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1.一日


 おれの一日は優雅に始まる。

 

 王都でも第一級のホテルで目が覚める。

 まだ早朝だ。

 隣のベッドにはヴィオラが寝ているのでとりあえず布団の中に入って寝顔を黙って見る。


 適度に興奮して眼が冴えたらホテルの中庭で剣の稽古を始める。

 姫の護衛になったおれが下手くそではかっこが付かない。

 

 ひと汗かいた頃にヴィオラが起きて身支度を終わらせている。

 

「もう、ロイド様! 起きたなら私を起こしてくださいよ!!」


 そんなことするはずがない。女の子をまだ日も出ていない時間に起こして働かせるなんて。基本的におれの専属メイドの労働時間は一日八時間と決めている。

 朝食になると同じホテルに泊まっているシスティナ様がやってくる。


「おはよう二人とも」


 ちなみにヴィオラはこの人が誰かも知らない。おれが仕事の時にヴィオラと一緒に買い物に行っているらしいので、ただのシスティナだと思っていることだろう。

 なんでこの人が同じホテルに泊まっているのかと言えば、おれは断ったのにおれにアドバイスをすると言って勝手に泊まってきたのだ。


 周囲にもおれの剣術顧問だと思われている。

 誰も彼女が剣神システィナだとは気が付かない。おれも時々神だと忘れるくらいに人間臭い。


 叙任されて二か月ほどが経ったが、神殿での一件以来、護衛らしい働きはしていない。

 ほぼ毎日王宮のシスティーナ姫の元に向かう。


 彼女は勉学や歌、踊り、お茶会など規則正しい生活を強いられており、主に話し相手として側に置かれる。

 


 その後は騎士の演習だ。

 

 これがツライ。


 手抜き無しだ。

 特に最初のころはマイヤ隊長に色々と試された。


 そこでも言われたことはおれに剣の才能が無いということだ。


 ここで騎士の実力がどれだけ一般人とかけ離れているか説明しておこう。


 紅燈隊の隊員は皆若い女性だ。でも巨大な剣や槍を振り回すことからと言って筋骨隆々ではない。ローレルもそうだったけど、彼女たちの身体能力は筋肉量に比例していない。

 例えば垂直飛びで3メートル以上飛べる。一般人が助走をつけて1メートルだとしても三倍以上だ。剣や鎧を着ているからもっとかもしれない。


 それについて彼女たちは訓練の賜物だと思っている。

 これが純粋な身体能力だと。

 

 でも剣神システィナ曰く、これは能力の有無による差だという。


『――人族でもごく一握りのものしか扱えない体内のエネルギー。それを用いた身体能力向上の方法。暗黒大陸においては鬼門法。東の果てバルト六邦では気門法と呼ばれている』


それがおれの疑問の答えだった。他にも呼び名はあるが大本はこの二つ、もしくはこれらの複合的な使用による派生形。肉体の活性と感覚の鋭敏化を指しているようだ。


 要するに気功のようなものだろう。

 魔力が何にでも干渉するのだから肉体の何らかのエネルギーに干渉しそういう力が働くとしても不思議じゃない。


 大事なことはこの『気門/鬼門法』という能力がおれには全く使えないということだ。


 だから才能が無いと言われるんだね。納得。

 

 マイヤ隊長は何とかしておれの才能を引き出そうとした。

 全力でおれに剣を打ち込んだり、川に沈めたり、木から落としたり。おれは吹っ飛んだし、おぼれたし、死にかけた。でも、結局は無駄だった。


 おれには魔法がある。危険を察知するとどうも勝手に魔法を使ってしまう。それにおれは魔力を完全に自分の意思でコントロールしている。それも悪い方向に働いたのかもしれない。


――演習が終わるころにはヘロヘロになっている。幼いころから体力づくりをしてきたつもりだったが所詮は素人。ボロボロになって帰る。


 余裕があるときはこの後に神殿で治療を行ったりする。

 おれの神聖級魔法は秘密だから薬学の応用だということになっているが、薬草を煎じても対処できない傷や病は多い。ちょっとバレてきてるかも。


 ホテルに戻りヴィオラと夕飯を食べながら話す。


 夜、おれ宛の手紙を確認しているとシスティナ様がやってくる。

 彼女はどこからかおれの演習を見ていて、ダメ出しをしてくる。もちろん理論的な戦術もあるが、能力的な問題もある。


 おれはちょっとずつ自分に自信を失っていく。


 そんな生活を二か月続けていて気が付いた。

 


 逃げよう!!


 おれは意を決して、サボることにした。


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