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5.堕ちた天使



 それはイライザを神殿から連れ帰った時、起きた。


「あらぁ~? 領主様、また随分と綺麗な女性をつれてきたわね」


 姫、やけにとげのある‟おかえり”だね……


「姫、ヤキモチを焼く必要はないよ」

「ロイド様は昔からかっこいい女性に弱いですよね」


 そんなことない。そ、んな……こと……


「ヴィオラ、おれは健気で純粋で思いやりのある女性に魅かれるんだよ」


 玄関で嫁たちとそんなやり取りをしていて、横でイライザがおれを女たらしとして警戒している。


 やめろ、そのケダモノを見る眼。別に襲わないから。


「平和なことだ。そんな甘い考えだから狙われるんだ」

「お前、少し反省しているふりぐらいした方がいいぞ。姫、家具を斬ったのはこいつですからね〜」

「だとしたらなんだ?」

「あらあら、それは大変ね。お給料から天引きしないと」

「な、何の話だ!?」


 いずれわかりますよ。

 あなたの大会準優勝賞金があのテーブル一つでとぶんだから。でも教えてあげない。


「あの、皆さん。なにか上から落ちてきてませんか?」


 みんなでイライザをイジメていたとき、空から人が降って来た。

 

 

「ああ!」

「イライザ、よせその身体では無理だ!」


 とはいえ、あのまま落下したぐちゃぐちゃだな。


「おれが助ける!」


 彼女は庭に落下した。

 


「アルテイシア様!」

「大丈夫だ、庭を土魔法で柔らかいクッションに変えた」


 降って来たのはアルテイシアだった。

 



 数日後。


「うむ……」

「これでご満足?」


 恥ずかしそうに着替えた服を見せるアルテイシア。


「言葉遣いが偉そうです。それに笑顔がウソくさいです」

「ウソ……っ!? うっ、はい」

「お茶の淹れ方も知らないんですか? ダメです。もう一回やり直しです」

「ううっ、はい」


 アルテイシアは屋敷でメイドになった。

 今はヴィオラの下でメイドの仕事を学んでいる。


 天上を追放され、行く当ても金もない聖女が不憫に思ったからではない。

 神殿に逃げ込めないよう見張っているのだ。


 信用できないからこそ近くに置く。

 メイドにしたのは嫌がらせ。

 案の定、ヴィオラに叱られてもはや聖女の面影はない。


「……アルテイシア様……」

「はっ、なぜ私がこんな下女で、イライザがそのような恰好に!?」

「私にはそのような格好は似合わないので」


 イライザには甲冑を着せて、駐屯騎士で働かせている。


「人手が足りないんでね。誰かのせいで、ギルドとの連携も上手くいかなくなったからな!!!」

「そ、それはあなたの振舞が問題でしょうに」

「コラ、ご主人様にそんな口を利く子は誰ですか〜!」


 ヴィオラがアルテイシアの頬をつねる。最初は優しく教えていたヴィオラも、お茶一つ満足に淹れられない、掃除もできない、おまけに自分でお着替えもできません‟だってワタクシ聖女様ですもの”ときたら、さすがに教育方針を厳しめに変えるしかない。


「い、いふぁい! いふぁい、ごべんなふぁい!!」

「全くもう、これでは他の来賓の前には恥ずかしくて出せませんよ」

「ううぅ〜」


 もはや聖女の面影はない。当たり前だが彼女が本当に聖女だったことはおれとイライザしか知らない。


 なのでヴィオラをはじめ、他の使用人たちには自分を聖女と自称する痛い人と認識されている。


 あだ名は‶聖女様〟で定着しつつある。


「おい、聖女様」

「……なんでしょうか、ご主人様」

「おれの振る舞いが何だって?」

「いえ……すいません」


 コイツはカルタゴルトとは違う視点から情報を得ていた。

 何か考えがあるのかもしれない。


「おれはどっかの誰かと違って部下の話を聞く」

「はいぃ……」

「ご主人様の問い掛けには速やかに答える!」


 アルテイシアは観念して話し始めた。


「魔王の空白、偽物の英雄を放置。影響力のある勇者でも救世主でもなく、一地方領主に留まった。成すべき者が成さずして物事が上手く回るはずがないのです」

「う〜ん……うん? つまり?」

「あなた――ご主人様が一地方領主で、迷宮を攻略し、神鉄級であろうと、結局はパラノーツ国民にとってのロイド・バリリス侯なのです。他国の、他の民族の者にとって陰謀潰しのバリリス侯には何の魂のつながりもありません」


 魂?


 共感性が無いということか。


「ですから、彼らをコントロールするには適切な立場が必要なの。よって正統な血を受け継ぐ上位種族――」

「――に成りすます?」

「――の私が統治……え? いえ、そうではなくて!」


 なるほどな。

 積極的に関わるのを避けて、利用してきたのに導くことをしないのは無責任だ。

 おれは今そのしっぺ返しを受けているというわけだ。


 だが、アリかもしれない。


 バラバラの魔族、正直あそこまでバラバラとは思ってなかったし、気位が高い帝国軍人たち、一口に帝国人といっても人種や性格が違うから対処に困る。バルト人のケンカ強ぇ奴至上主義、獣人の人族アレルギーはおれが言っても火に油だ。ケンカを売られるか逃げられるだけ。


 それが、たった一言「やめろ」といえば収まるとしたら……


 そういう存在に、おれがなればいいんじゃないか?


「アルテイシア、給料UP」

「やった! いえ、ええっ!?」


 さっそくおれはアンケート用紙を造るところから始めた。


 まずは魔王を完成させよう。



 


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