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幕間 メイド

◆ギブソニアン家 メイド ヴィオラ


 ロイド様がこの屋敷に来た日、私は当主様からロイド様の面倒を見るように仰せつかりました。奥様とご子息にいきなり罵声を浴び、さぞ不安でいっぱいのことと思い、まずロイド様のお部屋にご案内しました。

 

 正直、このお屋敷でのお仕事は辛い。

 奥様はヒステリックで人の話を全く聞かないし、ご子息は超問題児。

 長男のブランドン様は腹を立てるとすぐ手が出る。12歳だけど体格は、私ともうたいして変わらないので本気で殴られると命に係わる。

 次男のフューレ様はいつもにたついてて感情が読みにくい。油断しているとスープに虫を入れたり、虫を服に入れたり信じられないような嫌がらせをしてくる。

 今はその二人が学院から戻ってきているので、屋敷内はいつもより殺気立っている。

 

 そんな中、彼の傍に仕えることなってしまったのだから、怖いのは私だ。でもこの子はもっとだろう。きっと想像もしていなかった生活になる。もしかしたら平民で居た方が楽だったかもしれない生活を強いられるのだ。そう思うと、せめて私がこの子の味方になって支えてあげなければと決心が着く。


 それにしてもどうして当主様はこんなことをするのかしら? この子がこの家に居てどんな目に逢うか、私ですらわかる。当主様は温厚で誠実な方だから、この子を酷い目に逢わせるようなことはしないはずだけど……


「初めまして、ご挨拶が遅れましたが私はロイドと申します。五歳です。このギブソニアン家の養子に迎えられたので、ロイド・ギブソニアンでしょうか? こういった生活に不慣れな無作法者でご迷惑をお掛けすると思いますがこれからよろしくお願いします」


「……へ?」


 

 部屋に入れると開口一番、丁寧なあいさつをされ固まってしまった。メイドにこんなにかしこまる貴族様なんて居ない。どう返していいのかわからなくなってしまった。


「私、あの、ヴィオラと申します。十五……いえ十七歳です! ロイド様、こちらこそお世話をさせていただくのでよろしくお願いします!」


「え? あはは、そんな畏まらなくていいですよ、年下の平民同然に扱ってください」


 おかしい。この余裕はどこから来るのだろう? それに口調が大人のようだ。貴族っぽくないけどまるでヒースクリフ様みたいだ。ああそうか、当主様の真似をしているのかな?


「ロ、ロイド様はいずれこのお屋敷の御当主になられるかもしれません。そのような高貴なお方にお仕えする以上、他の高貴な方々と同様に接しさせていただきます」


「ぼくは三男で養子で元平民だよ。その物言いは聞かれたらマズいのでは?」


「ああッ!」


 そうだ、つい口から出てしまったけど、この子が当主になるかもなんて、奥様が聞いたらきっと私の首に噛みついて殺されるかもしれない。

 

 でもでも、長く苦しんだ末にあの二人のどちらかに仕えることになるなんて考えられない! それに比べてこの子には何か風格のようなものがある。十年すればきっと立派な貴族様だ。そう考えれば少しは私の立場もマシになるかもしれない。


「わ、私はロイド様にこの家の当主様になっていただきたいです。ヒースクリフ様の領地経営の手腕は素晴らしく、領民の生活を第一に考えてくださっています。しかし、あの二人のどちらが継いでもこの家は没落するでしょう。皆そう言ってます。だからヒースクリフ様はロイド様をこの家にお迎えになったのだと思います」


 言ってしまった……五歳の子供に。

 ばれたらきっと、家督簒奪を企てたと処罰される。


「おお、正直だね。まぁおれもあの二人と母親はどうにかしないとと思っていた。あの三人は病んでいる。ああいう輩は普通、痛い目を見て恐怖心からおとなしくなるか、そのまま殺されるかだけど『ギブソニアン』の名前があって誰も手が出せなかったんだろう」


 なにこの子、コワッ!


「ああ、そうか! だからヒースクリフ様はおれに『ギブソニアン』の家名を与えて始末をさせたかったのか!」


 ええ!!

 コワワッ!!


「いやいや違いますよ! ロイド様が始末したら当主になれないじゃないですか!」

「ハハ、冗談だよ。でもこの後の展開は読めてる。おれは陰湿な攻撃を受ける。やり返したら、処罰される。その繰り返しだろう」


 この子、わかってるんだ……なのにどうして?


「私がお支えします! ですからどうか希望を捨てないでください!」

「それならヴィオラ、あの二人の得意なことは何だろ?」

「へ……? えっと……ブランドン様は〝暴力〟です。フューレ様は〝嫌がらせ〟ですかね」


 ロイド様が戸惑っておられる。なんだろ? 変なこと言った?


「いやそうじゃなくて、得意な分野は?」

「ああ! え〜っとブランドン様は剣術、フューレ様は魔法です」


 とは言っても、同世代と同等なのがそれぐらいしか……


「そう……なら計画を立てられそうだ。半年我慢すれば後の半年は快適に暮らせるだろう。一年ほどでおれは王立魔導学院に行き、あの二人と顔を合わせることになるが、計画がうまくいけばおれに敵対はできなくなるだろう」


「えっ? そんな簡単に? どうやるんですか?」


「単純だよ。『力』だ」


 彼の確信に満ちた顔は五歳とは思えないほど凛々しく、立派だった。


ご指摘をいただき誤字を修正しました。2018/04/22

タイトルを息子から神童に改め、一部修正しました。


9101文字→二話分に分割しました。2020/2/29

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