第一話 大陸一 プロローグ
第二章です。よろしくお願いします。
極銀級冒険者、タンク。
彼がその名を轟かせたのは、第八の魔王〈錆の魔王〉が打ち滅ぼされ、世界が平和なろうという時、まだ世界が混乱と戦後の黎明期から抜け出せていないころだった。
街道には魔獣があふれ出し、仕事を失った傭兵や軍人崩れが山賊と化し、荒れた土地には何も育たず食糧供給が滞っていた。
そんな厳しい環境の中、どんな危険なクエストでもがむしゃらにひたすらこなす、二十歳の青年、それがタンクだった。
生まれ持った恵まれた体格に実戦の中で培った剣裁きと気転を兼ね備えた戦士。彼はどのパーティにも属さず、ソロで戦うことが多かった。
当時タンクは銀級冒険者。
組む空きがあったのはそれ以下の銅級か鉄級の冒険者だけだった。しかし、銅や鉄で停滞している者の多くは問題があった。特にクエストが依頼ボードから減らない時期、上に昇格できないということはそれだけの理由があった。
『足手まといは必要ない。盾役は足が遅い。魔導師はプライドが高い。同じ前衛職はバカが多い』
そういうとタンクが身勝手な人と思うかも知れない。実際周囲の者はそう考えていた。
若い冒険者によくいる、少し強いだけで調子に乗って早死にするタイプであると。
その考察は的外れなものだった。冷静な判断力を兼ね備えた戦士だからこそ、組む相手には慎重な姿勢を取っていたのだ。
しかし、パーティを断られた問題のある者たちがタンクの不評を広めたため、上位クラスのパーティにも入ることができなかった。仕方なく下位の者と組まされる際はその度に足を引っ張られた。
多くの盾役は前衛で戦うセンスがなかったために仕方なくやっている者、デカイだけが取り柄の者の仕事と化していた。
『戦闘を俯瞰して指示できる奴、天候や環境を把握して優位な陣形を作れる奴はいねえのか・・・・・』
魔導師は冒険者をやっている時点で落ちこぼれである。魔導学院に入学できなかった者、卒業できず要職につけなかった者たち。だが、それでもプライドだけは高い。
『なんで敵の前で詠唱しやがる! 訳の分からねぇ屁理屈並べて言い訳しやがるし・・・』
前衛職―剣士、槍使い、鎚使いなどの多くが直情的で考えなし。騎士のような学が無いというのもあるが、考える気がそもそもない。それが戦いの見通しを狂わせるということに気づくことすらできない。
『勢いで何とかなると思ってんのか? どうして戦闘の流れを把握しようとしねぇ!? 連携できねぇなら他人と組むんじゃねぇよ!!』
頭を悩ませるぐらいならとタンクはソロで依頼をこなしていた。
そんな彼に変化があったのは、クエスト中ミスを犯し、死にかけた時。
山中での長い行程に体力を奪われ、油断したところを魔獣に囲まれた。
助けてくれたのは高名な冒険者で美しいエルフだった。
その戦いは一切の無駄がなく、自分の力を最大限生かした戦い方だった。予測による回避で魔獣より素早く動き、全てを切り裂く。魔法を駆使した接近戦を目の当たりにしてタンクはあこがれた。効率を極め、それでいて確実に屠っていく手際はソロとしてのタンクの理想だった。
『・・・・・・きれいだ』
そのエルフがリトナリア、当時から〈レッドハンズ〉の異名で知られていた金級冒険者だった。
『遠い・・・・・・だが、この女と肩を並べて戦える、そんな奴にならねぇとなんねぇ!!』
タンクはリトナリアに見合う冒険者になるべく、一から己を鍛えなおした。
体格をさらに大きくして当たり負けのしない身体にし、不要と割り切っていた魔法も【基礎級】の土属性のみ修得することができた。そして、一刀だった剣は手数を増やす為二刀となり、火と水の魔剣をそれぞれ使いこなすまでになった。
その頃から、タンクは己の力の上限を感じなくなっていた。戦士職の者が稀に行きつく武の境地。それを言葉で説明することができないため、口伝されることが無く、天賦の才を持つ者が限界を超える訓練の末に体得できると言われるもの。
『鬼門法/気門法』
大型魔獣の身体強化の力を持つ魔石のような、魔力消費で発動する力の増大ではなく、純粋に体力と精神力を消費して一時的に飛躍的な膂力とスピードを得る。
こうして、確かな実力と持ち前の気転により行く先々でクエストを達成し、やがてその名声はローア大陸中に轟くこととなった。
そして、今から約五年前にリトナリアと再会した。
◇
「リ、トナリア・・・」
彼女のことが頭を過った。
いつまでも変わらない美しさと強さで、お人好しで面倒なことに首を突っ込む。
再会した時はパーティを組んで、貴族の子供の暗殺を阻止した。
その時、ある意味タンクの望みは叶っていた。
リトナリアに見合う冒険者となり、それぞれが理想的な働きをするパーティを組めた。この仲間となら何でもできると確信することができた。
しかし、そのメンバーは今はいない。
タンクの周りには力尽きた冒険者と大量の魔獣の死骸。
そして、正面に敵。
二刀の魔剣による攻撃を『鬼門法/気門法』により高め、繰り出したが、それを全て叩き潰された。相手は一人。油断をしていたわけでも手を抜いたわけでもなかった。まして、昔と違い今回は4つのパーティとの合同任務だった。
「ただの魔獣退治、だったはずなのにな・・・・こんな化物、に遭遇するとは・・・」
パラノーツ王国南部の小さな森から魔獣が大量発生したという知らせを受け、ギルドより討伐の依頼があった。数年前の銀河隊の不始末の後始末だろうと、タンクは気軽にそれを受けた。
その結果、出くわしたのは、八本の手を持つ人間。
いや、人間が魔石を持つ化物と化した異形の存在。
魔物だった。
まるで人を殺すことを目的としてつくられたかのような天然の大量殺戮兵器。
それぞれ個体ごとに能力や生態が異なるため、最初に遭遇した者は確実に命を落とす。対策が無いからだ。そして、魔物は元は人間だったため、たとえ対策を立ててもそれを打ち崩す知能がある。個体によっては魔物堕ちする前よりも知能が高くなる場合もある。ゆえに〈初見殺し〉と言われている。
そしてタンクが遭遇したのは、強大な魔力を駆使し【対軍級魔法】を使いこなす上、八本の腕それぞれが別々の魔法を放ち、大型魔獣並みの身体強化魔法を使う、魔法に特化したタイプだった。そして知能も高い。
魔獣を追い立てクエストを依頼させ、冒険者を誘い込み罠を張っていた。
「死ぬわけにはいかない・・・! 絶対に! 」
(おれはまだあいつに何も伝えて無い)
「うおおおおおおおッ!!!!」
限界を超えて引き出した力。
それがタンクの動きをさらに洗練し、理想ともいえる完璧な二刀剣技を可能にした。
「・・・!」
八本腕は魔法で牽制するがタンクの剣の冴えは魔法を捌き、弾き、切り裂いた。
「うおおおおっ!」
開花した全力の二刀の魔剣は魔物の腕を一本ずつ切り裂き、徐々に追い詰めていく。
そして最後の一本になった。
[ガキィ!]
金属同士が弾けるような高音がなり、タンクの剣が弾き飛ばされた。
「なっ!?」
八本腕はそれまで八本に分散していた分の身体強化魔法を一本に集中。
(七本斬らせて、おれの剣技を観察してやがったのか・・・・・・!!)
状況は七本を失った魔物の方が、一刀を失ったタンクよりも優位となった。さらに魔物の腕はすでに再生を始めていた。高速再生能力。一息に八本を切り落とせなかった時点でもはやこの状況を覆せるだけの余力は残っておらず・・・タンクは己の命をあきらめた。
そして頭に浮かぶのはリトナリアのことばかり。
(だめだ、こいつは冒険者を狙っている。情報が広まる前に先に高位冒険者を殺すつもりだ。リトナリアも危ない・・・どうすれば・・・)
ふとその時、別の者が頭に浮かんだ。死地における頭の冴えがある考えに至らせた。
(ロイド・・・あいつなら・・・!)
タンクは最後の望みに全てをかけて残りの一刀を投擲した。
「・・・届けええええッ!!!!」
火の魔剣は業火に包まれながら八本腕に向かうが、寸前のところで避けられてしまう。
魔剣ははるか後方の巨大な魔獣の死骸に突き刺さり周囲は炎上した。
「最後のあがきモ無駄だったナ」
「・・・・・・・・・」
八本腕の魔物はタンクに話しかけるが、その時すでにこと切れていた。
タンクは心臓を腕で突き抜かれて絶命していた。
「・・・あっけナイ。これが大陸一の冒険者カ・・・・・・うぐぅ!?」
その時、完全に油断していた八本腕の首を万力のような握力で締める者がいた。
「死んだ・・・はず・・・ダ!」
八本腕がタンクを引きはがすと確かに絶命している。
末後の執念か、死んでもなおタンクは数秒戦った。
その執念は魔物堕ちし、全能感に酔っていた八本腕に恐怖を刷り込んだ。
八本腕の魔物はその日、冒険者パーティを4つ壊滅させ、北上。2つの村を蹂躙し、その後追跡できずに行方不明となった。
また、〈コンチネンタル・ワン〉の極銀級冒険者タンクが死亡したことで、その魔物の脅威レベルは戦後最大となった。
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ご指摘をいただき誤字を修正しました。2018/04/22




