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11.迷宮


 山賊の討伐計画を駐屯騎士に伝えて戻ると、迷宮の前で試験を終えた学生が休んでいた。


「ロイド卿、あと10分です」


 ちょうど順番だ。


 迷宮に入ったことはない。

 しかし、基礎級を詠唱して使う学生がちゃんと戻って来られるのだから余裕だろう。


 迷宮に入るとまず、魔法がちゃんと使えるかチェック。問題なく全属性が使えた。

 

 さっそく松明を捨て、光魔法『発光』を発動。洞窟の全体が死角無く露わになった。

 迷宮内には行き止まりや竪穴があるが、照らすとはっきりわかる。

 

 迷うことなく迷宮を走り抜ける。

 

 先に進んでいると光に反応した小さい影が近づいてくる。

 

 ホーンラビットか……

 

 角の生えた、ただのうさぎだ。

 

 基礎魔法の『気流』で吹き飛ばす。

 すると、ダメージを負ったホーンラビットはスッと粒子となって消えた。


 おお、なんだかゲームっぽい。

 これまでこの世界の生生しさに適応してきたが、ここは勝手が違うようだ。


 後には小指の先の半分程度の魔石が落ちていた。

 せっかくなので記念に取っておこう。

 その後も小さな迷宮魔物に遭遇するが出会い頭に瞬殺して、走り抜けた。

 

 途中護衛の騎士に出会う。

 ルーサーは暇そうにしていた。大抵が竪穴の近くに立っていて、ルーサーも学生が竪穴に落ちないようにその傍にずっと待機していた。


「ロイド卿が来たってことはこれで最後だな」


「奥まであとどれくらいですか?」


「この先に装飾が施された石の門がある。あの下が二階層になっている。あそこにある札を証明に持っていけばもう終わりだよ」


 なんだもう終わりか、まだ10分くらいしかたってないのに。


「おれたちは撤収するけど、一緒に出るとマズいから先に行ってくれ」

「わかりました」


尽き辺りまで行くとルーサーが言った通り、装飾、というより式のようなものが彫られた白い石のゲートがあった。

 

 そしてその奥はより洞窟の幅が広くなっており、道も分岐が多く複雑になっている。


 あと40分は遊べるな。


 だって次にいつここに来れるか分からない。

 できるだけ直に見て色々知っておきたい。


 ゲートをくぐった。


 その後進むと何体か迷宮魔物に遭遇した。


 ホーンラビット(角のあるウサギ)×2

 グレムリン(大きな耳と目と口のある人型の魔獣)×3

 コボルト(大きな口を持つ小さい犬)×4


 どれも外の森で遭遇する一般的な魔獣だ。


 物足りない。


 えへへ、もうちょっと進んでみようかな……



 迷宮に入ってから一時間ちょうど。

 出口に戻ると、護衛の騎士たちがなぜか臨戦態勢。


 ちょっと時間かけすぎたかな。


「遅いぞ。あれから、二階層に行ってきたんだろう」

「え? あ、ああ! いやバレましたか! すいませんね! 好奇心に勝てなくて! どうもご心配おかけしました。この通り無事です!」


 三階層の途中で引き返した。あれ以上進んだら歯止めが効かなくなりそうだった。



 無事試験もクリアした。

 タイム 55分=100点

 魔石×25個=250点

 合計 350点でトップ。

 

 今回の検定の合格者は14人。クリフ、カミーユ、ジーナ、ロンドン、ヘイリーもみんな合格したらしい。

 その内ヘイリーが最速の42分(+20点)で魔石5個のクリアで合計170点の二位。

 ジーナはタイムこそ82分(−20点)だったが魔石8個のクリアで合計160点の三位。

 クリフはタイム55分、魔石3つの130点で四位。

 カミーユはタイム68分(−10点)、魔石3つの120点で五位。

 ロンドンはタイム58分、魔石2つの120点で五位。

 

 どうやらおれが乗せられた馬車は今年の初等科でも優秀な上から五人だったようだ。それぞれが少人数教室のトップだったためこれまで講義がかぶらなければ基本的に面識がなかった。

 しかし、今回の試験の合格者の実力で中等科のクラスが分けられる。つまりこの6人は中等科で一緒のクラスメートになることがこれで確定したのだ。

 みんな試験が終わって大分経つというのに、おれの試験が終わるのを待っていてくれた。

 

「やったわね。これからよろしくロイド君!」


 カミーユはそれまでの道中で見たことない晴れやかな、年相応の屈託のない笑顔を見せた。見ると、他の皆も緊張の糸が切れたようにリラックスした表情だ。


「魔石25個なんてすごいよ。コツがあったら教えて欲しいな」


 そういうヘイリーも他の学生より頭一つ飛び出ている。あの悪路を42分は普通にすごい。魔導士の体力の平均が60分なら42分クリアの彼はその3割増しの体力があり、加えて短時間で5匹も仕留める魔法能力があるということになる。


「ロイド君もヘイリーもジーナもすごすぎだよ。おれ、片っ端から魔石を集めようとしたのに、中々倒せなくてさ。やっぱ戦闘中の詠唱は学院でやるのと違って何度も失敗してしまった」


「まあ上位なのだからいいではないか。私はむしろ迷宮魔物との戦闘は避けたがね。合格は100点。毎年合格率は50%程度。ならタイムだけに気を付けて安全に進めば落ちることは無い。落ちた者の大半が戦闘を上手く避けられなかったゆえだろうし」


ああ、なるほど、要領いいな。


 ロンドンの言う通りこの試験の趣旨は冷静な判断力と状況に応じて対処する力があるかどうかだろう。迷宮魔物を倒す能力が図られるのではない。だから対応力が備わっていれば時間内にクリアして合格となる。魔法の力そのものはこれから伸ばすのだろうし、そもそも技術職希望の者と研究職希望の者に戦闘能力を求める方がおかしいのだ。


「戦闘、避ける、どうやって?」


 ジーナは片っ端から出会った迷宮魔物を倒し時間が掛かったらしいので、この限りではない。まだ10歳でそれができている時点で例外だ。


「それでは今季初等科卒業検定を終了とする」


 試験官より宣告があり、ようやく自由となった。まだ帰りがあるが生徒たちも騎士たちもひと段落ついて空気が緩んでいる。


 ヘイリーが上位組で昼食を一緒にというので、おれたちは適当に近くの食事処に入り席についた。迷宮が封鎖だったため店内は空いている。


「さて、乾杯しよう! これからのおれたたちに!」

「未来に向けて一歩前進したことを祝して!」

「出会いと友情に!」

「魔法の無限の可能性に」

「歴史ある魔導学院の栄誉とその威光に我々がまだ微力ながらその一部となり……」


「「「長い長い長い」」」

 

 今どきの青少年たちはこうやって祝うのか。おれも何か言わなきゃダメなのか。そうか。


「今日という日を神に感謝して!」


「「「「「「カンパ〜イ!」」」」」」


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