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7.ガンバレ副隊長


 ロイド九歳。


 彼は自分自身で成長を実感している最中だった。

 身体の成長だけではなく、戦闘に慣れ、対応力が付き、多くの騎士から技術を盗んだ。


 特に参考としたのは副隊長のオリヴィア。


 彼女は誰よりも早く動く。



「――どう、ロイド卿、参考になったかしら?」

「はい、とても」


 オリヴィアが説明し、実践し、ロイドに見せる。

 彼女はテトラと違い教えるのは上手かった。

 

「あと、こういう時はもっとこうすれば――」

「ああ、なるほど!」


 二人はロイドが叙任されたときにひと悶着あったが、今では良い上下関係を築いている。


 確かな実力とそのための努力をロイドは尊敬し、オリヴィアもまたロイドのひたむきさを好ましく思っていた。






 だが、しかし!

 これはあくまで戦いについて()()である!!


 王宮騎士は軍務局所属の一般兵とは違うのだ!!


 強ければ良いというわけではない!!


 華やかな宮廷に従事する高貴なる者として努めなければならない。


 もちろん、それはオリヴィアも例外ではない。





「もうすぐ姫の十二歳の誕生日パーティーがあります」


 マイヤが隊士たちを集めて業務連絡をした。


「今回はその警備責任者をオリヴィアにしてもらいます」

「え、わたしですか?」


 一同から不安の眼差しを受けるオリヴィア副隊長。




 そう、彼女は強いが他のことはダメダメなのであった。



「副隊長、手伝いましょう」

「ロイド卿、でもこれは私が……」

「別に一人でやれと言われたわけではないですよね。部下を上手く使って下さい」

「うっ、ロイド卿……ありがとう!!」


 ガシッとオリヴィアがロイドを抱きしめた。

 甲冑のままで。


「いたたた!! そういうとこだよ副隊長!!」

「ご、ごめんね」


 不器用ながら努力しつつも要領が悪く全く仕事ができない副隊長に翻弄されながら、ロイドは警備計画を立てようとした。



「警備側で参加するのは初めてですが、段取りの把握と警備に就く兵士との連携、あとは非常時の対応ですよね?」


「…………」


「副隊長?」


 問いかけるとオリヴィアがビクついた。


「ええっ!? ああ、うん。そうね」

「話聞いてたの?」

「き、聞いてた!!」


 身体を竦ませながら、話を聞いてたことを必死に目でアピールする。

 ロイドがじっと見返すと目が泳いだ。


「これはおれ一人では無理か」

「見捨てないで!! がんばるから!!」

「大丈夫です、他の人を巻き込みましょう」


 ロイドは参謀のメイジーを加え、地道にオリヴィアへ応対能力をつけていった。





「貴様、落ち目の下級貴族の分際で無礼であろう!!」

「そちらこそ、成り上がりの風見鶏のくせに分を弁えたらどうだ?」



 宮殿の庭で貴族同士が言い争う。

 金髪の女と若い少年。今にもケンカになりそうな気配。

 そこへツカツカと近づいたのはオリヴィア。


「二人とも姫の祝いの席よ。黙らないと斬るわよ!!」



「はいダメー!!!」



 ロイドが大きくダメ出しした。


「ええ!! なんでよ!!」

「なんで斬るんですか!? 祝いの席を惨殺現場にする気ですか!」


 メイジーがたしなめる。


 パーティーで大変なのはトラブルへの臨機応変な対応。

 今はその練習中。

 ロイドとメイジーが考え得るトラブルを演出し、オリヴィアに対応力を磨かせようと試みた。



「じゃ、じゃあ、どうすればいいのよ!」

「祝いの席にわだかまりや(いさか)いは持ち込まないようお願いして下さい」

「じゃあ、言うこと聞かなかったら斬っていいの?」

「ダメですよ!! なんでことごとく斬ろうとするんですか!?」


 ロイドは辛抱強さを辛抱強く教えた。


 

 ただしロイドの教え方はスパルタだった。



「ひゃひゃひゃ、酔ってしまったのぉ。お嬢さん肩を貸してくれんかねぇ?」


「え、その……」


 女中に迫る男はその手を彼女の臀部(おしり)に伸ばした。


「セム子爵、祝いの席だからといって女子の身体を触るのは禁止です。()()()()()()()()()、事前に陛下より通告されていた会場内での注意を読まれなかったのですか?」


「う、いや……つい、これは失礼!!」


 男は逃げるように廊下を早歩きで去って行った。


「あ、ありがとうございます、レイニー様」

「いいのよ、仕事頑張ってね」



 パーティー当日の警備は完璧だった。

 

 オリヴィアは努力の甲斐あって来賓の顔と名前を全て頭に入れることに成功していた。

 無礼な印象があった彼女が、自分の名前を憶えてあいさつをすることに貴族たちはそれまでと一転、好ましい印象を持った。

 同時に知られているということが騒ごうとする者を抑えることにもなっていた。


 


 こうして大きなトラブルなく、システィーナの12歳の誕生日パーティーは成功を収めた。


「よくやってくれました、オリヴィア副隊長」


「ありがとうございます、姫様…………え?」



 パーティーの後。

 システィーナからオリヴィアへ手渡された花束と、木の箱。


「あ、あの私は誕生日では…………」

「これはお礼よ。それに少しはこういうのも興味を持ってね」


 中にはイヤリングが入っていた。

 言われるがまま着ける。

 

 それは難題に努めて一つ人として成長した彼女をより端然として見せた。


「貴族の顔を覚えたなら気になった殿方もいるのではなくて?」

「え、いいえ、そんな余裕は…………」

「ひょっとしたら今日のオリヴィアを見て求婚されるかもね」

「じゃあ、結婚して退団するのはオリヴィアが先ですか」


 テトラやマイヤにからかわれたと思ったのか、オリヴィアはむっとした表情で言い放った。


「しません!! 私が身を捧げたのはこの隊ですから!!」


 

 そういった後、オリヴィアはロイドをぎゅっと抱きしめた。


「はぇ!?」

「甲冑を着て無かったらいいんでしょう。ありがとう、ロイド卿。あなたのおかげよ」


 年相応の屈託のない笑顔を見せるオリヴィア。


「オリヴィア副隊長〜?」


 一方、年齢にそぐわない迫力で迫る姫。


「ひぃ、姫様なんで?? 皆してるのに……」



 システィーナに睨まれたオリヴィアは原因が分からないのでロイド抱き抱えたまま逃走した。





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