21.剣神
かくかくしかじかで、おれは剣神システィナを降臨させてしまった。
「拝謁に適い、光栄にございまする~!!!」
「今さら取り繕っても遅いよ。あと、聞いてたから。君私のこと知らなかっただろ?」
ギクゥっ!!!
神殿での会話は神に筒抜けなのか!?
「まぁ、私を美人だと言っていたから許してあげよう」
ちなみにおれは英雄システィナ伝説の伝記を原典で読んだのでよく知っている。読んだ本のイメージと違ったからわからなかったのである。そんな言い訳はしないおれ。
「それより、こんなところで神を降ろすとはね」
「ははー申し訳ございません!!!」
こんなところとは雑木林の中だ。
王都には人目に付かない所が少ないから仕方なかった。神殿で『神域』を使おうとすれば騒ぎになる。
それより、さっきの女神の話を聞きたいな。でも、教えてもらえるだろうか?
「あの……」
「む、そうだね。まずはどこか店にでも入ろうか」
「神殿に行くのでは?」
「ダメだよ。せっかく受肉できたのに」
何がダメなんだ? 戻りたくないってこと?
道行く人も、まさかこのお姉さんが神様とは思うまい。おれも横を歩きながら半信半疑だ。
「おお、ねぇちゃん!! カワイイねぇ!! おれたちと遊ばないか?」
雑木林に続く裏通りには、テンプレに準じて生きているような輩が多い。子供と若い女。さっそく絡まれた。
すると、ガシっと肩を掴まれて、前に押し出された。
え? ぼくですか?
ぼくがやるんですか?
「魔法は使うなよ」
なんで?
おれ、試されてる?
「なんだガキ!!」
野郎共はまだ子供のおれにも容赦なく殴り掛かって来た。
おれは腰の剣を抜いて、訓練通りに動いた。
颯爽と敵の攻撃を躱し、敵をなぎ倒していく。
「安心しろ、峰打ちだ!」
パラノーツ式軍隊剣術は一対多数においても非常に有効な――
「――うぐぅ……あれ?」
気が付くと地面に横たわっていた。あ、痛っ痛っ!! 全身が痛い。
「大丈夫かい?」
おれをのぞき込む金髪の女性。
心配をしているというより呆れている。
「あれ? おれ確か悪漢を倒して……」
「いや、一人目だけね。すぐに囲まれてその後は袋叩きにされていた」
マジか!
どうやら痛みで都合のいい記憶が捏造されたらしい。恥ずかしっ!!
おれをボコった悪漢たちははどうやらシスティナ様に叩きのめされたようだ。
「うわ言で『フン、安心しろ~、峰打ちだから~』とか言ってたよ」
ぐぅ!!
言わなくてもいいじゃないですか!
殴られて意識が朦朧としてたんだから!!!
この人なんかちょっとイジワルだな!!
おれは痛みに耐えながら起き上がった。
「君、剣の才能ないね」
がくぅ!!
知っていたけど!!
そうハッキリ言わなくても……
「まず、良いところが一つも無かった。囲まれてからはあたふたしていてすごく無様だった」
「もう、いいです……わかりましたから……」
なんなの?
ねぇ、怒ってるの?
おれが何か悪いことしましたか?
「いやごめん。せっかく顕現したし、君に剣術のイロハでも叩き込んであげようと思ったけど見込みが無さそうだから……あ、でも一応やってみる?」
「いいですぅ!! おれには魔法がありますからぁ!!!」
◇
いけない。いつものクールメンに戻ろう。
傷を神聖級魔法『治癒』で治し、剣神と共に喫茶店に入った。紅茶を飲みながらおれはこの世に転生した経緯とか、神気がある理由とか、あの女神が誰かとかを聞いた。
「……え? あの、つまりおれには世界を救うとか、何か重要な役割とか、そういうのは無いんですか? システィナ様がおれに稽古をつけて、一緒に魔王を倒すみたいな……」
「……魔王?」
君にできるはずないでしょ、と言いたげな呆れた顔をされた。
「じゃあ、なんであなたがここに? エリアス様がいい!! チェンジ!!」
「君は騎士になったんだろう? それにあの時神殿で起きたのはエリアス様のうっかりのせいだからね。それに対して君は見事に対応した。そのご褒美をあげようと思った」
「ご褒美になじるんですね。分かります」
「違うよ! 私は剣士だよ? ちょっとこう、アドバイスをしてあげようと思ってね」
「……あの、もしかしてさっきからおれを無意味に傷つけてきたのはアドバイスのつもりでしたか?」
「え? 傷ついた? ごめん!!」
神様に謝らせてしまった。慌てて頭を上げさせる。
でもハッキリ言って、アドバイスは期待できない。心が折れるよ。
「あの、ありがたいんですけど……普通に剣術を教えていただくわけにはいかないんですか?」
「それはダメだ。フェアじゃないから」
何が?
「私が下界で剣を教えたら、有能な剣士を量産できてしまうよ。あたりまえ。……でもそれはフェアじゃない。さっきも説明したけどこの状況はただの成り行き。君は選ばれた者でも無く、選ばれるに足る者でもまだ無い。君にしてあげるのはご褒美だから、せいぜいアドバイスだけだよ」
「はぁ……」
「ロイド君、君は強くなりたいか?」
英雄と呼ばれた剣の神からの問い。
おれはその質問に、大きく首を横に振った。
だっておれは強くなりたいんじゃなくて、宮廷魔導士になりたんだ。




