16.謹慎
「そういうわけでロイドちゃん謹慎です」
「えええええ! どうして!?」
一連の大事件から数日後、突然の宣告だった。
「それがね、お父様から『王宮内が事後処理で忙しいからこれ以上ロイドちゃんに活躍されても処理できない、落ち着くまでベルグリッド伯領でおとなしくしていて欲しい』と言われたの」
つまり、これ以上仕事を増やすなということか。くそう、あんなに頑張ったのに……いや待てよ……王都を離れた方が自由気ままに仕事を選べるんじゃなかろうか。そう考えると悪くないのか?
「ロイド卿は悪くないのに、ひどいわ!」
オリヴィアが味方してくれている!? 意外だ。
「あら、副隊長、いつの間にロイドちゃんと仲良くなったの?」
姫に問われて、うっ、と言葉に詰まる。
どうした? デレたのか? 唐突に?
「私はただ、功績には正当な評価が……必要って、お、お、思ったのです……」
オリヴィアは姫様のビンタがトラウマなのか、話しかけられると百面相する。それを楽しそうに見る姫様。
ああ、姫様、まだ10歳なのに小姑みたいに育ってしまわないで欲しいんですが……
「確かにその通りですわ。でもこの事件は王室への不信感も生み、対外国家に付け入られる隙になりかねないの。だからここを乗り越えて王室の信頼を取り戻すまで少し待って欲しいということなのよ?」
「は、はい、すいません」
まさか、あれだけ多くの役人が関わっているとは思わなかった。
しばらくおとなしくしていよう。
こうしてロイドはせっかく卒業検定に受かったのに王都を離れることとなった。
◇
「まだ、できないの? 一体いつまで待たせる気?」
「そうはいっても、相手は今や貴族様だぜ? そう簡単にいかねぇんだよ。それにアンタだって義理とはいえ息子が大出世してくれた方が楽できるだろう?」
そこは人気のない運河の掛橋の下。
女はフードをかぶり、男とたびたび密会している。だがその内容は男女の会話ではなく、依頼主とその依頼相手による陰謀めいたものだった。
「ふざけないで! あのクソ虫が私の家に居るだけで虫唾が走る! 私の可愛い息子たちをバカにして、傷つける! 父はあの蛆虫に殺されたのよ! 害虫がいくら出世しようと害虫なのよ!! その害虫をさっさと駆除しなさいっていってるのよ!!!」
「落ち着けよ。話は聞いてやってるがやるとは言ってねぇ。その害虫を駆除するのにもそれなりの報酬と計画を練る時間が必要で……」
「御託はいいからさっさと殺して! 剣で刺せば死ぬでしょ! そんなこともできないの! 役立たず!」
ヒステリックを起こした女に不快感を感じ、男ははっきりと言った。
「てめぇを先に殺してやろうか? それなら報酬も時間もいらねぇ。だが、あのロイド卿をすぐやれってんなら、お断りだ。今までは金払いがちゃんとしてたからアンタのその態度にも目をつぶってきたが、限度ってもんがある」
「なっなんですって! そんなこと許さないわよ!」
「御国のためにもあんたとあんたのガキが居なくなった方がいい。その方が皆幸せになれると思うがね。昔のよしみだ、辺境に逃げたいとなったら手配だけはやってやるよ。じゃあな」
「ふざけるなぁぁ! 戻れぇぇぇ!!!」
男が去ったあとも、しばらく橋の下からは金切り声が聞こえていた。
「あきらめない、絶対あのガキを殺してやる……!」
ベス・ギブソニアンはドス黒い感情を殺意に変えて日々、ロイドを呪い、その死を神に祈り、そして暗殺ギルドの者に依頼を出してきた。それが断られてもあきらめる気はなかった。なぜならそれが正しいと信じていたからだ。
だが、他人はもはや当てにできない。ベスが信用できるのはもはや血のつながった家族だけ。
ベスは無謀な計画を思いついた。それは自分の息子たちを過大評価しての計画であり、現実味がないものだったが、それが唯一の方法だと確信していた。
「あの子たちなら殺せる。そうだわ、あの子たちに殺させればいいのよ!」
このなんの論理性も無い狂人の確信が、現実になる日が来るとは神ですら予想していなかった。
この日より約5年後、ロイドの暗殺計画が実行される。




