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13.誕生日(新)



 誕生日当日。


 街はお祭りで大賑わい。


 王女の前で催し物をする大役を担ったのは街の子供たち。


 各々が自分の家の看板を背負い、腕相撲やかけっこ、クイズなど様々な競技で競い合う。

 ほほえましいが、皆真剣だ。


 勝敗で賭けをする者もいて熱狂。


 勝っても負けても皆同じ街の知り合いだから身内が称えられ喜び、負けて悔しがり、大いに盛り上がった。


「これはいい。他の街でもやるべきだ」

「子供が健やかなのが一目瞭然。皆各々の才にあふれて居る」

「しかし、店の看板を背負ってとは、重圧だ。ロイド侯は少々厳しいですな」

「いや、だからこそ自覚が芽生えるというもの。自分が何者か、子供たちの良い経験となるでしょう」


 子ども競技大会は大好評。

 年齢別で種目も多かったので結構な子供が自分の得意分野で優勝した。



 優勝した子たちにはロイドが戦い方を教える約束だったが、大体が賞金の方を選んだ。


「木材の解体で優勝したからって戦えないですよ。おれやっぱ大工の息子なんで」

「かけっこで優勝したけど、力自慢では全然だったし」

「算術の成績は戦いと関係ないですから」


 皆自分のどこが優れ、何に不向きかを自覚していった。



 大人たちも儲けだけでなく名誉のために子供に色々な技術を教える時間を作れたと喜んだ。

 


 こうして競技会は大成功で終わった。


 ちなみに本当に冒険者を夢見る子供たちのために、生の魔獣討伐の様子を騎士たちが再現する見世物も行われたが、凄惨過ぎて子供たちには恐怖しか植え付けなかった。

 


 

 夜にはベルグリッドの屋敷で来賓を招いたパーティーが開かれた。


「まったく、ロイドちゃんの誕生日だというのに、皆さん賭け事に夢中でしたわね」

「楽しんでいただけた方がうれしいです」

「もう! 今日はあなたが主役なんだから、あなたが一番楽しくないとだめですわ」


 ロイドは楽しんでいた。


 幸せを実感していた。


 姫と紅燈隊がわざわざベルグリッドまで来てお祝いをし、ヒースクリフは街ぐるみのお祭りを企画した。リトナリアやタンクも慣れない礼服で参加し、周辺から多くの貴族もやって来た。


「こんなに多くの方に祝っていただけて、感激ですよ」

「なら子供らしく浮かれて舞い上がれよな」


 タンクが酔って絡んできた。


「おい、無礼だぞ。王女様の前で。お前の方が子供みたいだ」

「うっ、そりゃねぇぜ」


 リトナリアとタンクがシスティーナにあいさつをする。


「あのガキがもう王宮騎士とはな。しかもこんなかわいいお姫様に仕えるとはけしからんな!!」

「すまない、本当にすまない」

「いいのです。極銀といえどリトナリア様の隣で舞い上がらない男はいませんわ」

「べ、別に、こいつの隣だからって舞い上がるなんてことは……」


 普段の質素な冒険者の恰好と異なり、ドレスを着た彼女にタンクは見惚れていた。

 そのあまりの美しさに他の男性陣も一様にリトナリアへ目を奪われていた。


「見るな。鬱陶しい」

「ちぇ……おい、ロイド。誰か紹介しろよ。ほら、そっちの姉さんたちを独占すんな」


 紅燈隊の面々も、重苦しい甲冑を脱ぎ、艶やかなドレスに身を包んでいる。

 

「私たちはあちらの美女の代わりってことでしょうか? 失礼ですわ」

「でも、極銀級冒険者の戦闘理論は聞いて置いて損はないですよ」

「このおじさん強いの? 絶対マイヤ隊長の方が強いわ!」

「おい、おれはまだ30代だぜ? おれがおじさんならそっちのでっかい姉さんは――」


 そこまで言おうとしたタンクの口をリトナリアが塞いだ。


 マイヤは剣から手を放した。


「女性に年齢の話をするな。死ぬぞ」

「お、おう…‥それじゃ、おれの武勇伝聞きたい人、おいでー」



 なんやかんやとタンクの武勇伝は面白く、紅燈隊を含め多くが聞き入った。


「ロイド卿はいいのかしら?」

「そういうピアースは? タンクを襲わないの?」

「やらないわよ! ああいう一途な人を弄ぶように見えて?」

「じゃあ一途じゃない人は弄ぶんだ?」

「だからしないわよ! イジワルねぇ」


 ピアースはロイドの後ろに立って護衛をしている。ピアースは姫に気を利かせていた。

 ロイドはそのことに気が付かない。


「ねぇ、ロイド卿とお近づきにならないと」

「どなたか先に」

「ご挨拶だけで終わっちゃうわ!」

「でも……」


 ロイドの周りには王女、リトナリア、紅燈隊が常にいる。彼女たちが離れてもピアースがいてロイドと親密になろうとしている令嬢たちの道を阻む。

 だが、一人が勇気を持ってピアースに物申した。


「ワタクシ、ロイド卿にお話がございます。あなたは外してくださいませんこと?」


 そういう時、ピアースの眼と口は半月状に代わり、一言、二言耳打ちする。

 すると令嬢は顔を真っ赤にして立ち去っていく。

 



「イジワル小姑みたいね、ピアース。よくやってくれましたわ」

「ああ、いたいけな少女の夢を砕くなんてツライ仕事ですわ」

「心にもないことを……ちなみに彼女には何と言ったのかしら?」

「『私の男を軽々しく誘わないで』と言いました」


 姫は顔を真っ赤にしてピアースをしかりつけた。しかし彼女に反省の色はない。


「姫様、他の令嬢はこれで良いのよ〜。でもね、私でなくともいずれ極親しい者とロイド卿は自然な流れで身を固めると思います」

「へ? それって……」


 視線の先に居たのは一人のメイド。


「で、でもメイドよ?」

「良い子ですよ。うかうかしていたら後れを取ります。今日でハッキリとさせましょう? 姫様の気持ちを」

「わ、私の……?」


 姫は再び顔を真っ赤にした。


「ピアース、姫様をたぶらかすのはやめて下さい」

「は〜い」


 マイヤに嗜められ、ピアースはロイドの元に戻った。

 だが、しっかり腕を組んで、姫に見せつけた。


「ぐぅ、ピアース〜!」

「姫様、堪えて下さい……」




 パーティーで、姫がロイドに伝えたのは誕生日の祝いの言葉と日ごろの献身への感謝、そして今後へのさらなる期待だった。


 ピアースが焚きつけた甲斐なく、二人に進展はなかった。


 だが、別のところで意外な関係性が生まれていた。




「ご苦労様です」

「恐れ入ります。ごゆっくりお休みください、王女殿下」

「あの……」

「はい?」



 屋敷に泊まる姫を部屋へ案内したヴィオラは呼び止められた。


 



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