幕間 神鉄級冒険者システィナ
剣神システィナは誰もいない、小さな部屋の中にいた。古い部屋で中央に椅子が一つあるだけの殺風景な場所だ。
《聞いているの? シス、キチンと報告して!》
誰もいない部屋でシスティナは頭に直接聞こえる声と会話していた。
相手は慈愛の神エリアス。
彼女は神々の暮らす神界と交信するために、決して誰も訪れることのできない部屋に来ていた。いわゆる開かずの間というやつだ。
《彼に呼ばれたのは私なのに、どうしてシスが地上に行ってしまうのよ! それになぜシスはまだ地上にいるの? 早く戻って来て!!》
「何をいまさら。早い者勝ちですよ。それにあなたの魔性で彼があれ以上狂ったら大変です」
《前は興味ないみたいなことを言っていたじゃない》
「彼が魔導士として生きていくなら私には関係ありませんでしたよ? でも剣を持って戦うことに悩んでいたようなので。しばらくこっちにいますから」
《なっ! だめよ! 神が地上にいるなんて知られたら信仰に問題が起きるかもしれないわ!》
「大丈夫ですよ。私を見て神だと思う者も剣神と気づく者もいません。この受肉した身体がもつ5,6年の間だけです」
《だめよ、5年もシスに居なくなられたら寂しいわ! 死んでしまうわ!》
「ペットのウサギですかあなたは!」
《うっ……うぅぅ……スンスン……》
「ウソ泣きはいいんで」
《ひどい!》
「これでも忙しいので切りますね。ロイド君がどこにいるか探さないと」
《ちょっとシス? 今何して……シスゥ―――!》
「ふぅ……やっぱり魔導士の真似事は性に合わないな。あ……あのこと聞き忘れた。まぁいっか」
扉を開け、廊下を進み階下をのぞき込むとたくさんの冒険者がいる。
そこは迷宮都市の冒険者ギルドだった。
心配性の彼女は迷宮に行くロイドを追いかけてきていた。
ずっと後をつけて、実は宿屋で男たちを捕らえた時も、駐屯騎士と作戦を練っているときも迷宮での試験中もずっと後ろにいた。しかしロイドはおろか、他の学生、試験官、護衛たちは誰も彼女を視認できなかった。
そこまでしたのはロイドの身の安全を守るためではない。
(もし万が一、彼が好奇心で迷宮を攻略しようとしたら大変なことになっていたかもしれない)
案の定、ロイドは好奇心に負けてこっそり三階層まで行った。
システィナはロイドが迷宮の底にあるものを蘇らせまいかを危惧していた。
「まぁ、徒労で済んだし、帰りは一緒に……ん?」
階下に降りると多くの者がクエストの用紙が張られたボードを見ていた。
(確か、野盗を捕らえるとか衛兵と話してたね……オモシロそう!)
そこで気になるクエストを発見しそれをカウンターに持っていく。
「お待たせしました。はい、えっとすいません、こちら指名依頼ですので他の方は受注できないんですが……」
「わかってる。ほらこれを確認してくれ」
そう言ってシスティナはギルド所属を証明するギルドカードを提示した。その色は青みを帯びた黒に緋色と白銀の金属で装飾が施されていた。
「……?……ん?……聖銅と極銀で装飾されたカードって……ええええええええ!!!!」
神鉄級冒険者であることを証明するカード。
受付嬢はそれを見たローア大陸で初めての人となった。
受付嬢の声に他の職員がやって来て事情を聞くが、システィナはまず要件を伝えた。
「この《王立魔導学院の護衛依頼》を受けたい。極銀級以上の冒険者には確か指名依頼に無条件で助力する権利が認められていたと思うが……どうした? もう違うのかな?」
カード見て硬直しては別の者が来て硬直を繰り返しており、システィナの話を誰も聞いていなかった。
「お、おーい?」




