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1.天使の脅迫



 クルーゼ都市伯邸、執務室。

 ギルド職員を自称していた女の背から、翼が現れた。


 天神族。

 

 天使のように美しい清廉な笑みを浮かべる。

 

 平和的で、優しく、人当たりが良さそうな、安心させてくれる雰囲気だ。



 ロイドにはそれが反って嘘くさく見えた。


「なんて愚かなのかしら。神鉄級と言っても所詮人族でしたか。ですが光栄に思いなさい。あなたは私に仕えるチャンスを得たのですから」


 ロイドを取り巻く状況は最悪だが、ふとノワールの脳裏に不安がよぎった。


(――ジュールに危険が迫っている――)


 目が合った瞬間ロイドの『転移』が始まっていた。


「ありがとう、ロイド……」


 話の腰を折られ、アルテイシアの声に苛立ちが籠った。


「何のつもりですか?」

「それはこっちのセリフだ」

「あなた不愉快ですね。まだ私がただのギルド職員だと思っているのかしら? 私がその気になれば、あなたの冒険者資格も剥奪できるのですよ?」


 その言葉でロイドは確信した。


 ギルドは天神族の管理下にある。


「構わないさ。元々続ける気もなかった」

「軽く見ているわね。冒険者がその地位を失うのは、社会的に失格の烙印と同じ。教会と戦うために称号は不可欠でしょう」

「そんなにおれが必要か?」

「自惚れが過ぎる。こちらは迷惑しているのです。たかが反神殿の一派を潰すためにギルドと天上まで巻き込むとは。私は散らかった飼育小屋を掃除させられる小姓の気分です」



 国際剣闘大会は教会派閥打倒に向けた和平交渉の前哨戦。

 神殿を守るために一致団結することが目的。


 それを誰がまとめるのか。

 

 参加国のほとんどが実質ロイドの名の下に集った。

 順調にことが進めば、その功績はロイドのものに。


 結果的に天上もロイドに協力をしたことになる。


「あなたはこれからも冒険者ギルドの一員として私たちの指示で働きなさい。命令です。逆らえばあなただけでなく、あなたの関係者全員の資格をはく奪する」

「なんだと!?」


 教会打倒が叶うのなら、ギルドの指示に従うのは構わない。そもそも序列や名誉など興味はない。


 しかし――


「それは天上とやらの総意ですか?」


 これは脅し。

 交渉ではない。


 頼めば断らないロイドをなぜ脅す必要が?


 論理的説明はつかない。

 なぜならそれはただ、天神族のメンツの問題だからだ。



 要するに、しつけのつもりなのである。

 


「私はギルドの全権を握っています。同時に神殿の最高位〝聖女〟でもある。あなたは私の決定に従えばいいの。これ以上やることを増やさないでくれる?」



 拒めば今の地位、大切な人達の安全が脅かされる。

 争っても教会が得をするだけ。



 ロイドは理解したうえで回答した。

 

 

「――お前らのやり方は気に喰わない」

「なんですって?」


 損得勘定ではなく、感情に折り合いがつかない。


「おれはまた生贄にされる生き方は御免だ」


「生贄? 何の話ですか?」


「お前の部下になんてならねぇよ! って言う意味だ」


 天使の笑顔が曇った。

 ロイドには受け入れられなかった。

 権力をかさに着て部下に仕事を押し付けて甘い汁をすすろうとし、反抗する者は脅して言うことを聞かせる。


 それはロイドが最も忌み嫌う人種であり、これに徹底して抗うと、転生したときに心に決めた。



「なんて無責任な。あなたの答え方次第で、この国が全冒険者を敵に回すことだってありえるのよ?」


 彼女のやり方はロイドの信念に反している。

 そこに計算や妥協点などないのである。


「……ここにいるのはたった四人。大仰な言い方をしておいて動いている者が少ない。正面切った交渉や直接対決を避ける辺り、お前ら……さては少数派閥だな?」


 室内、ロイドの戦闘態勢で窓が振動し始める。


 天神族の女はその言動に素直に驚いた。


(こちらは四人。この状況で抗うとは……観察で得た印象とまるで違う。ですが――)


 ロイドの言う通り、動ける者は限られる。

 彼女たちの行動には常に大義名分が必要。

 だからこその運営委員、大会参加者。



 しかし、四対一。


(ギルド能力数値の四人の合計は――)


 聖女はギルド統括として全員の能力を把握している。


 カルオン【13800】

 ジュライス【14980】


 ノワールに負けはしたものの、天神族の女戦士――


 イライザ【19220】

 

 そして聖女本人は――

 

 アルテイシア【15520】


(ロイドの測定値は最後に計測された時で【20524】だったはず。一年で大幅に力を増しているとしても、四人なら勝てない道理は無い。それにこれは魔法が使えた時の数値)


 天神族が始祖から受け継いだ力は翼と――



「『神域』!」

「『神装』!!」


 戦いは神聖魔法から始まった。

 聖女アルテイシアの『神域』は魔法を完全に封じるため。

 イライザはすぐさま四人全員に『神装』を施した。神域内で活動するためだ。


「――っ『神装』」


 ロイドもとっさに『神装』を使い、身を護った。

 

(当たり前のように神殿以外で、それに無詠唱か……!!)



「驚きました、それがエリアス神に授かった力ですか」



 全魔法が封じられた。



「さて、たった四人ですが……どうしますか?」


 


一部五章の後に新たに間の章『東から来たローア人』を投稿しました。バルトからパラノーツへの帰路を書いてます。そちらも良かったらご一読ください!

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