4.魔法2
結局、後にも先にも我が雑貨店にやって来た魔導士はあの女神のような女性だけだった。
一年ほど経ってもおれは彼女のことが忘れられず、いつか再会することを夢見て、日夜魔法の訓練に明け暮れた。
あの人が貴族の令嬢なら、この平民の立場で再会するためには、まず魔法で大成でもするしかない。
基礎級魔法がどういうものかは何とか調べがついた。
この一年の間に魔導士は来なかったが、冒険者は来たのだ。
彼らは見た目が怖いので勇気が要ったが、話しかけると結構詳しく色々教えてくれた。
この世界で一般的に魔法といえば、属性魔法――光・火・風・水・土を操ること。
詠唱は特殊な言語でもなんでもなく、特定のフレーズを言えば使える(謎の呪文系ではなく恥ずかしい詩を詠う系だ)。
才能が無い人は全く使うことができず、才能がある人は詠唱が無くても使える。
つまり[魔力]×[詠唱]×[才能]=魔法
または[魔力]×[才能]×[才能]=魔法
こんな感じだ。この[才能]とは現象に対する理解度とも解釈できる。あの女神が言っていたイメージと確信がこれに当たる。
基礎級とは、この属性魔法における、各属性の初歩的な魔法を指す。
最初に試したのは風。理由は大気を動かせば発生する、イメージのし易さ。試してみるとイメージ通り『送風』が発動した。
おれには魔法を使う才能に加え、詠唱という恥ずかし作業を省略する才能もあったらしい!
「できた……! これなら怪しまれずに使い続けられるな!!」
以来、この風の基礎級魔法を朝から晩まで維持するようにした。
日常生活で片手をかざしているのは不便なので、手を使わなくても集中できるようにし、風の周囲への影響を考えて風の向きを変えられるようにし、やがて見ていなくても任意の場所に風を自在に発生させられるようになった。
でも疑問があった。
こんな風程度で、何と戦えって?
所詮は基礎。これだけじゃせいぜい夏、涼しいし、落ち葉をまとめられるし、走るときズルできるし、いや結構便利!!
でも攻撃力が必要だ。
そこで生み出せるようになった風を使って試行錯誤を繰り返した。
風を強くするには?
風の規模を大きくするには?
結果、魔力を増やすか、回転を加えるか、複数を同時に操るかで決まると判明した。
風の魔法を使うとき、最小の風を生み出す『送風』、風を自在に操る『気流』、風を渦巻かせる『風渦』の三つは大体魔力の消費量は同じだが、それぞれ違う感覚の魔法だ。そしてそれ以上のことをする場合、この三つを組み合わせるか、魔力を増やすことで可能となる。
例えば、『風渦』で生まれた螺旋状の風に『気流』によって別の風を流すと、一気に渦の勢いが増して『風圧』が生まれる。
また、『風渦』に逆回転の『風渦』を合わせることにより、『風切』という、切断効果のある風が発生する。
何となく要領が掴めた。要はコンボを決めて大技を出すイメージだ。
こうして魔法による攻撃手段を得たおれは毎日近所の林に通い一人で魔法の訓練に明け暮れた。
それと並行して体力をつけるための柔軟と運動も習慣化した。
(前世じゃ苦手だったけど、ここじゃ体力はやっぱ必須だよなぁ)
トレーニングの方法は林の中を駆けるだけ。
効率的な鍛え方など、運動と無縁だったために考え付かなかったのでとりあえず走りまくった。
そうしてあっという間に時が過ぎ五歳になったころ、とうとう父親がおれの異常について切り出した。
「ロイド! 正直に話しなさい! お前がいつも一人で林に行っているのは他の子たちの親御さんから聞いて知っているんだぞ!」
紹介する必要がないので、父親については詳しく語らなかった。でも彼の名誉のために言っておくと、子供の心配をする常識のある親だ。
なんでみんなと一緒に遊ばないって?
同年代と一緒に遊ぶのは、精神年齢30のおれにはキツイのです。
だからって子供同士のコミュニケーションを絶っているわけではない。彼らは噂話なんかを持ってきてくれるし、何かの本で読んだが子供が同世代と話さないのは情操教育に良くない。
店の手伝いはしているし、林で魔法の訓練をしているのは昼から夕方ごろだけだ。だが、不気味に思うのも無理はない。
おれは普通の子供の振りをしているつもりでいたが、教わっていないのに四則演算が完璧で帳簿のミスを指摘する。さらに近所の子供たちと少し話をした後、一人で林に向かっている。
それだけ聞いたら、一体なにを隠しているのか不信がるのは親として当然だ。
(全てバレたな。ごまかすのは無理そうだし、仕方ない)
「林には魔法の訓練に行っていました。一人で行っていたのは遊びじゃないからなのと、まだ拙い魔法を人に知られたくなかったからです。魔法を習得して、情報を集めていたのは昔店に来た魔導士様に再び出会い、僕の魔法を見ていただくためです! 黙っていたのは知られたら止めさせられると思ったからです」
嘘はついていない。黙っていた理由はもう一つ、魔法を使えると知った両親がどう反応するのか予想できなかったからだ。自分たちにできないことをできる息子を誇るか、拒絶するか。
「魔法だと……? そうか、お前にはそういう才能があったのか……」
「……本当に魔法は使えるの?」
母親にそう問われ空中に水を生み出した。基礎級魔法の水属性、『成水』。
この時すでに風だけでなく、水、土の基礎級魔法も習得していた。水は大気中の水分を集めるイメージ、土は地面から砂を手繰り寄せるイメージ。難易度は土→水→風の順に難しくなる。
魔法を間近で見せらたら両親はしばらく黙ってしまった。
「無詠唱……」
その日両親の魔法に関する質問は長々と続き、正直にすべて答えた。
ブクマ・感想お待ちしています。
6167文字→二話に分割しました。