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6.破格学生ロイド


 王立魔道学院とは!


 魔法の才ある者だけが入学を許されるエリート校である!

 規律は厳しく、進学課程はベリーハード。

 その代わりに中等科卒業の暁には高級官吏の道が確約されている。

 当然ながら、魔法以外の課程もあり魔法職以外の官職を目指す子もここに入学する。




「ろ、ロイド君…………こんなの無理だよ~」


「不可能を可能にするからこそ、革新と呼べるのだよ諸君!! さぁ、このプレートで最後だ。あと三ミリ圧縮するぞぉ!!」


「「「い~~や~~~!!」」」


 ロイドは学院の工房で技師志望の学生たちに厳しい指示を出す。


 鎧の各プレートを限界まで圧縮する実験。

 通常は土魔法の『鉄の鎧(メイル)』という魔法を複数人で同時発動し、鋳造された鉄を圧縮する。


 これは鎧を魔導具にする工程。

 魔法陣や魔法回路をプレートに刻み、それを圧縮することで膨大な魔法の工程を詰め込む。


 例えば1メートル四方のプレートに魔法陣をびっしり書き込み、それを潰さないように30センチ四方へ縮める、という作業だ。


 これが実にしんどい。



「ロイド君……もう……無理……魔力ないし」



「あきらめるな!! 理論上は可能だ!! あとは慣れだ!!」

「ええ~」

「うるさい、おれは見本を見せてやる!!」

「「「おおお~」」」



 本来の『鉄の鎧(メイル)』は土属性の魔法で圧力をかける。その際元となるのは基礎級の『石礫(ストーン)』だ。砂を石ころにする魔法。その圧力は魔力を増やすことで大きくなる。


 つまり魔工技師の技量の半分は魔力量だ。

 

 これが魔道具作成の難易度を上げ、技術の流布を阻んでいる。

 技術や知識があっても魔力が足りなくて理想へ到達できない。


 だからロイドはやり方を変えた。というより新しい方法を開発した。



「鉱物に土魔法『石礫(ストーン)』で干渉して一塊にし、火魔法『着火(イグナイト)』で熱を加え、風魔法『気流(ガスト)』、水魔法『水流(ストリーム)』で空気や水分などの不純物を取り除き、『石礫(ストーン)』の圧縮(チャージ)で再度密度を高める。それを繰り返す」

 

 複合魔法の『圧縮(チャージ)』だ。

 四つの属性をローテーションで用いる。高度だが使うのは全て基礎級。


「す、すごい!! 一人で魔工技師数人分の加工を、こんなに早く、しかも出来栄えも一級品だ!!」


 極薄のプレートが出来上がった。この『圧縮(チャージ)』ができるようになれば、大量の魔力が無くても数人が連携すれば一流の魔工技師が作るような高度で複雑なプレートがたくさん生成できる。


「でもむりだよ。これはロイド君だからできるんだよ。ぼくらじゃパスが干渉して結局無駄に魔力を消費しちゃうし、出来もあんまりだし……」


「うん……おれ、土魔法以外は得意じゃないし」

「ぼくも」

「おれも」

「…………そうか。別に強制はしない」




「本当に工房に入り浸っているとは、落胆であるぞ」








 そこに突然、見慣れない生徒が数名やって来た。

 身なりと口ぶりは貴族。



「どちら様ですか?」

「私は中等科三年のスティーブ。ノースローア詠唱真学派である」

「私に何か?」

「この私と勝負しろ!!?」



 静かに穏便に過ごそうとしているロイドだが、その存在自体が事件である。


 生い立ちは純血統派の貴族を苛立たせ、その魔法能力は詠唱学派を刺激し、名声と力は下心あるものを引き寄せ、なによりその行動力が問題を起こす。




「いいでしょう。私が勝ったらもうこちらに干渉しないで下さい」


「いいだろう。その代わり、負けたらこちらに従うと誓えよ」




「今回の勝負は火魔法『火球(ファイア)』の『ダメージ深度』で競う!!!」



 ダメージ深度―――1つの的を攻撃する。的の内部、何層まで威力が浸透したかで魔法単発の攻撃力を測る

 

「まずい、ロイド君やめた方がいいよ!」


 技師の生徒たちが不安を煽る。


「火魔法はおれも使えるぞ」


「違うよ、実践じゃないんだよ? これは試験でよくやる測定なんだ。ロイド君は魔法の制御とスピードは一級品だけど、詠唱魔法の完全詠唱とじゃ威力が違うよ」


 

「そういうことだ。無詠唱が実戦で有効だということは認めよう。だが、時間の制約が無いこの測定で無詠唱など無意味。単純に同じ魔法を発動すれば、完全詠唱の方が勝つのだ!」


 



 三回の攻撃で何層まで破壊できるかを競う。

 

 

 

 スティーブは1分ぐらいずつ詠唱をして『火球(ファイア)』を発動し、的の深度は7。鋼鉄を熔解させるほどの高熱だった。


(正直なめていた。対人級魔法の『火球(ファイア)』であれほどの威力を出すとは…………)


 なぜ詠唱に時間を掛けると魔法の威力が上がるのか。

 ただ考えていても答えは出ない。


『我が意に応えし英知の灯火に智をもって命じる―――寂莫たる広袤より出でし四元を修め、現生にて火を顕現、握し、その力を行使する―――』


 ロイドはスティーブの完全詠唱をそっくりそのままマネた。


「ふはははは、ばかめ! 所詮は子供の浅知恵! 見よう見まねで上手くいくはずがないだろうが!!」


『―――大気を喰い昇る、風を飲み生を焦がす、無慈悲な美しき緋色。巡るもの逆巻く形態轟く実態、進みて弾けよ。不変なる物の否定と形ある物の脆弱、焼き付ける斑、無常なる変質。されば智を持ちて行使し、理を用いて制し、心を要に放つ―――』


「ほ、ほう……詠唱は知ってたようだが、そんな抑揚も無い言い方で魔法が発動するかな?」



『――焼却せよ、火球(ファイア)!』



 長い詠唱を何とかクリアし、火の玉が生まれた。同時に内包した大気が熱せられガスの噴出による推進力で的に向かって飛ぶ。


「発動しただと!!? バカな!!」

 

 しかし、その火球は的を逸れて後ろの壁を焦がした。


「ふはははは!! だから言ったのだ!! 愚かだな!!! アハハッ!! もう私の勝利は決まったも同然だ!!!」


 勝ち誇るスティーブと取り巻きたち。


「問題ない。もう掴んだぜ」


 ロイドの目的は完全詠唱した際の魔力の感覚を掴むことだ。




「おい、もう負けを認めろよ。三回のうち一回を外したら、二回で私の火球三回分の威力を越えねばならないのだぞ? そんなこともわからないか?」


 だがロイドは集中に入った。


「聞こえてない。すごい、なんて集中力だ……」





火球(ファイア)』は基礎級の『着火(イグナイト)』と『燃焼(バーン)』を合わせた魔法だ。火を生み出し、燃焼の効果で火を大きくしつつ、推進力を発生させ放つ。


 無詠唱の場合と、完全詠唱の場合で何が違うのか。


 それはタメと工程の移行タイミング、魔力の配分だ。



 ロイドは的に向かって、無詠唱の『火球(ファイア)』を放った。



 周囲を赤々と染める火球。


 高速で射出された火球は的の中央に当たり、まばゆい閃光を発し、轟音を鳴り響かせた。



「そ、そんな……ばかな……違う、違う違う!! こんなのは火球じゃない……」


 がくりと膝をつくスティーブ。


「正真正銘『火球(ファイア)』です。対魔級の『火炎(フレイム)』でも対軍級『豪炎(ヴォルケーノ)』でもないでしょう?」



 ロイドは完全詠唱におけるタメの割合と、工程の移行タイミング、魔力の配分を無詠唱で再現した。

 

 

 たった一回で、ロイドの魔法攻撃力は30パーセント向上し、ダメージ深度を測る的は消失した。


 




「ロイド君!! できたよ!!」


「どれどれ…………だめだ、まだまだだ!!」


「「「「ええ~~」」」」


「でも、やるよ!!」

「そうだな!」

「おれたちで常識を変えてやろうぜ!!」



 スティーブとの勝負以降、魔工技師志望の学生たちはやる気を出し、ロイドがやった四属性の『圧縮』(チャージ)を再現することに成功した。






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