアアアア!!]]]]]]]


 このギドラモドキめ!

 このおれにパワープレイが通用すると思うなよ!

 と言いつつ、パワー大事。

 やはり力こそパワーだ!


 おれのパワーを上げるには身体強化が必要だ。だがそれにはパワーアシストをする何かが必要。しかし今甲冑はない。


 なら魔力で作ればいいじゃない!

 ということで、魔力で魔力に干渉してその性質を変化させる。イメージするのは柔軟性があり、伸縮自在の筋肉。

 

 おれは魔力の圧縮を何度か繰り返し、手探りで性質の付与を繰り返した。当然一度や二度の試みで成功はしない。というかめちゃくちゃ失敗した。


 おっと、難しいな。初の試みだからな。そう簡単には出来ないか。なら同時に十パターンずつ試す!

 この思考強化状態なら並列思考もラクチンだ。


 失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗 失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗 失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗、失敗

――――――――――――アプローチを変えよう。


 この間数秒ぐらい経った。その間、実に68回失敗してしまった。

 

 これ以上は魔力がもったいないし、一気に目的のものを生み出すことをあきらめて、段階を踏もう。少し、ギドラモドキが近づいてきたけど、落ち着いてやればいける。


 まずは魔力に物質的性質を持たせることから始めた。

 

 眼に見えない魔力を集中圧縮、そして魔力で干渉。


 失敗、失敗、失敗―――成功!


 だんだんとコツがつかめてきたぞ。

 よーし、これをさらに柔軟性を持つように変化だ。


 失敗、―――成功!


 最後に伸縮を自在にできるように調整。


 調整、調整、調整、調整、調整、調整―――完了!


 よし、これを全身に、纏うイメージで創ればいいかな。

 



 これは『魔装(マテリアルアーマー)』と名付けよう。

 

 

 想像から数十秒で新たな魔法を生み出した。しかも敵の目の前でだ。

 

 並列思考で問題点、実用スタイル、戦闘スタイルも合わせて決めていこう。抜け目なく完璧な状態で挑みたい。

 

 〈記憶の神殿〉内で並列化したそれぞれの思考が別々のおれになって議論する。さっさと終わらせよう。敵はまだ目の前だ。


「筋肉の動きを妨げないようにバランスが重要だ。解剖学の資料を参考にしよう」

「腕、脚、肩、胸、背中、腹、首セット完了」

「手首、足首、各指もだ」

「このスタイルから最適な剣術を割り出そう」

「速く、鋭い剣ならばマイヤ6:ローレル2:オリヴィア2でいこう」

「この状態で戦えるのは1分少々だ。カウント始めた方がいいぞ」

「よし、弱点が分かった。尻尾から攻めるぞ。あれを切り落とせばバランスを失う」

「冷血動物なら、『氷結(フリージング)』で動きが鈍くなるんじゃないか?」

「いや、短期戦だし、魔力は残り少ない。トドメの雷魔法の為に温存しておくべきだ」

「よーし、思考統一して、戦闘に備えるぞ」


 おお、並列をやめると、時間の流れがさらに遅く感じるな。


[ギャアアアアァァッ!]


 ん? ブレスか!? マズい!!


 炎が迫り、水流が降りかかり、岩の塊が撃ちだされ、氷が覆い、熱線が照射され、風の刃が飛んできた。


 六頭竜の六つの頭から各属性の放出系魔法(ブレス)が繰り出された。余程巨大な魔石があるのか、通常ではありえない規模の魔法を連続して放ってくる。なんとも厄介な相手だ。しかし、魔法の放つ兆候を見て、『魔装(マテリアルアーマー)』で加速し回避した。


 ふぅ、よし、次のブレスまで間があるな。今は数秒が数十秒に感じる。

 

 魔法による攻撃から攻撃のタメ時間におれは背後へ抜けて尻尾に狙いを定めた。『魔装(マテリアルアーマー)』の伸縮を操作しつつ、風圧の勢いを重ねておれは尻尾に突撃した。


「ツェエエエエイッ!!!」


 ん?なんだ、ヤバイ、う、うわああ、マズ・・・。


[ガキィィィィンンンン――――!!!]


 勢いよく飛び出したおれは違和感を感じて思い切れず、そのまま剣で尻尾を殴って弾かれた。鱗は魔法を反射するだけでなくとてつもなく堅い鉱物のようだ。


「つぁぁ!・・・・ぐうう、失敗か!!」


 なるほど、想定していたよりも早く動けた分、剣筋が乱れたか。いつもと違う動きに加えて、力の込め方が難しいんだ。数をこなせば問題なさそうだが・・・そうも言ってはいられない。


 練習なしのぶっつけ本番で、問題が出ないはずがない。しかし、問題については思考強化で想定しているつもりだった。その想定よりも実際にやるのは難しかった。なんせ、騙し騙し身体を動かしているがこの四日、水しか飲んでいないのだ。まだ手に力が入ると言っても思い通りできるというわけではない。

 それでも刃筋が通ればこの聖銅(オリハルコン)の剣は大抵のものは斬れるはず。パワーは必要だが、パワーで生み出すのはスピード、速さだ。剣の振りにスピードを加算すればいいのだ。


 おれは態勢を立て直して再度挑戦しようとした。

 

「こんのぉぉぉぉ!!!」


[ギャギ!! ギャス!!]


 うぉ、尻尾、あぶねぇ! この巨体でなんでこうも早く動けるんだ?『風圧(ウィンドプレス)』発動!避けろ、避けろ、避けろ―――!!!!


[ボォッウ!]


 アブね、かすった・・・


 死を感じて、全身から嫌な汗がブワッっと噴き出た。


 これは、・・・見えて反応出来ていても、体が動き出すのが遅い。頭の回転が速くなっても身体の反応の限界は越えられない。反応が遅ければ『魔装(マテリアルアーマー)』を生かしきれないばかりか、イメージした動きとの齟齬が発生して思考と動きがちぐはぐになってしまう。


 となれば・・・どうする?


 おれは解決策を並列思考で模索した。なおも非常識に、型破りにも敵の前で。


「思考速度を速くできたように、反応速度も速くできるんじゃないか?」

「全身の神経に干渉したらさすがに処理しきれないだろう。制御を誤れば取返しの付かないダメージが残るぞ」

「『魔装(マテリアルアーマー)』の制御を身体の動きと連動させるには集中力が必要だ。この興奮状態はダメだ。心を落ち着かせて、得意な構えで、慣れた型を使った方がいい」


 意識を集中しても『風圧(ウィンドプレス)』と『魔装(マテリアルアーマー)』を発動しながらの剣は迷いが出る。金属の棒で叩いているのと同じだ。

 ならば、剣を振る間この二つは使わないと決めた。 おれの純粋な剣術でできるかはわからないが、刃筋を通すことさえできればいいのだ。それに必要なのはパワーでもスピードでもない。経験だ。不得意だった剣にここまで頼らねばならないとは思いもしなかったが、これでももう7年剣を振っている。得意な型もある。

 自信の無い中、そう自分に言い聞かせて、一か八かの攻撃に全てを賭けた。

 

 プランはこうだ。


 攻撃回避→

 背後に回り込む→

 尻尾を斬りつける→

 刃が通った瞬間『風圧(ウィンドプレス)』・『魔装(マテリアルアーマー)』で一気に両断


 これで、無理だったら・・・


[ギャァァァァァグォァァァス!!!!]


 あれこれ考えている間に、放出系魔法(ブレス)が飛んできた。



 『岩礫(ロック)』、『水流(ストリーム)』を『風圧(ウィンドプレス)』で回避。同時に水にパスを通し水魔法の準備。

 


 『風切(エアカッター)』は『岩礫(ロック)』を盾にして防御!

 『火炎(フレイム)』は『水の盾(シールドレイネイジ)』で相殺!火種にパスを通して火魔法の準備。

 

 

 『氷結(フリージング)』は『火炎(フレイム)』で相殺!冷気にパスを通して氷魔法の準備。

 


 『熱線(レッドレイ)』は『氷の盾(シールドアイス)』で反射!


「時間が無いんだよ!! いつまでも撃ってんじゃねぇ!!」


 攻撃によって変化する環境を利用して、適応して対処できるのは思考強化があるからだ。判断を一つ間違えれば即死。

 間髪入れず続く攻撃。

 すでにこの時タイムリミットは迫っていた。それがおれを焦らせる。


 魔力残量 19%

 体力 10%以下

 思考強化 残り10秒


 六つの攻撃の照準が定まらないようにジグザグに接近して、攻撃で生じた魔法を利用して相殺、無力化を繰り返して『風圧(ウィンドプレス)』で一息に背後に回り込む。

 その時点で尻尾が反応してこちらに向かってくる。


魔装(マテリアルアーマー)』解除。

 並列思考解除。

 

 タイミングが合わなければ吹き飛ばされて終了。


 巨大な塊―――例えるなら、列車が一車両分こちらに吹き飛んできているような圧。

 それに立ち向かうのは生理的反応に逆らう行為だ。それは独特な緊張感を生んだ。

 おれは前世でジェットコースターに乗った日のことを思い出した。山のてっぺんで落ちるのを待っている時の緊張感・・・・ではない。その日の夜、ガードの無い状態で急降下する夢を見た時の感覚に近かった。こちらの都合を考えてくれない“死”が迫る恐怖だとか、結構いろいろなことを思い出した。なにこれ?


 走馬燈・・・?


 身体は無意識に反応していた。やることは決めてある。おれは踏み込んで、迫りくる巨大な尻尾を掻い潜りながら上段で構えた剣の刃を正確に斬り込んだ。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


[[[[[[ギィイ!?]]]]]]


 ズドォォォォォンッ!!!!!!


 接触の瞬間、おれは『魔装(マテリアルアーマー)』を纏い、その伸縮の力でさらに刃を深く突き入れた。そこへ『風圧(ウィンドプレス)』を発動させ、身体ごと突き抜けた。


「・・・・・・・・・・・はぁ、はぁ、はぁ、できたな」


 手に残る確かな手ごたえの結果が背後に落下し、部屋の壁際まで吹き飛んでいく。

 

 手が震えている。達成感なのか重い物を斬った衝撃によるものかはわからない。剣、『魔装(マテリアルアーマー)』、『風圧(ウィンドプレス)』の淀みない連動。それを成したことへの感動だろうか。

 

 ハハ、これをおれがやったとは、マイヤ卿やオリヴィアにも見せてやりたい。

 

 振りぬいた勢いで剣が地面の石畳に深く突き刺さっている。

 そして尻尾は両断できた。


[[[[[[ギィィィィ]]]]]]


 思った通り、巨体のバランスを保っていた尻尾が無くなって立てずに地面に伏している。その状態で首をこちらに向けて放出系魔法を撃とうとするがすでにこちらは準備を終えている。


「これで、終わりだ!」


 さすがに肉の断面は無防備だろう。


「『紫電(ライトニング)』!」


[[[[[[ギィイギィギギギギギギギ!!!]]]]]]


 思考強化の際の『紫電(ライトニング)』とは全く性質が異なる、魔力を込められるだけ込めた電撃だ。電撃は尻尾の切断面を伝って全身を焼き焦がし、プスプスと煙を上げさせた。


「はぁ、はぁ、はぁ、どうだ・・・残りの魔力を全て込めた雷魔法だ。どうだ!!」


 もうおれには何も残ってない。

 立っているのも無理だ。


 おれは事の顛末を見る前にその場に倒れ込んだ。


[[[[[[[・・・]]]]]]]


 


[ドシュ・・・・ドッスン!!!!]


 巨大な何かが落ちた衝撃を地面越しに身体全体で感じて、頭だけ上げてみると、六頭竜は消えて、巨大な赤い魔石だけがそこにはあった。軽自動車程の半透明な赤い石が地面に横たわっていた。


「・・・六頭竜が・・・消えた。ということは・・・」


 おれの勝ちだ・・・・!


 魔力残量 1%未満

 体力 5%

 思考強化 継続不可


「ぐ、ううぁぁあ!!!」


 魔力・・・思考強化の限界か・・・頭が割れる・・・


 あの扉の先に出口がある。もう少しなんだ。・・・だめだ、体も言うことを聞かない・・・


「そ、んな、ここま、で来て・・・全て無駄、だったのか・・・・」


 あと、20メートルか、200メートルなのか分からない。でも這ってでも進まなければ・・・


「うう、はぁ、はぁ、は、あああ・・・・」


 もうだめだ。


 おれは戦いに勝利した。


 しかし、精魂使い果たし意識を手放した。





《――――――――》


 どれくらい経ったのかはたまた経ってないのか、声が聞こえたような気がした。


 よく聞き取れない。


《――――#*@\&》


 は?日本語でOK?


 いや、日本語なわけないか。でもどこかで聞いたような・・・


《我が戒め解きしは誰ぞ?》


 これは、古代言語・・・?


 ふと、声の先を見上げるとそこには赤い肌の紫の眼を光らせた巨人がいた。


《童ここへ至りしは何故たるや?》


《助けて・・・》


 おれは古代言語を絞り出して助けを求めた。



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