第十二話 暗暗裏
システィーナとヴィオラ。
二人を幸せにすると誓ったロイドがまずしなければならないこと。
それはあいさつ。
報告はまず、システィーナの両親である王と王妃、そして兄のシャルルに伝えられた。
ロイドは報告の際、これ以上ないというくらいに緊張していた。
(これが、『娘さんを僕に下さい』の儀式か・・・なんてプレッシャーだ・・・)
ロイドにとってその重みは特別大きい。
一国の姫をもらい受ける上に、同時に別の女性とも婚約したいというのだ。
最悪、身分を剥奪されるかもしれない。火の粉がヴィオラや実家にいるヒースクリフに飛ぶのは避けたい。
その責任は重大だった。
「そうか・・・やっとか。ん? メイドと婚約? 確かヴィオラと申したな。あの娘であればシスティーナが良ければ別に構わぬ」
「まぁまぁ!! よかったわね〜システィーナ!!! ヴィオラさんもね!!」
「よくやったぞ、システィーナ! ロイド卿、これで我らは義兄弟だな! よろしく頼むぞ!! 」
(あれ・・・?)
「・・・あ、あの、よろしいのですか?私は姫だけでなく平民のメイドと婚約するのですよ? 他の貴族に示しがつかないのでは?」
(というか、ヴィオラのこと陛下はご存知なのか・・・あの娘なにかしたの?)
「他の貴族・・・ロイド卿よ、誰しも貴公のように清廉潔白では無いのだぞ? 召使に手を出してから追い出す者や、街娘を立場を利用し囲う者、金で他家の令嬢を買う者など、地方での貴族の蛮行を上げればキリがない。その点、貴公の両者とも責任を取るという気概は誇るべきと思え。その器の大きさと実力を兼ね備えた男だと見込んで、余はバリリスの名を与えたのだ」
(・・・でも陛下も、父上も妻は一人だし、こういうのは認めてしまったら秩序にかかわるんじゃないか?)
「他に何か問題が?」
「・・・・・い、いえっ! 身に余るお言葉感謝します!!」
責められるべきところを逆に称賛されてしまい、どうしても腑に落ちないロイド。
だが王も王妃もシャルル王子も、本当に喜んでくれているようだった。
その後、今後のことについて詳しく話すために席が設けられた。戸惑っているロイドが珍しかったのか、王妃がロイドをからかい、強く出られない本人に代わってシスティーナが庇い、それをまた茶化されるという繰り返しだった。それがいつの間にかまだ独身のシャルルに矛先が向いたところで、二人は退出した。
(良かった・・・・・・)
「ふふ、だから言ったでしょう? 心配しすぎだと。実際、貴族で妻が一人の方が珍しいのよ?」
「いや、それもどうかと思います。よく修羅場にならないですね」
「なるわよ。そもそも生活に余裕がなくなる人もいるのだし、それがもとで血みどろの争いに・・・」
「二人は大丈夫ですよね!? ねぇ?!」
「それはロイドちゃん次第ですわ」
「・・・がんばります!」
一先ず大きな山を越えたため、ロイドはホッと胸をなでおろした。
「・・・あ、どうでしたか? 怒られちゃいました?」
報告の間待っていたヴィオラとともに姫の部屋に向かう。
「あっけなく、認められた。御咎めも無かったんだ!」
「うわぁ良かったです!!」
無邪気に笑うヴィオラを見てロイドは少しうらやましく思った。
部屋に到着するとそこには集められた関係者がいた。
紅燈隊のメンバーだ。当然マイヤもいる。
そして、三人で婚約したことを伝えた。
「「「「ああ、ようやくかぁ」」」」
「「えええええええ! 婚約!!!?」」
反応は真っ二つに分かれた。
マイヤとピアース、メイジ―、そして意外なことにオリヴィアも姫とロイドがくっつくのは時間の問題だと思っていた。
オリヴィアは以前、叙任の祝いの席で姫に怒られた時から、何となく姫の気持ちには気づいていたらしい。
他の三人は普通に見ていればわかるでしょ? といった感じだ。
マイヤに至っては相談を受けていたので、ホッと胸をなでおろしていた。
テトラとナタリアはショックで放心している。特にテトラは現在26歳。三人より年上なのに一斉に先を越されてしまったのだ。
「おめでとうございます、姫様、ロイド卿、ヴィオラさん。三人ならきっと上手くいきます」
「そうね。まぁ、いい年して独り身の私たちの考えなど当てにならないでしょうけど」
メイジーは23歳、ピアースは26歳。まだまだ若いが同年代が皆結婚して焦る時期。
「そういうピアースは良く男性から贈物をもらっているではありませんか。そろそろ男遊びはやめて、いい機会ですからあなたも身を固めてみては?」
「ち、ちょっと、これ以上寿退社は困るわよ! ただでさえマイヤ隊長の穴が大きいのに!」
「今はあなたが隊長でしょう? それに結婚となると普段のお遊びとは違いますから」
オリヴィアはマイヤが名誉隊長となり紅燈隊隊長に格上げした。副隊長はピアースだ。
「うわぁ、ピアース怖いなぁ。相手かわいそうだよ」
テトラはピアースが普段どんなお遊びをしてるか知らない。ただ会話の中で一番余裕が無かった。今年26歳で恋愛経験なし。
「私は縁談は来てますけど断ってます。この仕事が好きなので」
ナタリアはその見た目と相まって売れっ子のアイドルの清純アピールみたいになっていた。
「なら、ナタリアは早く結婚した方がいいのでは? 見た目はお嬢様なのだから若いうちに相手を騙さないと」
「だま・・・メイジ―さん、酷い!」
その後会話が弾んで話し込んでしまったが、婚約を二人同時にすることについては特に何もなかった。この世界ではやはり少し結婚の考え方がずれているのかもしれない。
結婚したいけどできないテトラがヴィオラに相談を始めたら、メイジ―やオリヴィアも食いついてきて、その日は夜まで女子会となった。
全員年上な上に恋愛話を持ってきたロイドが、無礼講とばかりに弄ばれたのは言うまでもない。
精神的な消耗によりへとへとになったロイドは帰宅するとまだ報告をできていない人に向けて手紙を書いた。
父親である、ヒースクリフ宛である。
その手紙は二日後にベルグリッド領に届き、ギブソニアン邸内を騒がせた。
◇
「ロイド・・・ついに姫様と! それにヴィオラもか。ははは! これは末恐ろしいな!」
「ご子息が規格外なのは昔からでは? しばらく会っていませんがさぞ立派になられたのでしょう」
ヒースクリフの書斎で駐屯騎士団長のエルゴン、そしてスパロウとローレルが婚約の知らせを聞かされた。
「うわ! すごいな〜若様、逆玉だよ? しかもヴィオラちゃんみたいな可愛い娘まで・・・私ももらってくれないかなぁ?」
「おい! おれじゃ不満か?」
「いえいえ、大好きよ、旦那様! やきもち焼かせたかっただけ―!」
「ったく! こいつぅ・・・」
領主と上司の前でイチャイチャする二人。
ローレルとスパロウは数年前に結婚している。
ローレルの家、ブルボン家はベルグリッド領の近くに領地を持つ大家のためスパロウが婿入りした。長年付き合いのあった、というより腐れ縁の二人は数年前まで恋人というわけでもなかった。それが結婚できたきっかけはヴィオラの一言だった。
『ローレル様とスパロウ様にはずっと坊ちゃまの傍にいていただきたいですね!』
ローレルがずっとロイドの傍にということは結婚せずに騎士を続けるということになる。それがローレルにとって幸せかどうか考えているうちにスパロウは己の気持ちを自覚した。相談に乗るヴィオラ、ヤキモチを焼き始めたローレル、勘違いに気づいたヴィオラ、スパロウをそそのかすヴィオラ。
やがてスパロウが告白しローレルは二言返事で了承した。
「貴様ら!! いちゃつくなら家でやれ!!! 見ていて腹が立つわ!!!」
「あはは・・・す、すいません」
「え〜私はもう騎士じゃないのに・・・」
「いや、構いませんよ。どうですか結婚生活は? お子さんはまだ? ワインありますがどうです? わざわざ来ていただいたのですからゆっくりしていってください!」
(((うれしそうだ)))
三人はこれほどはしゃぐヒースクリフを初めて見た。
彼にとって、ギブソニアンの名が名誉を受けることなど、ずっとあきらめていたことだった。
このギブソニアン家は自分の代で途絶える。
それは政略結婚をさせられ、子供が不名誉な形で王都で家名を広げていく中で徐々に芽生えていったあきらめだった。何をどう間違えてしまったのか。どんなに功績を上げても自らの地位すら危うくなる。
そんな息子たちと妻の所業に見かねて引き取った養子。
彼の才能をしかるべき評価が下る場所に。
もはやそれだけがヒースクリフの己に定めた役目となっていた。
しかし、その子供はみるみる予想を超える速さで成長し、自分だけでなくベルグリッド領の希望となり、やがては王都を救った英雄にまでなった。その息子が今度は姫と大切にしていたメイドと婚約をすることができた。
「うぐっ・・・うぅ・・・」
まだ飲んでもいないうちに、感極まって涙がこぼれていた。
人生の内に何か一つ成し遂げられたならそれは、とても幸福なことで、それが自分の為でなく誰かの為であったのならなお尊い。
「私は、間違っていなかった・・・!」
涙で始まった祝杯は、笑顔に満ちたものになった。
◆
4人が祝杯を挙げている頃、同じ屋敷ではどす黒い空気に満ちた部屋があった。
「王女と結婚ですって・・・・くそがぁ!! 早く何とかしないと・・・! あの計画を絶対成功させてもらわないと・・・あのガキが未来の王族に・・・」
五年前、闇ギルドにロイド暗殺を断られ、息子たちに殺させるべく殺人方法を教えられる者を探していた時、見知らぬ男に声を掛けられた。
男は計画を持ち掛けてきた。
ロイド暗殺の計画である。
『あんたが金さえ出してくれれば、ロイドの命は成人前に尽きる』
ベスはその計画に乗った。
ロイドについて自分でも知らないようなところまで調べ上げて信憑性が高かったことと、ロイドについて口にする時の憎しみに満ちた表情が気に入った。
しかしその計画では王族との親密な関係は考慮に入れられていなかった。時間が経つほどに実行が難しくなる。護衛する側からさせる側になる前にやらなくてはならない。
「もう待てない・・・早く、始末させないと・・・!」
早くしなければ。
ベスと同じことを考える者が王都にもいた。
もちろん、ベスに計画を持ち掛けた男である。
◆
「なぜ奴が、幸せを手に入れていくんだ。あんなことをしておいて・・・」
男は憎しみを抑えきれない。
「いや・・・違う。大切な者がいるからこそ・・・・計画を早めねば」
陰謀潰しの麒麟児を陰謀により消す。
その無謀さを男は理解していたが、成功させる自信があった。
その計画には5年が費やされ、今やロイドは浮かれて骨抜き状態。
そして、男には協力者がベス以外にもいるのだ。
それはロイドがこれまでに上げた功績によって生まれた敗北者たち。
彼らによる報復が、今始まろうとしていた。
ようやくストーリーが大きく動きます。しばらく桃色展開でしたが次回大展開?大転回です。
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