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4.エル=ロイド



その様子は西側エルドラドと東側(ローア大陸以東)に放送された。


名目は親善試合。


東の弱さを証明するための殺戮ショー。

西の不義理と英雄の死という悲劇。


西も東も征服へ、人々を駆り立てるためだ。



『大帝』と呼ばれる男。エルの中でも古参に数えられる大男。

老齢な顔の皺と長い乱れた白髪に反し、力に漲る身体。

彼はロイドを見下ろし、戦い開始の合図とともに、これまで数百年間やって来たように、大刀を振り下ろした。



「――……っ?」



爆発に近い地面の破裂と粉塵が収まり、誰もが目を疑った。



これまで何度も『エル』へと挑戦してきた猛者たちが両断されたその一撃を、ロイドは受け切った。


その両手には英雄――タンクの魔剣。


『魔装』を用い、正面から『大帝』の剣を受けるロイド。


それは生贄の公開処刑でも、殺戮ショーでも無かった。


本来の意味での力比べ。



「重畳……」

「本気で来い。でないと全力が出せないだろ」




人は復活劇が好きだ。

とはいえ、その熱狂は特別だった。


誰もが仕事の手を止めて、その放送に食い入るように見入った。

心を揺さぶる戦い。

ただの興奮ではなく、込み上げる感嘆。


それは戦い続ける者へ畏敬の念。人が積み重ねてきた途方も無い営みの結果の凝縮、時代の象徴たる力の化身―――ロイドは自分の代わりに戦っているのだという実感。

東側の誰もがロイドを自分の代弁者なのだと、自分たちの代表なのだと気づき、頼もしく感謝したのだ。

その意を表明しなければならないという強い使命感が、声となり街を、都市を埋めた。



またある者は、主の帰還に歓喜の涙を流した。


「待っていたぞぉ!!」

「もう、リース。坊やが起きちゃうでしょう」


幼子を寝かしつけ、夫を嗜める妻。


「む、だがマドルよ。あれを見よ」

「ええ……あれは間違いなく旦那様です」


マドルは主の帰還に安堵し涙した。



またある者はため息を吐く。


「ロイドめ、やっとか」

「やれやれ、仕方ない。手伝いに行ってやろう」



男は農夫の恰好から黒い神父のような服に着替え、首から本を下げた。

女は家より大きく翼を広げ、ひょいと男を抱き上げた。


「そうだな。仕方ない。やれやれ全く」

「はぁ、めんどーだな。やれやれ」

「やれやれ」




またある者は嫉妬した。


「なんだあの武器は? 私の方がもっとこう――もっとこう……」


放送に熱狂する人混みの中、頭一つ抜き出た女は、郷愁とじれったさに地団駄を踏んだ。




街の声はもちろんクルーゼの屋敷にも届いた。


戦いの様子を子供たちと妻たちが見守っていた。


屋敷の使用人たちも息を飲んだ。その音さえ憚られるほどに静かだった。



「父上が英雄だったのは本当だったのですね」


沈黙を破ったのはアウグストだった。


「だから言ったでしょう? 信じていなかったの?」

「母上の願望だと思ってました」

「あら、失礼ね。でも、仕方ないわね。本当のあの人を見るのは初めてでしょうから」


アウグストは母のその表情も初めて見た。

父親は遠い異境の地で死と隣り合わせの戦いをしている。

でも、これが誇らしく喜ばしいことだと、母のその顔で理解した。





神殿にいたヴィオラはその報せを聞き、ただ感謝した。


「願いが届いたのですね。ありがとうございます、リトナリア様」

「私が何かしたか?」

「はい……いつも彼の側にいて下さりました。知っています。きっと今回のことも……」

「ヴィオラ、買いかぶるな。私はただ、自分の想いをあいつに託しただけだ」


ヴィオラの隣でアルテイシアが首を傾げる。その腕には二人の子供が抱かれていた。


「ねぇ、ヴィオラ? あなたの子を抱っこしている私には何も言うことないですか?」

「今は祈りで両手が塞がっています。それに私と違って歳をとらないのだから平気」

「ねぇ、ヴィオラ? もう願いは叶ったのに何を祈ることがあるの?」

「……美の神に美容と若返りを」


神殿に笑い声が響いた。



激烈な攻防の末、勝利し剣を天に掲げたのはロイドだった。


「なぜとどめを刺さん?」

「おれの子が見ているから」

「……そうか」

「力は証明した。おれは『エル』に相応しいか否か?」



「認めるわ!!」



誰よりも先にロイドを承認したのは『姫』と呼ばれる女。


「あなたは『エル』の中でもとびきり力を持っている!! これで私の楽しみも増えるわ」

「楽しみ?」

「ええ、ロイド。あなたに戦いを申し込むわ」

「なぜだ?」

「私たちと友好を結びたいのでしょう? なら、戦ってちょうだい。私はそのために『エル』を生み出したのだから」





かつて強力な力で人を支配したドラゴンが退屈を紛らわせるため、自分と同等の力を持つ者を見つけ出し、殺し合いを挑んだ。

ドラゴンは殺し合いを続けるうちにこの世の表舞台に名を遺すことのない、異常な進化を遂げた個体を見つけるようになる。

彼らとの殺し合いに楽しみを見出し、やがてそれは慣習、または儀式と化していく。

時に優れたものを生かし、次の戦いを期待する。

そうすることで、ドラゴンは楽しみを蓄え、期待する喜びを知った。


やがて、進んでドラゴンに挑む者たちも現れ、その殺し合いに加わった。


彼らの力は神を持たない人々エルドラド人からの尊崇を受けた。


『エル』と呼ばれるようになった彼らはより効率の良い活動のため、支配者層としての地位を受け入れた。



つまり、支配はより充実した「殺し合い」のための手間に過ぎない。



「そのドラゴンってのが私なのよ」

「そうか」

「力を持つ者は力を証明し続けなければならない」

「ああ」


『姫』と呼ばれる女の存在感は映像越しにも人々を震え上がらせた。


「物分かりがいいわね。褒めてあげるわ!!」

「友達が欲しいならそう言え。おれは分かりにくい奴は嫌いだ」

「はぁ? ちがっ……!!」

「遊んでくれる友達が欲しくて戦争を始めるなんて馬鹿なことはやめろ。そんなだからお前は一人なんだ」

「――……ここまで私を侮辱したのはこの五千年で初めてだよ!!!」


最古のエルとロイドの戦い。それは政治とは関係ない、ただの力比べでもない。

強さに呪われた者への癒しと救いであった。


無駄な破壊をしない凝縮された一撃一撃を放つ『姫』。

それを受けながら、学び、対応していくロイド。


そして長い長い攻防の末、ロイドの経験値が五千年の竜の経験値を上回った。

『姫』の腕から血が流れる。


「私に傷をつけるとは……」

「『光線』を受けてこの程度のダメージか」


狂喜のあまり、『姫』は小躍りしながら戦った。



「我が名はアラト!! 真名を告げたのはお前が初めてだ!! さぁ、もっと戦え!! もっと力を見せてみろ!!」

「おれはロイドだ。七人の妻と八人の子供が待っている。そろそろ終わらせてもらうぞ!!」



はい、ということでロイドの物語はこの辺りで完結とさせていただきます。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


色々書き足りない部分があるのですが、メインストーリーをさっさと書き切りたかったのでこのような形となりました。なので改稿やら幕間やら今後もちょこちょこ更新します。この後は完全なる自己満足ですが気になった方が居られましたらチェックしていただけるとうれしいです。


この作品、一度ランキング上位に登ったのち、下がって完結させ、また最初から書き直したという特殊な変遷を辿りました。ランキングが落ちてもまた上がれるはず、という意気込んで再度書き始めましたが、やはりランキング上位は遠かったですね。それが心残りですが改稿中色々と学んだことがありますので無駄ではなったと思いますし、再開したことでより多くの方に読んでいただけたことをうれしく思っています。


心残りとは違いますが後悔がいくつかあります。

私の実験的な書き方とその時々のテンションに左右されたため反省点を上げたらキリがありません。

骨太な作品よりコミカルに書きたくて始めた初期。結局真面目な感じでなろう的ファンタジーに対して整合性を心がけて書き進め、結果思うように進まず、なろう受けの難しい展開になりました。キャラへの想い入りが強すぎて『おもしろさ』を意識するのが難しかったように思います。というかあまり考えてしませんでした。

正直今でも評価を下さった方々が何を評価して下さったのか自信がありませんが、『おもしろさ』を意識して書く手順のようなものは身についた気がします。手応えはあったりなかったりですが……

スイマセン、反省点を上げたら本当にキリがないのでここまでにします。あとはtwitterで愚痴りますね。



最後になりますが、こんな長々とした物語を最後まで読んでいただき、さらにこんな作者の愚痴まで読んでいただきありがとうございます。

この作品を通じて得たもの、主に反省点の数々を次作品に生かしていきたいと思います。

今後ともよろしくお願いします。

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