18.最上位種
これまでのカンスト魔皇は――
転生……庶民に生まれたが女神エリアス様のおかげで魔法を修得!
貴族……ベルグリッド伯領の領主ヒースクリフの養子となり、宮廷魔導士を目指す!
暗殺……タンク、リトナリア、マスらの協力で自分の暗殺を阻止したら子爵に成り上がり!
騎士……姫の護衛騎士に! 魔物を倒して英雄に!!
迷宮……順調な日々は終了。ルーサーと愚兄に迷宮の奈落へ落とされ瀕死。
転移……迷宮攻略特典で『転移』修得!! しかし転移した先は異次元で戻れなくなる。
冒険……王国に戻るために平安京村、魔の森を脱出! バルト、暗黒大陸、エルフの森、共和国、南海を旅する!!
領主……帰還して姫、ヴィオラと正式に婚約! さらに北の田舎を開拓して都市伯になる!
そして国際剣闘大会予選が開かれた!
当初選手として出場する気が無かったおれだが、ギルドのお姉さんがどうしてもと言うので、仮の身分エド―ワード・デュークに成りすまし、クルーゼ支部予選に参加した。
新たに仲間となった鍛冶師のフラウによって、おれは様々な鎧や武器を使い試合を勝ち進んだ。
そもそもなぜこんな前代未聞の規模で大会を開いたのかというと――
もちろん、経済活性、ガス抜き、軍備拡張など様々な理由があるが、元は一つ。
〝教会〟と戦うための準備だ。
全てはこの教会を統べる〝指輪〟から始まっている。
この指輪は錆の魔王に憑りついていた。
ノワール、ジュールのコンビが錆の魔王を倒した時、指輪が異次元からおれの魂をこちらにもたらした。
この指輪には人と空間を操る力があるらしく、現在は反神殿派閥である教会を組織し、神々への信仰を攻撃している。
指輪には人を魔物に変え、不利となれば空間を操り消える力がある。さらに銃の製造までしているようだ。
帝国との戦いでおれは〝ネロ〟として参戦し、第一皇子暗殺を阻止。手の内を晒し、戦力の大半を失った教会勢力は現在行方をくらましている。
しかし、いずれまた指輪の力は世界を混乱に陥れるだろう。
一刻も早く指輪を見つけて破壊する。
その為に必要な準備が着々と進められている。
カルタゴルトのネットワークはさらなる広がりを見せ、各国のつながりは増している。おれも大会を前に公然と戦力を増強できた。
だが順調だった予選で、予期せぬことがあった。
一つは最後の最後でエドワード・デュークがロイドであると明かしてしまい、帝国におれがネロだとバレてしまったこと。
もう一つは世界的な事業により、これまで関与してこなかった未知の種族を招いてしまったこと――
◇
予選が終了しても、新都市の統治者たるおれにはやることがたくさんある。
忙しい。
大会の準備、都市開発、続々と訪れる観光客、来賓のあいさつ……
優秀な部下たちはスケジュールを管理して的確にノルマを課してくる。
特に外国人の問題が大きい。
人が集まれば問題が起こるものだ。
そもそも文化が違うし、帝国人と魔族は仲が悪い。
王国が帝国に門戸を開いたため、貴族だけではなく、商人や仕事を求めてやってきた労働者も多い。
中には違法に入国する者もいる。
とは言え、駐屯騎士がいるので大体の問題は対処できる。あらかじめ想定していた範囲内だ。
想定外だったのは別の問題だ。
「ロイド様、お考え直しいただけませんか?」
「今忙しいから無理だって」
覇龍族のジュライス、麒麟族のカルオン。
しつこくおれに付きまとってくる。
おれは意地でも話を聞かない。
これ以上仕事を増やされてはたまらない。
「面倒なことなどございません。ただ、一度我らと共に【天上】へ来ていただくだけで良いのです」
「やることは変わりません。神殿を護るために戦う。ただ、命令系統が多少入れ替わるだけで……」
天上とはすなわち、伝説の【浮遊大陸】に他ならない。そこでこの貴き種族様方は戦争も魔王も居ない優雅な日々を送って来たわけだ。
そんな彼らが今更やって来たそもそもの理由。
一言でいえば、おれを上から押さえつけるためだ。
天上には、もう一つ別の種族がいる。
それがとてもプライドが高く、人族のおれが天上における位階――これがそもそもおれの知ったことではない――で自分たちに迫ることがご不満なようだ。
そこで、この二人をお目付け役にして、おれに指示を出し、上下関係をハッキリさせようという魂胆だ。
「要するにくだらない面子の問題だろう」
「いえ、共に協力し合おうという……」
「なら対等なのか?」
「そ、それは……」
そっちの仕事手伝ったら、こっちの面倒な仕事も分担してくれる?
ただでさえ仕事が溢れているのに、どこの誰かもわからない奴らの命令を聞くわけない。
「ロイド様、我々は天上の位階では最下位の十位です。一方あなた様は第二位」
「なんで二位?」
「神鉄級冒険者だからです。如何なる種族であろうと、神鉄級は神格と同等」
「ちょっと待て、聞きたくない」
まるで自分たちが誰を神にするか選んでいるかのような口ぶりだ。
ここまで来ると嘆かわしい。
彼らは自分たちが実はそう大した存在ではない、普通の人と変わらないことに気が付いていないのだ。
「しかし、天上には神格を上回る種が存在するのです」
聞いちゃいねぇ。
「地上と天上における支配者にして、神々の第一の使徒。この世で最も始祖の血を色濃く受け継ぐ、真に正統なる始まりの人々、それが――」
ジュライスが言いかけた時、扉が鳴った。
やってきたのは黒いドレスの美女。
「や、突然来て悪い。取り込み中?」
「全然、全然ですよ! わざわざ来ていただいてありがとうございます! あれ? ノワールさん一人だけですか?」
「うん」
どうしてだろう。
ジュールが居ないとは。
まぁいい。
「話はここまでだ。私はこの方をおもてなししなければならない」
「え、用事は済んだか? 私は待ってるぞ」
「いやいやいや嫌!! ノワールさんを差し置いて他のことなどできませんよ!」
「わぁーい、やさしぃー」
「ちなみに魔王の位階は五位ですが、始祖の血を持つあなたは三位です」
「う? や、やったー?」
いきなり失礼だろうが。
おれのお客様に勝手に話しかけるな。帰れ。
あれ?
なぜこいつらノワールさんを知っているんだ?
ずっと天上に引きこもっていたんじゃないの?
「なんだか悪いな。割り込んだみたいで」
「いえいえ。ところでその黒い物体はなんでしょうか? 動いているように見えるのだが」
それはおれも気になっていた。ぶっちゃけキモいし。
「うん、実は……」
ノワールさんの魔力で覆われたそれが解かれると、中から人が出てきた。
それは四枚の白い羽を生やした女だった。
「ロイド、【天神族】って知ってるか?」
「あ、ノワールさん帰ってもらえますか?」
「ひどいな!! お前と私の仲じゃんかぁ!!!」
クソ、この人面倒事をあえておれのところに!!
聞きたくない!!
「ま、まさか、彼女は天神族の!!?」
「これはマズイぞ! こんなことが彼らに知られたら……!」
待て、まだ慌てるような時間じゃない。
「いや、別に攫ってきたとかではないんだし」
「暴れるから無理やり連れて来た」
人攫いだ。
自供した。
現行犯だ。
「ロイド様、もう引き返せませんよ!!」
「ロイド様、如何するおつもりだ!?」
「いや、聞いて欲しい。私は悪くないんだ。この女がケンカ売って来たからね、その――」
どうやってこの状況を切り抜けようか、頭に栄養素を送っている最中だった。
女が眼を覚ました。
ねぇ、なんでおれを睨むの?
なんでこっち来るの?
「おのれぇ〜!!!」
「せいやー!」
「ぎゃん!」
……しまった……
なんてことだ。
特注したテーブルが……
「ロイド、今お前が投げ飛ばしたよな。もう、お前も共犯だからな」
ノワールさんは晴れやかな笑顔を見せてくれた。
女じゃなかったら殴っていたと思う。
「なんてことだ……天神族と戦争になりますぞ」
「だっていきなり掴みかかって来たんですもの」
証拠を隠滅して知らんぷりしようか、全部ノワールさんの責任にして切り抜けるか、襲われた被害者として開き直るか決めかねていた時、ある人が尋ねて来た。
「まぁ、なんてことかしら」
「あなたはギルドの……」
おれを大会の予選に参加させ、不正を取り締まる大会実行委員のお姉さん。
「……あのロイド侯が、異種族の女性を〝攫い〟〝監 禁〟して〝暴 行〟とは」
「え?」
「がっかりしましたよ。教会は許し難いですがあなたも度し難い危険な存在のようですね。やはりあなたは我々天神族の監督下で働いていただく他ないようです」
ナニコレ?
ドッキリ?
ふと、視線を部屋の隅にやると、久しぶりに見たくない者が見えた。
《油断したな。お前は、というかおれたちは嵌められたんだ。今すぐそいつの口を塞がないと、全て失うぞ》
確かにその通りだ。
つまり――天神族はギルドに通じている。
なんで二人がおれに膝を折れと忠告していたのかわかった。
今おれを脅迫しているのは〝世界最大の組織の長〟というわけだ。
予選編はこれにて終了です。(幕間で試合を書き足すかもしれませんが)
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