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4.紅燈隊の盾




「そいじゃ、ロイド君。私とペアだね」


「…………どうも」


 演習場での訓練。

 六席のロイドの相手は四席のテトラ。

 一見すると八歳のロイドと大して変わらない少女なのだが、紅燈隊では古参の隊員。

 

 二十代半ばとは思えないハツラツとした顔。

 にっこりと笑った顔はより一層幼く見える。


 それとは対照的にロイドは神妙な面持ち。


「もう~、なんでそんな嫌そうな顔なのさ!」

「テトラは教え方下手だし、荒っぽいし、盾と(ハンマー)だし」


 ロイドにとってテトラは相性の悪い人物だった。

 理由は明確。


「だって、テトラはどうせおれを甚振(いたぶ)ってから言うこと聞かせようとするんでしょ?」

「人聞き悪いよ!!」

「いや、実際やるじゃないか。女湯に放り込んだり、服を女物にすり替えたり、隊長にイタズラさせたり酒に付き合わせたり…………」

「わかったわかった! 勝っても何も要求しないし、強要もしないから!!」

「信じられない信じられない」

「ええー。ちょっとロイド君、かわいいおふざけじゃん、あんなの」


 ロイドのテトラが苦手な理由。

 悪気が無い。だから、責めても暖簾(のれん)に腕押し。徒労に終わるのだ。ロイドの主張はテトラの心に響かず、同じ日々が繰り返される。


 逆に言えば、この六席と四席の力関係を逆転させれば、立場も逆転する。



「今日こそはそのとぼけた面に一発入れる!!」


「酷ッ! 一応先輩で年上で上司なのにぃ!!」



 遠距離から魔法を使えば容易いが、それでは騎士の訓練にならない。


 ロイドは剣を構えた。


 一方テトラは盾を構えた。



 その全身を完全に覆う巨大な分厚い盾。

 その盾を片手で構え、もう片方の手には(ハンマー)を持つ。

 基本的に隊内では防御の要として働く彼女だが、ドワーフの剛腕を受け継ぎ、一撃の破壊力も隊内随一だ。




 ロイドはテトラを支点にぐるぐると回り始めた。

 しかしそれに釣られず、テトラはじっと待つ。

 



 背後に回った瞬間に、ロイドが切り込んだ。

 しかし、その剣は巨大な盾が阻む。


「ぎゃっ」


 逆にロイドを吹き飛ばした。


「ワオワオ! 今日は剣を手放さなかったね! でもまだまだだよ! 本番だったらこの(ハンマー)の方でカウンターだからね!」


「くっ、このバカ力め!!!」


 ロイドは盾の上からお構いなく剣を叩きつけた。しかし盾はビクともしない。


「はは、がむしゃらにやってもムダムダ!!」



 ロイドの踏み込みと同時に盾が迫り、ぶつかり、大きく剣が弾かれた。


「……ッ!!」


 何とか手を放さなかったがロイドの身体ごと後方に吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がる。



「ナハハハ!! 私に一太刀入れるのはまだ早いって!!」



「……ハァハァ……デブ」


「えええ!! 悪口!! 普通に悪口だよ!! あと太ってないよ!! いつもお風呂で見てるでしょ!!!」


 

 体格に差はないが装備の重量が違う。

 さらに敵を弾き飛ばす、自重を駆使した体技。


 大人の男が束になってもその盾は突破できない。


「ハァ、ハァ…………よし!!」


「お、いいよ。来なさーい!」


 ロイドは勢いよく正面から剣を振るった。

 それをフェイントに、大きく沈み込み、盾に密着した。



「なるほどね」



 死角から盾を掴み、内側に強引に剣を突き立てようとした。



「うりゃああ!!」


「わぁぁぁ!!」



 ロイドは空を飛んだ。


 テトラは盾に捕まったロイドごと、盾をフルスイングした。たまらず手を放してしまったロイドは数秒宙を漂い、演習場の外まで投げ飛ばされた。


「ぐああ、くそぉぉ!!!」


 グルグルと回転し前後不覚のまま衝撃を覚悟する。




[バフっ]


 何らかのショックアブゾーバーが働き、衝撃が緩和された。

 

(柔らかい、いい匂いが…………ん? いや、だめだ、この香りは!!!)


 嗅ぎ覚えのある香水。

 

 

 

 ロイドは恐る恐る顔を上げる。




「テトラにいじめられたのぉ?」


 緩いウェーブの黒髪美女がにっこりとロイドを見下ろしていた。


「…………ピアース」


 演習場の外にいたのは半裸でうろつく唯一の騎士、三席のピアース。

 飛んできたロイドを受け止め、そのまま抱っこしていた。


「私の胸に飛び込んで来るなんて。よしよし、怖かったですねー」


「うわわ捕まったぁ!! 離してください!!」


「フフ、いーや! ちょうどこれくらいの抱き枕が欲しかったのよ」



 ロイドは力づくで腕を剥がそうとするがビクともしない。鎧を着て飛んできたロイドを軽々と受け止めた力はテトラと遜色がない。


「ふ~ん、そうね。たまにはロイド卿に意地悪な先輩の懲らしめ方を教えてあげましょうかねー」


(あんたもその先輩に含まれるんだが…………)


「ああ、ピアース!! 今頃来てロイド君盗らないでよ!!」


「あなたは楽しそうだけど、ロイド卿は御不満みたいよ。男と女は一方が楽しむだけではだめよ。お互いが気持ちよく………テトラに言ってもわからないわよね?」


(一々説明がエロい)


「むかー!!! だれが処女だぁ!!!」


 耳まで真っ赤になったテトラ。


(いや、言ってないだろ)


 ピアースはロイドを下ろし、テトラに歩み寄った。その手にはロイドの使っていた小ぶりの剣。



 全く力みのない動きにテトラは攻撃を当てられず、接近したピアースを警戒して盾を構えた。

 


 そこへピアースの鋭い突き技が盾の中央に繰り出された。


「うりゃあ!!」


 攻撃を察知し、テトラは突きを跳ねのけようと体を沈ませた。しかし―――


「ありゃ?」


 手応えの無さに一瞬戸惑う。その時起こったことを後方でロイドはしっかり見ていた。




 

 彼女は突きを放った剣の切っ先を支点にふわりと舞い、ネグリジェもふわりと翻った。

 不覚にもロイドはその中身に目を奪われた。


「意外に白…………」



 ピアースは突きと同時にテトラの上を宙返りし、背後を取った。

 テトラは、後方へと(ハンマー)を振り回した。


 あらかじめ読んでいたようにピアースは態勢を低くし、それを躱していた。


「ああ!!」


「えいや!!」


 完全に成す術のないテトラ。

 その脇腹に回転蹴りがさく裂。



「かっは……」


 ロイドと同じようにテトラは宙を舞った。


「ね? テトラを倒すぐらい簡単よ」


「ううう、ひどいよ~今の本気だったじゃん」


「あなたもでしょ」


 ピアースが風紀を乱しても騎士を続けられる理由。

 それがこの戦闘能力の高さにあった。


「盾が強力でもやることは一つ。構えていない側を狙うのよ。翻弄して隙を作るまではいいわ。あとは攻撃にも強弱をつけて不意を突く。わかった?」


「わかりました」



 テトラと違うのは教えるのもうまいという点だ。

 そのおかげか、騎士らしからぬ日々を送りながらも隊内の信頼を得ている。



「ふふーんだ!! やれるものならやってみろー!! もう翻弄されないからね!!」



 ピアースが見守る中、ロイドは先ほどの彼女の動きを何度もイメージし直していた。



 最初と同じく円を描くようにテトラに接近。

 

 そしてピアースのアドバイス通り、翻弄した。


「ちょっ、うっとうしぃ!!」

 

(ここだ!!)


 ロイドは突きを繰り出した。


「え?」


 テトラは驚いた。


(さっきのピアースと全く同じ……!?)


 振り返るとそこにはやはりさっきと同じ光景。


「あら、できるじゃない」


 テトラは思わず『鬼門/気門法』を使った。



「うりゃあああああああ!!!!」


 至近距離で地面を穿ち、その土石がロイドを襲った。


「がばば……」



 大量の土石が広範囲にまかれ、ロイドは土の中に埋まった。



「ああ、やり過ぎた!!」



 慌てて土の中からロイドを掘り出す。気を失っていたが呼吸はしていた。


「はぁ……よかった。生きている」


「良くは、ないですね」


「ひぇ!!」


 テトラが振り返ると、そこにはマイヤ立っていた。ピアースは消えていた。



「魔法を使わないロイド卿に『鬼門/気門法』で応戦とは。しかも下手をすれば今のは死んでいたかもしれませんよ」



 周囲を指さすマイヤ。その先には大きく抉れたクレーター。


「…………ごめんなさい」




「ヤメロー!」


「だからごめんってば!! お詫びに身体洗ってあげるから!!」


 風呂場で逃げるロイドと追うテトラ。


「なんで、なんでドアが開かないんだ!! だれだ! そこで閉めてるやつ!! いや分かってる。ピアースだな!!」


「フヒヒ、ほらほら、もう逃げ場はないぞー。泥だらけなんだからちゃんと隅々まで洗ってあげるよ~」


「ひぃぃ!!」


 ロイドの悲鳴を遠巻きに見ている他の騎士たちは助けに入らない。


「二人とも、お風呂は遊び場ではありません。静かに入ってください。あとロイド卿、お湯温めて下さい」


「いや見てないで助けてください、隊長!!」




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