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6.神童(新)


 豪華な屋敷に、ふかふかのベッド、栄養バランスの整った食事、読み放題の膨大な図書。

 おまけに専属メイドさんはかわいい。


 赤毛のヴィオラというメイドだ。

 まだ十五歳ぐらいだろうけど、彼女は将来美人になるだろう。

 お屋敷のメイドとはもっと堅苦しい、無表情の人達だと思っていたけど、彼女の顔は実に雄弁だ。

 正直で話しやすい。


 そんな彼女はおれのここでの暮らしを心配している。


 確かに、ベス、フューレ、ブランドンの三人は異常な精神を持っている。

 

 三人はおれの顔を見れば口汚く罵り、時には暴力に訴えることもあった。


 そんなジメっとしたシーンを語ってもつまらないから割愛しよう。二人の義兄弟は学院を落第したため、すぐに王都に戻ったし、ベスのヒステリーは耳障りだが、長年パワハラを受けていたおれには耐性があるのでどうということは無い。


 そんなことよりも、少し自慢話に付き合って欲しい。


 おれはこの世界に来て、ようやくまともに教育を受けられることになった。

 ヒースクリフがおれに家庭教師たちを付けてくれたのだ。ありがとう父上!!


 それで気が付いたのだが、おれは、と言うかこのロイド少年は元から頭がいいのかもしれない。


 とにかく、知識の吸収するスピードが尋常じゃなかった。



「素晴らしい!! 書式、文法、内容全て完璧でございますよ、坊ちゃま!!」


 興奮気味におれをべた褒めしてくれているのは家庭教師。

 

 おれも最初は驚いた。

 先生が文字を書いているのを見ていたら、すぐにできた。一発だ。


 今まで書く代わりに『記憶の神殿』に記憶することが習慣になっていたからか、先生のペンの運び、抑揚のつけ方、クセまで、完璧に記憶できた。それだけでなく、それを自分で再現できたのだ。


『記憶の神殿』は大げさな言い方をしているだけで、ただの記憶法のはずだ。それに記憶が完璧だからって、再現もできるものではない。


 元々が器用なのかもしれない。


 貴族のルール満載の定型句や言い回しを一通り教わり、算術、歴史、マナー、一般教養まで様々なことを教えられた。


「あの、坊ちゃま? ここまではまだ教えていませんが?」


 元々の知識に加え、おれは屋敷にある本をとにかく貪り食うように読んでいった。

 さらに驚いたのは、一回読んだ本を完璧に記憶できていることだ。

 完全記憶というやつだ。

 本の内容という複雑で膨大な情報も、集中すると正確に引き出せる。


 二か月もしたら大抵の本は読みつくし、基本的な座学は吸収し切った。

 

 前は暗記するだけでも全然要領悪かったのに、ここまで効率がいい脳みそなのは、やはり元々の才能なんだろう。


 おかげで毎回の授業は基礎から応用、実践へとシフトしていった。


「坊ちゃま、ここは!? この問題はさすがにわからないでしょう? ね!!?」

「……わ、わからなーい」


 教わることが無いと家庭教師はいらなくなる。

 わざわざ来てもらっているのに、二か月でお役御免とするのは申し訳ない。それにちょっとムキになった先生たちが怖いので子供らしく授業を受け続けた。


「坊ちゃまはすごいですね~。私には何のお話をされているのかサッパリです」

「どれも形式的な手続きとか、法の解釈とか普通に生きてたら必要の無い知識だよ」

「でも、坊ちゃまには将来必要なのですよね? それぐらいは私にもわかります」


 元々勉強は好きでも嫌いでも無かった。

 でも、ここで頑張れる理由の一つは、このヴィオラだ。


 カワイイ女の子にすごい、すごいと言われているとやる気が出てくるだよ。皆知ってた?

 前世で全く女の子と接点が無かったから、おれは知らなかった。

 

 異世界の常識よりも、女の子に褒められると謎のエネルギーがチャージされるという事実の方が為になった気がする。


「ヴィオラも文字ぐらいは覚えたら役に立つでしょ? おれが教えてあげるよ」

「ええ、無理ですよ私なんか……それに……」

「大丈夫だよ。それぐらいの時間はあるから」


 勉強は楽しいが、女の子に勉強を教えている方がもっと楽しい。

 

 それに、彼女がメイドとしてもうワンランクキャリアアップするには教養は必須だ。掃除や洗濯、身の回りの世話などはそつなくこなしているが時々ポケ~っとしていることがある。

 彼女は成長期だが、ただ言われた仕事をして、暇なときは何もすることが無いのだ。


 これは問題だ。人生一番楽しい時期にただ時間を浪費するなんて!


「坊ちゃま、気のせいでしょうか。時々私を生暖かい眼で見られてませんか?」

「ヴィオラは趣味とかないの?」

「あ、これは気のせいではありませんね。趣味ですか……そのような贅沢は庶民には無用でございますから」


 嘆かわしい!! 十五の少女がただ仕事仕事、仕事って! そんなことでは人生を豊かにすることはできませんよ!!


 いつも笑顔でおれに元気をくれる彼女の将来が心配だ。

 

「何かやりたいことないの?」

「……そうですね。お料理ですかね」


 その理由を聞いてみると、何と彼女はおれに料理を作って食べて欲しいというのだ。ここまで来ると、何か策謀めいたものを感じるがあのポケ~っとした彼女には無理だろう。

 

 彼女が料理を教わるには、メイド長の許可、料理長の許可、それに父上の許可が居るのだがすぐに許可が下りた。日頃の行いだよ。


 なんてね、ちゃんと理由を説明した。

 今後、自分のメイドに習い事をさせたい時の参考に皆さんにもおれがどんな言い訳をしたか教えておこう。


 おれは座学だけやればいいわけではない。


 ダンス、馬術、剣術など、カロリー消費が多い日々を送っている。だから補給分を適度に作る人が屋敷の厨房の人たちと別に居れば効率がいい。

 毎度の食事の時におれだけ山盛りにすればいいって?

それではベスにバレるし反感を買うと言ったら、効果は抜群だった。

 実に理に適った理由だ。だれもメイドのキャリアアップのためだなんて思ってもいないだろう。


 しばらくしておれに料理を作りたいという彼女の願いの理由が分かって来た。


 彼女はおれがフューレ、ブランドンに叩きのめされるという悪夢におびえているのだ。

 成長期のおれに食べさせるだけ食べさせて、早くあの二人を追い抜いて欲しいというのが正直な彼女の望みだ。

 

 ちょっとだけがっかりしたけど、なるほど、理に適っている。

 彼女がおれの前で笑顔が多いのも、精神レッドゾーンと距離を置けるからだ。

 そんな日々を護るため、彼女も危機感を持って働いていたんだな。

 ポケ~っとしてるとか思ってごめんね。


(あの子、包丁とか持って大丈夫かな?)


 ちょっとドジっ子体質な彼女を心配して調理を見守ってみたが、安心した。

 素直で頑張り屋な彼女は教わったことを教わった通りにやっていた。


 あれならすぐにある程度調理の基礎はマスターできるだろう。おれは料理しないから知らんけど。



 しばらくすると消費カロリー多めの訓練の後にはヴィオラがお弁当を作ってくれるようになった。

 それを食べながら、彼女に文字を教えた。

 

 


「――あの、どうして坊ちゃまは私にここまで良くして下さるのですか?」

「え? あなたがカワイイからですよ」

「……え、そうですか? ふふ、ありがとうございます……」


 おいおい、五歳児に褒められて喜び過ぎだろ。

 この子、ほっといたら悪い男にコロッと騙されそうだな。


 人を疑い、もっと警戒する術を持ってもらわないと。


「ヴィオラ、今のは君を試したんだ。結果は残念だが不合格だよ」

「なんで私、試されているのですか!?」

「もっと精進し給え」

「……ええ、何をですかー?」


 こうしておれは心を鬼にして、時々ヴィオラにちょっかいをかけることにした。



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