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7.



 帝国の皇帝直轄領で、現在第一皇子アルヴェルトが治める西海岸の都市【ローレウス】


 教会勢力との戦いに勝利したアルヴェルトの凱旋と国際剣闘大会の予選が重なり、様々な趣向を凝らしたイベントが繰り広げられ、大いに賑わっている。


「さすがはアルヴェルト殿下の統治される都市だけあって、活気に満ちているな」

「他はさっさと予選を終わらせんと王国の本選に間に合わない。その点、ここは王国の対岸。新しいクルーゼ港には一週間で着ける」

「なるほど。他の予選を観終わった者が、この都市に集まっているわけか」

「みんなお目当ては一人の男だけどね」

 

 道行く人たちの会話に口々に登場する者の名。


「あの英雄ネロを生で見られるなんて滅多にないチャンスだよ!!」


 教会と戦うためにおれが創作した架空の人物。


 長らく英雄が現れなかった帝国では随分と人気者になっているようだ。


「しかし、ネロ様の戦い方はイメージと違うらしい。逃げてばかりで魔法で隙をつくってゴリ押し」

「それも人気の一つさ。すんなり勝ったら面白くないから、盛り上げて下さっているのよ」

「偽者だというやつもいるけどね」

「ばか、そんなこと言ったら皇族批判と見なされて逮捕されるぞ」


 ネロは帝国政府の捜索で、自ら名乗り出て、現在は第一皇子アルヴェルトの庇護下にあり、今大会にもその威光を背負って出場した。


 もちろんおれじゃない。


 今、この都市で予選を勝ち抜いているネロは偽者。


 彼らは偽者を観るため集められた。

 これは詐欺だよね。

 そのことに皇子が気づいていないはずが無い。つまりグルだ。目的はおれか?


 偽者が本物として皇子のお墨付きをもらっていることで、なんだかおれの方が偽者みたいだ。あまり気分は良くないね。




 コソコソ、コソコソ……『迷彩』で姿を隠しながら音を立てないよう気配を消して歩く。良くないよね。

 


 おや……


 人目に付かないよう動くと自然と同じような奴らに気が付く。


 おれ以外にも怪しい輩がちらほら。


 人が多いんだから当然だ。一都市を預かる者としてこの人の多さで治安を維持できるか疑問だったがやっぱり、路地裏で、橋の下で、都には通りのど真ん中で争いが始まる。


「ケンカだぁ!!」


 どれどれ。


 屋根の上から対応を見させてもらおう。


 と思っていたが、なるほど……大通りで堂々とケンカする奴はどうにも……


「帝国騎士団、ローレウス支部七番通り警備隊である! 直ちに騒ぎ止め出頭せよ!!」


 警告をした騎士たちが二人の男を取り囲む。

 だが、言葉を聞く耳を持つとは思えない。

 

 身なり恰好、漂わせる獣のような空気。催しの空気に誘われて這い出してきた日陰者だ。


「よせ、ケンカじゃない。殺し合いだ!!」


 対する騎士たちの動きは洗練されているように見えるが見せかけ。

 新米特有の身体のこわばりがバレバレ。

 どこも人手不足は同じか。


 警告への反応より先に、二人の不審人物は互いに背を向け、自分たちを囲む帝国騎士に襲いかかった。


「うわああぁぁ!!」


 迫る巨漢に甲冑を着た少年が槍を振り回し、あっさりと隊列を崩した。


 隊長は何やら叫んでいる。意味はない。


「ぁあああ……? あれ……」


『風圧』を纏った拳で顎に一発、後頭部に剣の石突で一発。不意打ちした。



「……ネロだ」


『迷彩』のまま動くのは難しい。二人の不意を突いた時、姿を晒してしまった。だが今はマズイ。


「ネロ様……!!」

「おい、ネロ様だ!!!」

「すごいわ、本物!」


 どうやらこの鎧はまだ機能しているらしいな。

 すぐに姿をくらまし移動した。


 目下、おれのさっきまで居たところでは案の定人々が騒いでいる。


 これだけの人気を博す人物になりきっているのはどんな野郎だ?


 そろそろ寄り道はやめよう。

 今回の目的の一つ、そのピエロに会いに予選会場へと向かった。





「なんてこった」


 予選決勝。

 

 選手控室。


 ネロは頭を抱えて震えている。

 武者震いかな?


「殺される……次の相手は容赦がない。ここまではおれの剣術とお前の魔法で誤魔化してこれたが……」

「なら逃げましょ、お兄さん」


 控室にはネロの姿しか見えないが、可愛らしい別の声がする。


「だめだ、逃げても皇子に殺される。あの人はおれを疑って試しとる。ここで逃げたら、元の生活に逆戻り。おれはやる……やってやんよ!!」

「お兄さん……ごめんよ、うちのために」



 ネロの身体の震えは止まらない。


「はぁはぁ、英雄になんて成りすまんじゃなかった。報奨金でお前の鎖を解いてとっとと逃げていれば……」

「お兄さん、もういいって。うちをおいてお兄さんだけでも逃げて」

「そんなことできるか!!」


 へぇ〜なんだか事情があるようだ。

 ただの金目当てのゴロツキだと思ったけど。


「神様、聖者様、魔王様……どなた様か、どうか彼を御守り下さい」

「……やめろよ、パル。誰かに祈って通じたことがあったか?」


 魔王に祈るなよ。

 いや、魔族だったらそういうこともあるのか。


 ひょっとして、救いを求めてそういうことしている人結構いる?


 おれはこの声を聞かないように、気づかないようにしてきたのか。



「耳が痛いな」


「……っ? おい、パル。お前男みたいな声出すなよ」

「うちじゃないよ?」

「……っ!! だ、だれだぁ、誰かいるのか!?」


 辺りを見渡すネロ。

 やれやれ、気配も探れないのか。


「ここまでよく勝ち上がってこられたな。そこにいるお嬢ちゃんのおかげかな?」

「うちが見えてる?―――あわわっ!」


 パルという女の子は動揺で姿を晒した。


 鱗魔族の少女か。鱗魔族は姿を隠すのが得意だと聞く。大戦で住処の湿地を占領されて、ほとんどが労働力として奴隷にされたらしいが、こんな小さい子もか。


 とにかく、おれも姿を見せた方が話しやすそうだ。


「……やぁ」

「誰だ、お前は!! おれは……」


 ネロは剣を抜いた。


 おい、怪しいものではないのに。

 いや、怪しいか。

 どう説明したらいいんだ? おれは今どの立場で話しているんだろう?

 えっと……



「よくもおれを語ってくれたな、偽者どもめ!!」

「「ぎゃー!!!!」」


 あれ、冗談だったのに……

 



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