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7.



 闘技者用の控室。


 神殿騎士や冒険者ギルドの人間が事情を聞きに詰めかけた。


 だが、その前におれが話を聞きたい。

 

「話したいことがあると言ったが……」

「その前に、これを」

 

 メフィレスはコインを渡して来た。

 おれは、結構な知識人である。世界中の通貨については一通り頭に入っている。

 

 だから、このコインには驚いた。

 

 

「これってどこの国お金? 見たこと無いんだけど」

「私の国のコインです。それより――」

 

 メフィレスに促されてコインを放った。

  

「裏」

「正解」

「表」

「正解」

「裏」

「正解」


 何度やってもコインの表裏を当てた。

 これが?

 

「……おれもできるよ」


 試しにやってみた。

 あれ、難しっ。


 でも練習すればね。


 よし、段々見えて来た!


「眼が良いわけではありません」

「どういうこと?」


「お察しの通り、私の眼はあなたと同じ魔力の流れを見極められる。加えて、未来が見える」


 真っ黒い瞳の奥は七色の光を帯びている。


 なるほど、そういう力があるのは知っている。

 マドルの五式剣槍形態の解放能力がまさにそれだからな。


「……あれ? だとしたらおかしいでしょう。なんでおれに負けたんだ?」

「この力は相手の眼を見なければ使えない。つまり自分ではなく誰かの未来を見る力」


 ああ、鎧を着ていたおかげでおれの未来は見れなかったということか。

 ラッキー。


 いや、危なかった!!


「そして私は本来アンティスパニナの代表闘技者となるはずだった男の未来を見ました」

「ん? 本来……」

「彼が代表闘技者となり、王都で最初にあなたと戦い敗北する。やがて彼はあなたの計画と教会との戦いを目撃する。だが、あなたの計画は失敗に終わる」


 メフィレスはその本来の代表闘技者が経験するはずの未来を見て、おれがこれからしようとしていることや、この先起こることを見通した。


 そしてそれが失敗に終わると断言した。



「あなたは教会がどこに襲撃しようと対処できるよう、全世界に連絡装置を設置し、対処しようと待ったが、第一試合、あなたの力を目の当たりにした教会の指導者は計画を遅らせる。大都市から攻めるのを止めて、小規模な神殿を広範囲に攻撃した。あなたは転移で各国の軍や闘技者を派遣したが、指導者を捕まえることはおろか、大きな被害を出してしまう。これを帝国は陰謀と呼び、魔族は責任逃れだと追及する。王国は大会の中止による莫大な負債の責任をあなたに背負わせることになる」


 うんうん。


 怖い!!


 なんだ、そのありそうな最悪の未来は!



「全部だめってこと!?」

「ええ、全部だめです」


 第一試合はおれが戦うと決まっていた。

 本来出ないはずのおれは客寄せの名目で参加したからだ。


 確かにおれの闘いを見て教会が戦力を分散させるのは合理的だ。


 いつ、どこを襲撃するかわからない教会に対応するために、この大会を開き、結束を高めて、提供した転移技術で対抗するはずだったのも合っている。


 実際これから教会がどう動くのかは未知数。確かめようはない。

 だがメフィレスの説明は論理的だ。


 かと言って、それが本当なのか判断することは難しい。

 教会の指導者、指輪の男は人を魔物に変える力を持つ。

 手先じゃないとしても利用されている可能性もある。

 指輪の男は洗脳もできるからな。

 



「おれがその話を信じる根拠は?」

「信じずとも構いません。こちら側の世界が教会によって滅ぼうが我々には関係がない」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味です。教会もこの世界の平和も興味はありません。私はただあなたにとって有益な情報を提供し、友好を築くために来たのです」



 目的はおれ。

 試合の時も確かそんなことを言っていたな。



「それにあなたを試す必要がありました。残念ながら私はあなたの真の力を引き出すことはできませんでしたが……全てをお話してもいいんですが、疑うなら確かめた方が早い。それに急いだほうが良い。私は今、テロを起こそうと潜む教会の十二使徒の居場所を全て把握しています」


 試合は終わったのに、まさしくおれが試されているようだ。


「良いだろう。仲間に調べさせる。だがその間大人しくしてもらうがいいか?」

「もちろん」


『聖壁』でメフィレスを閉じ込めた。


「私は空間を飛び越える技を持っているので、無駄ですよ」

「持っていないことにしてそこでおとなしくしていてくれ。じゃないと周りが安心も納得もしない」

「なるほど、心得ました」


 魔物だと騒いでいる奴らがいつ襲いに来るか分からない。


 今、関係がこじれるのはまずい。





「皆さん、彼は今私の術で拘束しています。しかし詳しいことはこれから確認するので、ここは私に預けていただけませんか?」

「ロイド様がそうおっしゃるのであれば」

「かしこまりました」


 聖騎士たちは退いてくれた。



 聖騎士たちは。

 

「どけい!!」


 そこにまたもやあの三人組がやって来た。


 天上のテンプレおじさん。他二名。


「なにか?」

「なにかではない。あの魔物を引き渡せ!」

「お断りします。そんな義理はありません」

「貴様!!」


 覇龍族の方が凄んで胸倉を掴んできた。


 その程度怖くないね。


 どうだ、あえて脱力してやる。


 プランプランしてやる。


「ぐっ、なめているのかぁ!!」

「待てい」


 テンプレおじさんが止めた。


「貴様、あの魔物が何者かわかっているのか?」

「本人は魔物ではないと言っていますが」

「そうだ。奴は厳密には魔物とは異なる」

「古代人と、そう表現していた」

「奴らエルドラド人はかつて我々の神々に反旗を翻し、悪王の力に手を染め、世界にゆがみを生んだ悪しき民族だ」


 エルドラド人?


「その言い方だと、まるで教会の手の者のようですが、あの男は情報を提供しに来たと言っています。目的は私だとも。何か知っていますか?」

「なるほど、奴らはこのローア大陸の西側に封じ込められている。その解放を目論み貴様を利用していると考えるなら筋が通る」


 ここから西の海の先に、メフィレスの仲間がいるってことか。

 メフィレス以外にもいるのか?


 テンプレおじさんはそれを恐れているように見える。

 あれだけ敵意むき出しだったのに、協力的だ。



 でも教会の方も放置はできない。


「悪いが、確かめたいことがある。やつがおれを利用しているかどうかはともかく、教会の問題を放置はできない」

「貴様、ウィンヴァス老のせっかくの忠告を無下にする気か!」

「私たちはここで強引にケリをつけてもいいんだからね!」


「まぁ待て。いいだろう、奴の目的が分かるまでは休戦、手出しはせん。だが教会の神殿破壊を貴様が止められないと判断した時は勝手に動かせてもらう。良いな?」

「ええ、もちろん」


 


 まずはメフィレスから聞いたその【十二使徒】とやらの潜伏場所を確かめないと。


 それにこのことを相談しておきたい奴がいる。

 





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