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5.バーサス銀河隊(新)



 銀河隊と紅燈隊の合同演習の目的。


 それは表向き騎士団の能力向上と王宮騎士の連携を図ることだが、実際は銀河隊によるロイドへの意趣返し。


 仕返しである。


「我々正統なる王国の担い手の力を、平民に分からせてやるのだ!!」





 試合形式で行われた勝ち抜き戦。

 一番手はロイド。


「「「ガンバレ、ロイド卿〜!」」」

「ロイドちゃん、ほどほどにして差し上げなさい」


 応援にはシスティーナも駆け付けた。



「華やかな応援だな。子供のお遊戯のようだ」

「よろしくお願いします」

「言っておくが、手加減なんて期待するなよ化け物。王族の前で貴様の化けの皮を剥がしてやる!」


 騎士の鎧が淡い緑の光に包まれ、滝のような汗をかき始めた。


「ん?」

「ぜぇああ!!」


(早いっ、意外に……でも――)


 ロイドはモノにした風魔法による高速移動を駆使しかわしつつ、的確な刺突を食らわした。


「ぐぉぉ……貴様、よくも高貴なおれの身体に傷を……」

「いい甲冑ですね。もう少し深く抉るつもりだったのに」

「なっ……」



「良いです。完璧な刺突です。あれは私が教えたのです」


 メイジーが誇らしそうに胸を張る。


「次も油断しないで下さいね〜」

「彼が油断するはずないわよ」





 次戦。

 的確な連撃、その一撃一撃に風魔法の勢いが加わり、八歳ではありえない力を発揮する。


「とぉぉらぁ!!!」


 力で押しまくる相手の剣をロイドは難なく受け止めた。


「何だと!!」


「へへん、いつも誰と訓練してると思ってるのさ!!」


 テトラが誇らしそうに胸を張る。

 



「これ、このままロイド卿だけで勝てちゃうんじゃない?」


 紅燈隊からは余裕の声が出た。


「調子に乗るなよ。平民風情が。このガルーラ家当主、銀河隊第七席、ダルが貴様に敗北を味合わせてやろう」


 結果は瞬殺。

 

「バカな、ダル卿が負けた」

「なんということだ。全く歯が立たないとは」

「どっちが子供かわからん」



「あれ、これ……」


 続く六席、五席、四席でもロイドの相手にならない。


「すごい、すごい、ロイドちゃん強い!!」

「システィーナ、はしたないですよ」

「でもお母さま、私の騎士が活躍してこんなにうれしいことはありませんわ」

「そうですね。まだ8歳……どうなるのかしら」


 はしゃぐシスティーナに対し、怒気を強めるジェレミア。


「子供相手では手心を加えてしまうのだな。構わない、騎士ならば全力で戦うが良い」


 しかし、副隊長との戦いも、ロイドの圧勝と終った。


「なっ……ばかな……貴様は私の動きが読めるのか!?」

「だって全員同じ動きなんだもん」

「ぐぅ、おい、騎士同士の戦いに魔法を使うのは反則だろう!!」

「そちらも魔道具を使っているじゃないですか」


 ロイドの関心はすでに勝負の行方ではなくなっていた。


(いい甲冑や剣を使っている。魔導具だけで本人の力を150パーセントは向上させているぞ……)


 

「悪夢だ……我々がこんな子供に……しかも平民に負けるなど」


「あ、もういいです」


 十分観察し終えたロイドは隊長との試合を辞退した。

 

「逃げるのか!!」

「なんという無礼! 何たる傲慢!!」


 銀河隊のヤジが飛ぶ。

 それをかき消すように幾多の甲冑の音が律動した。


「熟練の魔導士の力は騎士の三倍から五倍と言われています。恥じることはありません。それより、私たちは手が空いています。まだお相手いただけますよね?」


 マイヤの誘いからが銀河隊の本当の悪夢となった。

 隊長がマイヤに叩きのめされたのを皮切りに紅燈隊たちを前に、成す術なく敗れ去った。


 日頃の訓練の差がハッキリと浮き彫りとなった。


「ジェレミア公、どうやら恥の上塗りになったようですな」

「所詮、血統と家柄で集めた二流、三流の集まりだ」

「魔獣拡大の件で反省した様子もない。これがいいお灸となるだろう」


 王宮の官僚たちは口々に銀河隊を酷評する。


 ジェレミアは目を血走らせながら拍手した。


「……素晴らしい。紅燈隊は努力を重ね、銀河隊に並ぶ強さを手にした! その健気さこそ王国への忠誠心の表れ! 見事であった!」


 絞り出した称賛のことを吐き捨てるように放ち、足早に去って行った。



「やれやれ、それにしても紅燈隊はどうだ?」


 官僚たちは紅燈隊の評価を格段に上げた。


「あれこそ完成された騎士の理想像だ。なにより実戦的だ」

「紅燈隊発足以来最強。問題児が多かった印象だが」

「やはりロイド・ギブソニアン卿か」

「王女殿下は先見の明がある。男子の加入はこれを見越してのことか。御見それした」


 そんなことを言われているとは知らず、ロイドは戦いのことなど忘れて、全く別のことを考えていた。





「あれらの鎧、なんでみんなは使わないの?」

「隊長が使わないからかしら?」

「いえ、入手が難しいからでしょう。あれらは魔獣の特別な魔石を人に応用できるようにできた希少な魔導具です。あれらを独占しているのが純血統の強みだったので」


 メイジーの説明を聞いたロイドは、興味を増した。


「つまり、特別な魔石の効果を魔法で再現できるなら、人工的に造ることもできるんだ」

「それが簡単にできたら苦労は無いですよ」





 ロイドに新たな趣味ができた。

 

 魔道具の作成だ。


 ロイドは王都に戻る際、1か月間の学業休暇の許可をもらっていた。

 それを活用し、王立魔道学院の工房に入り浸り魔導技師志望の学生らとより細かく、より複数の操作を可能にする魔導プレートの作成に取り組んだ。


「ねぇ、ロイド君。こんなに緻密な魔法陣を組み込んで何を動かすの?」

「これを全身に纏って鎧にするんだ。身体強化魔法の再現ができるように」

「ええ! そんなの無理だよ。あれは魔導士が再現できない魔法なんだよ?」


 もちろん、ロイドには魔法の再現が如何に難しいか理解していた。

 どのように肉体に影響を及ぼしているのか不明の魔法は再現しようがない。


「属性魔法を組み合わせて、このシリンダーのピストン運動を――」


 完成は程遠い。

 だが、その理論は確実に実像を描いていた。



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