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12.子爵(新)


 子爵になったら、王様からなんか祝い金をもらいました。


 いえーい。


 金は人を豊かにしてくれますのう。


「さぁ、ヴィオラ、欲しいものがあらば申してみよ」

「お給金は十分いただいてますよ?」

「欲しいものとか無いの?」

「はい……?」


 心当たりが無さそう! 無欲……!! 

 いや、さすがにそれはあり得ない。この年頃の女の子はおしゃれとかにすごいお金が……


 あれ?

 この子、いつもメイド服だし、メイクしてないな。

 まぁ、まだ16歳だもんな。


「ヴィオラってお給料何に使ってるの?」

「育ったとこに送ってます」


 孤児院に寄付してた……


 おれも寄付することにした……




 突然子爵になったので周囲が慌ただしくなった。付き合いの無かった近隣の諸侯から手紙が来るようになり、パーティーの誘いも増えた。中にはおれに相談をしてくる大人もいた。

 相談と言うより、悪評ばかりだが。今のうちにおれを自分の派閥に抱き込もうという算段だろう。


 めんどくさい。キャラ設定をミスったな。

 おれが陰謀を華麗に潰したことが広まってしまい、おれに相談すれば困りごとを解決してもらえると思われているようだ。有能ではなく無邪気な感じで通せばよかった。


 あと、家庭教師の依頼も来た。

 ついこの間まで平民だった六歳にそんなことを頼むなんて他意があるに決まっているので基本断る。

 でも中には父上がお世話になった人もいるから、付き合いで出向くこともあった。


 行って見るとやっぱり家庭教師など方便で、お茶会に付き合わされたり、物を押し付けられたり、時には奴隷を譲ろうとする商人もいた。


 金持ちって怖いわー。


 そういう困ったときは『ぼく、よくわかりません』とか、とぼけて何とか乗り切った。

 基本的にパーティーは面倒なだけでつまらない。食事や楽団、ダンスや芸人の劇や大道芸は彼らにとっては娯楽なのだろうけど、おれにはただ疲れるだけだ。

 爵位を頂いた代わりに、何か仕事があるかと身構えていたが、こういう付き合いが代わりの仕事みたいなものだ。


 ただ、陛下がくれたバリリスという名前のおかげか、あまり無理強いしてくる人はいなかった。


 

 助かったのは例の女神様探しだ。



「いつもご利用ありがとうございます。本日はどういったご用向きで? ご融資、保険のお申込み、お手紙のご郵送なら新料金プランがご利用いただけますよ」



 冒険者ギルドに入ると必ず右手にクエスト依頼、受注のカウンターがある。

 反対に、左手には一般に情報屋とか郵便屋と呼ばれる会社の窓口がある。


 いわゆる便利屋みたいな民間企業らしい。

 

 子爵になってお金が入って来たから口座を開設した。この世界にも銀行みたいなところがあったとは驚いた。それまでは簡単な世の中のニュースを伝える情報屋としか知らなかったけど、色々やっているようだ。


 せっかくだから人探しを頼むことにした。


 


「お探しの方は当サービスをご利用ではありません。3年前カサドの街のギルドで目撃されて以来足取りは不明です。また冒険者ギルド、王国の官爵をお持ちの要人並びに関係者、神殿などに該当する容姿の女性は見つけられませんでした」


「そうですか」


「ご期待に沿えず申し訳ございません」


 ガッカリはしたが彼女がこの国の魔導士でないことがハッキリした。

 父上の言った通り、帝国か、共和国の人だろう。


「ところでロイド様。魅力的な投資についてご興味はございませんか?」

「結構です」


 子どもを勧誘するなよ。


「ではまたのご利用をお待ちしてしております」


 おれは以来、さらに中央大陸言語の勉学に励むようになった。 

 後はひたすら訓練。


 剣や馬もだけど、やっぱり魔法に時間を掛けた。

 これからおれは王立魔道学院に入学する。そこでの成績次第で、宮廷魔導士になれるかどうかがほとんど決定する。

 

 特に力を入れたのはレジストの練習。


「相手の魔法を素早く見極め、同じ属性の魔法でコントロールを乱すんだ」


 父上は詠唱をほとんどしない。その魔法が発動する前にどうやって属性を判別するのか。

 考えずに感じる。


 それだけだった。発動させる属性によって変わる感覚、異なる属性同士が干渉し合う性質を利用する。

 あとは観察力。魔法が発動する前兆を素早く見極める。

 

「なんだか簡単ですね」

「……そんなわけないだろう。私の魔法をレジストできるまでになるとは……」


 父上は魔法の発動が早いし、発動場所も任意だから読みにくい。でも結局は魔力感覚に集中して、変化に気を配れば大抵は分かる。


「ロイド、その学院のことなのだが」

「はい?」


 父上が何か深刻そうだ。

 だが、その話題を遮り、ヴィオラが来客を連れて来た。


「恐れ入ります。旦那様、郵便屋さんがいらっしゃいました」

「お取込み中失礼します」


 この間見た顔だ。ギルドの情報屋さん。

 人探しの依頼は終わったはず。

 用事は父上にか?


 彼は高そうな木箱から一通の手紙を出した。

 

 蜜蝋の紋章は国旗と同じだった。ということは――


「また陛下からですか?」

「ああ、ロイド。どうやらお前もお誘いいただけたようだな。ただし、手紙の送り主は陛下ではない」

「え?」


 それはまた、退屈なパーティーへの招待状だった。 

 手紙の最初には可愛らしい字でこう書かれていた。



 ‟王女システィーナより誕生日会へのお誘い”


情報・郵便屋について加筆 2020/5/5

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