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第十五話《改稿版》 目論見



 王都、宮殿内にて。


 ロイドの失踪から一日が経ち、捜索隊の選抜が決まりかけたころ、その決定に異を唱える者たちがいた。


「確かに彼は英雄です。それに異論はありませんが、身分は騎士爵。迷宮へは任務で赴いたはず。それを帰って来ないからと言って王宮が総力を挙げて、人材と資金を投じて騎士や宮廷魔導士たちを派遣するなど暴挙としか言いようがありません。陛下は彼を特別扱いするおつもりですか?」


 毎度この手の反論を表立って行うのは王弟のジェレミア公爵だ。

 それに対し、システィーナが異議を唱えた。


「叔父様、彼は・・・」


「まさか、システィーナ王女のお気に入りだからという理由では在りますまいな?」


 ジェレミアは王族。 

 当然、ロイドとシスティーナの婚約を知っていた。


「では、ロイド卿をこのまま捨て置けとでも? あの者の功績を無視し、騎士爵として扱うというのがこの国としての正しい対応だというのか?」


「そうです、陛下。彼が騎士爵であるのはその力に対する責任と身分を自ら放棄したからではありませんか。八本腕を倒した功績で彼は伯爵として領地を治めることもできたというのにそれを辞退し、己の探求心を満たす為に学園に通い続けたのでしょう? そしてその探求心で身を滅ぼした」


 騒然となる周囲の諸侯たち。ジェレミアの口ぶりはどうしてロイドが失踪したのかまるで知っているかのようなものだった。


「どういうことだ、ジェレミア公爵。貴様、何か知っているのか?」


「いえ、現場に居合わせた騎士に少しばかり話を聞いただけでございます。曰く、彼は五年前にも同じように迷宮に入ってしばらく戻って来なかったことがあるそうです」


「「「「「「・・・!」」」」」」


 周囲はそれを聞いて察した。ロイドは好奇心が強く、物事に深入りする傾向がある。そして、騒動の中心にいることが多かった。


「彼が戻らなかったのは一階層での魔導学院初等科卒業検定の試験では物足りず、二階層へ下ってしまったためだったと記録にも残っています。つまり、今回の一件も退屈な検定の護衛役に飽き、好奇心に負けて迷宮の深部へと進んでしまったものと考えられるわけです」


「・・・それは自業自得ですな・・・」


 誰かがつぶやいた言葉をきっかけにざわつく諸侯。やがて、その場の多くがロイド捜索に人員と資金を裂くべきではないという側へ傾いた。


「そんな・・・お父様・・・」


「うぬ・・・ジェレミアめ・・・」


 ジェレミアには時期国王となるという野望があった。しかし、ロイドほどの英雄が若くしてシスティーナと婚約を果たせば、次期国王の座はシスティーナが後ろ盾となるであろうシャルル王子となりかねない。だが、英雄不在のシスティーナはただの賢い少女に過ぎない。シャルル王子は人望はあるが政治には不向きな性格。

 ジェレミアが狙う席は明らかだ。


 しかし、ロイドの捜索をするのは王宮だけではなかった。


「私は自己判断での任務が認められています。ゆえにロイド捜索に当たらせていただきます」


「・・! マイヤ!」


「〈陽光の騎士(サンライトエクエス)〉殿か。それは確かに止められる者はいませんが、あなた一人で迷宮に赴くつもりですか?」


「いえ、彼らと共に」


 そこに現れたのは、リトナリア、マス、そして神殿の聖騎士たちだった。


「〈穢れ無き両手(レッドハンズ)〉とロビンフッド男爵、それにどうして聖騎士が・・・」


「そうか、行ってくれるか。英雄たち、そして、神に仕えし戦士たちよ!!」


「「「「「「はっ!」」」」」」


 それは神殿がロイド捜索を神の意志であると捉えていると示していた。ロイドと神殿の関係を知らなかった者たちはその影響力の高さと、何か特別な事情があることを察し、慎重な姿勢を取った。ロイドをここで見限ることはリスクが高いと判断した者が多かった。


「皆さん、ありがとう」


 そこへシスティーナ姫は涙ながらに捜索隊の者たちに謝意を込めて頭を下げた。


「私も微力ながらお力添えを、迷宮に詳しい冒険者を数名知っております」

「深部へ赴くなら光魔法を付与した魔導具がございます。松明が無くとも永続的に道を照らせましょう」

「ならば私は迷宮まで一晩で駆け抜ける駿馬を用意いたします」

「中間地点の宿場に息子がおりますので、連絡役をぜひ」


 協力を申し出る者たちが増え、一気にロイド捜索の機運が高まる。

 ジェレミア公爵は気まずそうに眼を伏せていた。


(フン、無駄なことを・・・どれだけ探してもあいつの死体すら回収できないだろうさ・・・)


 その模様を遠目に観察していたルーサーは濁った眼でロイドに加担する者たちをにらみつけていた。


(あのガキのせいで人生を狂わされた者たちのことなど考えずに、これ以上まだ金と人を費やすのか?)


 ルーサーからすれば無駄もいいとこだ。

 とっくにロイドは死んでいる。

 それを言いだすわけにもいかず、ただ、無駄なことに時間と労力を割く者たちを哀れと見下した。


(いや、待てよ・・・捜索に行く連中・・・奴らがいないのなら・・・)


 ルーサーは計画を早めに実行しようと考えた。

 ただ、その為にはまだ、足りないものがある。

 必要なものは戦力。


(そういえば、ロイドが魔物退治で使ったあれは・・・確か・・・)


 思い立って、すぐに行動に移した。

 さほど難しくは無い。

 ロイドの研究成果を根こそぎ奪えばいい。

 

 ルーサーはまた、同じ手でいくことにした。

 すなわち、下種兄弟をそそのかすという迷惑極まりないやり方だ。



 フューレとブランドンが学院で横暴を働くのは今に始まったことではない。

 だが、二人が今回行ったのはいつもの憂さ晴らしではなかった。

 ロイドがいないことをいいことに、その研究成果を自分たちのものだと主張しだした。


「あいつが創ったものは全部おれたちのものだ!」


「ふぇふぇふぇ、返せ、返せ、返せ!」


 しかし、それに当然ロンドンとジーナは反対した。至極真っ当な意見で。


「これらはロイド君だけの財産ではなく我が研究室の共有財産ですから、これらを相続したいという主張はまかり通りません。何の権利もあなた方には無い!」


「それに、ロイド、死んでない!」


 しかし、そんな話し合いが通じる相手ではなかった。


「おれたちが誰だか知っているだろう? 父上はここの学院長に口添えできるんだぞ? お前たちの権利なんておれたちの権威の前じゃ何の意味も無いんだ!! いいからとっと明け渡せ!!」


「ふぇふぇふぇじゃないと燃やすぞ〜燃やすぞ〜ふぇふぇふぇ」


 その間ジーナはいくつものパスを二人に向けていた。だが二人は何も気づかない。

 それは双方の間に歴然とした魔導士としての力量の差があることを示していた。


「やれば、いい。魔導士として引導渡す」


 と、そこへ騒動を聞きつけてきた教師が止めに入った。


「君たち、校内での魔法による刃傷沙汰は厳罰です。やめなさい!」


「フン! ふざけるなよ! おれたちは自分たちのものを引き渡すように言い聞かせていたんだぞ!!」


「自分たちのもの?」


 

そこで教師は事の経緯を聞くと信じられないことを言い放った。



「では・・・この研究が元での騒動であるならば、一時この研究室は閉鎖、研究成果は学院管理とします」


「「っ!?」」


「そうか、それでは仕方ないな」


「ふぇふぇふぇ」


 それはその場を収めるための措置だったとしてもあまりに一方的過ぎた。


「どういうことでしょうか・・・こんな横暴なことが・・・」


「おかしい、相談する」

 

 ジーナとロンドンは教師の言うことに逆らえないが、この教師の行動を不審に思いその日のうちに学院長に相談した。


「まさか、この学院から学生の研究を盗む者がでるとは・・・本当に申し訳ない・・・」


 しかし、時すでに遅し。すでに研究を持ち逃げされてしまっていた。教師の所在は不明となっていた。

 以降、パワーアシスト機能付き甲冑の研究と雷魔法、思考強化の理論はロイド不在のため滞ることとなってしまった。



「うう、ロイド、ごめん、ごめんなさい」


「ぐぅ、そもそも、あの二人が手引きしたに決まっています! 即刻あの二人を調査してください!! ロイド君のことだってどう考えても・・・」


「ロ、ロンドンくん、落ち着きなさい。誰かに聞かれてはマズい。今や彼らはロイド卿の遺産の相続権を有し、次期ベルグリッド伯領の領主だ。他の貴族や逃亡した教師のように追随する者もこれから出てくるはず。ロイド君は抜け目ない人だったゆえ、腹に何か抱えた者には気を許さなかったが、逆にあの二人ならば組みやすいと、そういう類の輩が集まっていくだろう」


 暴走するギブソニアンの名は学院ではトラウマとなっていた。今回この二人に対し、父親であるヒースクリフがどのような沙汰を下すのか、それは全く予想が付かなかった。


 未だヒースクリフへの連絡は道半ばであり、この時、彼は息子の婚約の喜びに浸っていた。それが一転して絶望感へと変わるとは知らないまま・・・




2018/08/29


再校正しました。

場面が何度も変わりますが、それはあえてなのでそのままにしました。

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