14.変化の予兆(新)
成長期、ロイドの身長が伸びた。
力が上がった。
体力が向上した。
「末恐ろしい方だ。まるで一年前とは違いますな」
「時がギブソニアン卿の味方をしているようだ」
「いやしかし、時には遊びも必要というものですよ。若いうちに遊び慣れておかなくては」
ロイドを称賛し、親し気に話しかけているのは銀河隊。
「市井の十一歳が何をして遊んでいるのか知りませんので」
「おお、ならギブソニアン卿に一矢報いることができるかもしれんな」
「次の合同演習は駒遊びで対決しましょう」
「札遊びもご教授しますよ」
「はは、ルールぐらい知ってますが、ぜひご教授ください」
一年前と変わったのはロイドと銀河隊の関係だ。
彼らの態度は大きく軟化し、敵視する者はいなくなった。
それどころか気さくに話しかけこうして何気ない会話をするほどになった。
ロイドが教える魔法の講義にも参加し、中には教官と呼ぶ者もいる。
彼らの態度は普段の市民に対しても変化し、それまでの権力主義的な横暴も控えられた。
その急激な変化を受け入れるかどうかロイドは迷った。
「ジェレミア公はお前の力が欲しいだけだ。気を許すなよ」
ハッキリと忠告してきたのはルーサーだけだった。
「何か知っているのか?」
「宮女たちが噂しているぞ。王女殿下とジェレミア公がお前をめぐって水面下で激突していると」
「……ああ、あれは……」
「知っているのか?」
「うん、あれは――」
◇
ロイドの元に縁談を持ちかけたジェレミアをシスティーナが拒否したという問題が起きた。
それまでもロイドへの求婚や縁談の話をシスティーナが遮って来たことをジェレミアが攻撃した。
意地悪な叔父と思春期の姪の戦い。
周囲は慎重に静観した。
当事者であるロイドさえ、この戦いでは蚊帳の外にされた。
波風を立てたくないロイドは大人しくそれに従った。
実際それは大事にするほどの事件ではなく、会食の席でジェレミアがシスティーナの将来の相手について話し始めたことから始まった。しかし徐々に露骨に、直接的となり、とうとうロイドも巻き込まれることとなった。
「これからのことを考えればシスティーナの相手はやはり四大貴族から選ぶべきだろう」
「まぁ、ジェレミアおじ様。結婚の相手を選ぶのは私ですわ」
「ほう、誰か特定の相手がいるのか? はは、まさかロイド卿というわけではあるまい?」
システィーナの後ろにはロイドが立っている。
赤面し顔を覆う王女。
「どうだロイド卿、一国の王女と結ばれるならそれを望むかね?」
「滅相もございません。私はたかが護衛、たかが騎士です。姫様には姫様に相応しい相手がおいでかと」
その回答をジェレミアは意外そうに聞いた。
システィーナは暗い顔を隠す余力もない。
「そういうロイド卿はそろそろ気になる相手がいないのかね?」
「は? いえ、まだ十一歳ですから」
「もう婚約者がいてもいい歳だ。どうだろう、私が相応の相手を、もちろん高貴で美しい令嬢を紹介しようではないか」
「おじ様!」
「どうしたシスティーナ、はしたない声を上げて……よもやロイド卿の相手はお前が決めるというのか? 自分の将来も見定められていないというのにかい?」
ジェレミアは彼女の気持ちに気づいたうえで、その出自を盾に、ロイドの前で気持ちを安易に伝えられないことを利用しあえて挑発した。
「ご厚意に感謝します」
「良いのだ。貴殿には我が銀河隊の訓練にも大いに貢献してもらっているのでね」
ロイドには公爵であるジェレミアに公然と逆らう力はなく、それを受けた。
ちゃんとした縁談が無いことを不安に思っていたロイドは少しうれしい。
「ロイドちゃん……」
「はい? お顔がすぐれませんがお食事が口に合いませんか?」
「違います! とってもおいしいですわ!!」
落胆したシスティーナを心配するロイドだったが、その理由はわからなかった。
しかし、事はジェレミアの思う通りにはいかなかった。
恐ろしいことに、縁談が解禁になったという噂が流れた途端、貴族同士が水面下で争い始めた。ジェレミアは自身の支持基盤の崩壊を恐れ、縁談はうやむやになった。
「ひぇ~、ロイド様をめぐって女の子たちが血みどろの争奪戦を?」
「政略結婚なんてこんなものか。ああ、姫はああなることを予期していたのか」
「違うと思います」
ヴィオラがやや呆れた顔をするが、ロイドはそれを愚かな権力欲に憑りつかれた貴族への嘲笑と受け取った。
うんうん、おれも困っちゃうよ~とか考えた。
しかし、自由恋愛で相手を選ぶにしてもロイドの同世代はまだ幼い子供。とても恋愛対象としては見られない。
十四歳の姫も。
ふとヴィオラを見た。
「どうしました?」
「ヴィオラって恋人いる?」
「ふぇ? いないですよ?」
「そう」
「ふふ、大丈夫です。私はずっとロイド様にお仕えしますから」
「いやいや、おれに遠慮しないでいいから。でも、相手はおれが……ああ、姫もこんな気持ちだったのかな」
大事な人を幸せにできるのか、相応の相手かどうか、確認せずにはいられない。
「それは、どうなんでしょうね」
「どうして姫の考えがわかるんだ?」
「ふふ、同じ女ですから」
「そんなものかな」
「そんなものですよ」




