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13.山賊2


 ロイドが急遽作戦を変更した意図に汚職兵たちは出発前から気づいていた。

 

 自分たちの存在は気づかれている。

 

 証人となる捕らえられた冒険者たちを山賊に襲わせる計画は使えない。

 第一陣で出発した汚職兵たちに出来ることは、自分たちで始末をつけることだけだった。

 

「……おかしい」


 それは護送車の後ろを馬で追走する汚職兵の言葉だった。

 捕まった冒険者をわざと逃がし追い立て、山賊がいる方へ誘導する。

 それが急遽決まったプランだったはず。


 だが、護送車が止まる気配がない。

 

 そしてこのまま馬車が進めばマズいことになる。捕まった冒険者を口封じ出来なければ大規模な調査が始まり無関係を装えなくなる。管轄が違う宿場街に着かれたらもう手出しできない。


「くそっ! なんでこんなことに!」


 追走していた汚職兵と同じく、護送車が止まらないことに焦りを見せていた護送車前方の汚職兵二人と脇を並走する共犯の冒険者二人は武器を構える。


「馬車に不審な点がある! 御者、早く止めろ!!」


 もはや体面など無い。

 無理やり護送車を止めさせ、襲い掛かる。


「おれたちでやるぞ! 護衛の騎士が様子を見に来る前に手早くやる!!」


 追走していた汚職兵がまず荷台の扉を開け突入。続けて冒険者、汚職兵が後方に回り込み突入しようとする。

 

 そして、その()()()()()()()()()()()()()()()()()荷台の中には同じように気絶して拘束された汚職兵三人がいる。

 突然馬車を止めろと言われ、物々しい雰囲気にビクビクしていた御者は一転して静かになったことで余計に不安になった。そして恐怖心からそっと後方をのぞき込んだ。


 そこにいたのは、金髪金眼の若い女だった。


 初めから襲撃した汚職兵たちがどうこうできる相手ではなかった。ロイドがこの女を護送車に乗せるよう指示した時点で汚職兵たちと山賊に加担する冒険者たちの命運は尽きていたのだ。


 相手は神。剣を極め、人から神へと成り上がった神話の存在。


 剣神システィナVS名もなき有象無象の戦いは勝負にもならず、システィナの眼を見ただけで気絶して終わった。

 

 魔王クラスでなければどうすることもできない。この数百年で間違いなく最も理不尽な取り合わせだった。


 ロイドは学生たちの身の安全、証人となる犯罪者の護送、そして汚職兵のあぶり出しと確保の全てを確実とするため、迷うことなくジョーカーを切った。


「おじさん、こいつら縛って荷台に放り込むから手伝って」

「お、おう? わかった!」


 事情を知らない御者からすれば兵を倒した女の方が悪党のはずなのだが、特に疑問に思わず命令に従った。


「おーい! 大丈夫……でしょうか……?」


 様子を見に引き返してきたルーサーはシスティナの姿を見て萎縮した。騎士からすれば冒険者は金級以上でもなければ格下扱いとなり、システィナは自分のランクを明かしていなかったので本来畏まる必要がないのだが、自然と(へりくだ)っていた。


「ロイド卿の指示は達成した。このままこの犯罪者を王都に護送できれば大規模な調査ができるだろう。あとはロイド卿が山賊をおびき寄せて頭を押さえることができれば、黒幕まで表舞台に引きずり出して断罪できる」


「黒幕ですか? 一体ロイド卿はどこまで計算づくで……」


 ただ山賊にだけ警戒するよう言われていたルーサーは、ロイドが自分の想像よりはるかに複雑な作戦を実行させているとそこで初めて知った。


(まさか衛兵までグルだったとは……それを見越しての作戦変更だったのか! そしてこの人、対面しただけで尋常でない強さを感じる。これほどの冒険者がいたからこそ、学生たちを先行させたわけか。しかもロイド卿の狙いは山賊ではなかったのか? 黒幕とはいったい……)


 その後、無事先行の一団は宿場街に到着し、街の騎士詰所に来ていた王宮騎士団、紅燈隊に捕まえた冒険者と汚職兵たちを引き渡した。作戦を実行するとなった際に最初にロイドが早馬で呼び寄せていたのだ。どこまで兵の腐敗が進んでいるのかわからない。手紙を姫に当てて出し手配を頼んでいた。


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