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17.超獣覇龍


 ――黒獅子のドン・リース――


 魔族のヒエラルキーにおいて下位に位置する獣魔族でありながら、魔王に最も近いとされた男。

 

 時代が生んだ傑物あるいは怪物。

 味方を高揚させ、敵に恐怖を刷り込む。

 そのカリスマ性から、尊敬と畏怖と親しみをもって、あらゆる種族から首領(ドン)と呼ばれた。


 そんな彼が参加する大会はもちろん、超満員。

 獣魔族が多い大草原クラウドには様々な種族が集まった。



 だが、観客の期待に反し試合は行われなかった。


 リースと闘うことを目的に大会に参加した名のある冒険者や戦士たち。

 彼らはいざ本人を目の前にすると、怖気づいた。


 リースは落胆した。

 

 彼にとって闘いこそが全て。

 おれに付き従うのも、より大きな闘いの中に身を投じられると考えてのこと。

 

《果たして、ドン・リースに戦いを挑む猛者は現れるのか!!》


 試合が進むにつれ、誰がリースと闘うのかに注目が集まった。


 そしてようやくその時は来た。


《今大会、初!! リース選手と一騎打ちを所望する身の程知らずが現れたぁー!!! 棄権するなら今の内だぞ!!!?》


 リースの前に現れた選手。

 

 リースよりも二回り以上大きな体格、赤紫の肌、額に突き出た大きな角。


《ついに正体を晒したジュライス・マクマリス選手!! 鬼人族でしょうか? それにしても大きい!! それに、これまでの戦闘では全て魔法を駆使していましたが、これは肉弾戦も期待できそうだぞ!!》


「私は他の者とは違う。全力で掛かって来い。獣魔族」

「ほう……」


 このジュライス・マクマリスこそ、カルオンと同じ使命を負ってやって来た始祖直系の種族。


 覇龍族。


 麒麟族とは異なり、始祖魔人から〝魔〟を色濃く受け継いだ種。

 最大の特徴はその並外れた耐久力。環境適応能力。


「私はロイド様に力を示さねばならぬ。悪いがその為の踏み台になってもらうぞ」

「ふむ……12といったところか」

「なに?」


 この数字の意味をジュライスが知る由もなく、試合が始まった。


「さぁ、かかって――」


 正面にいたリースは『獣化』もせずに殴りかかった。

 ジュライスはそれを受け止めた。


「ほう、早いな――ぐぉ……!!?」


 ジュライスは腕の激痛に顔を歪めた。


「貴様……!!?」


 反面、リースは歓喜に口元を綻ばせた。

 この相手は、本気で殴ってもすぐには壊れなさそうだ。


 獲物を見つけたことでそれまでの紳士の皮は剥がれ、凶悪な姿が姿を現した。


『獣化』による、変異。


 

 ジュライスは果敢にも自身に備わった圧倒的暴力を駆使した。

 変異が終わるまでの無防備を突く定石。

 しかしリースは変異中も難なく動き、攻撃を受け流した。


 その動きは徐々に受け流す、から相打ち狙いの攻撃へとシフトしていった。



《両者、試合開始早々殴り合いです!!! これだ、これが見たかったんだ!!!》


 湧き立つ観客と司会席。


 それとは対照的に、この時ジュライスは混乱のなかにあったという。


(私の拳に怯まない!!? いや、完全に押し負けている!!?? なぜ獣魔族が、ここまでの力を……???)


 一発一発が重く、頑強な肉体に突き刺さる。


「――ッン゛~~~~!!!」


 野性的な見た目とは裏腹に、的確な突き。

 攻撃を受けるごとに全身に戦慄が走る。


 逆に繰り出した拳は弾かれる。

 岩をも容易に砕くその拳には、固い鉄塊のごとき感触が。


(『獣化』はあくまで獣人の力を得るだけのもの……それに気門法は麒麟族、鬼門法は我々覇龍族だけが極められるはず……! だが、この男は確実に両方を極めている!!?)


 


「――それで全力か?――」


 腹の底に響くような、低く唸るような声。


 ジュライスは、慢心を捨てた。

 もはや種族的優位性はないものとし、全力を出すことに決めた。


「失礼した。そなたを対等な相手と認め、全力でお相手する!!」

「それはなにより」


 もとより、覇龍族の得意とするのは魔法の行使。


 莫大な魔力はそのまま圧倒的火力に変換される。


「『王黄』!!!」


 闘技台が炎に包まれた。


 さらに――


「――『炎獄』!!」


 超高温の炎が渦巻きリースへ集中した。


《まるで小さな太陽です!! 眩い炎の渦にリース選手取り込まれました!!! 対人級の規模に対軍級の威力!!! 果たしてリース選手、この中を生き抜けるのか!!?》


 獣魔族の弱点。

 それは火へ脆弱性。


 獣の毛はよく燃える。

 身体の大部分を毛で覆うことになる獣化は弱点を広げることに等しい。


 ただし、それは一般論であり、この男に一般論は当てはまらない。




「――バカな……」


 火が消え、リースが現れた。


 熱した鉄のごとく、全身に黄色い光を纏いながら、悠然と立っていた。


 その光が消えると、その下には、無傷の黒く凶悪な姿があった。


《なんてことだ!! さすがは魔族最強の男!!! もはや常軌を逸している、ヤバい!! 単純に怖いぃぃ!!!!》


 余談だが、リースの服は火竜の(たてがみ)で織った布のため燃えない。


「化け物か……?」

「フフ、良い。主殿と出会う前の私にならば、あるいは傷を負わすことができたかもしれん」


 長い航海の中、日夜修行と称しおれと闘っていたリース。

 おれはその中で多くの格闘スキルを学んだが、彼もまた急激な成長を遂げていた。


(あの全身を覆う毛。気門法で強化しているのか。まるで龍化した麒麟族の鱗のようだ……!)


 一方、ちらりと客席を確認するリース。

 久しぶりの強敵に喜び、楽しもうか逡巡したが、彼の主は試合を見ることなく、嫁たちと楽し気に談笑していた。ごめんね。


(ふむ、主を退屈させてしまったようだ……)




 以下結末。


 ジュライスは最良の戦法を取った。

 接近をさせまいと、魔法を打ち込んだのだ。

 

 風魔法による無数の斬撃。


 だが黒く重い塊は初弾を弾き、後の魔法を置き去りにした。


(早っ――!!!)


 それまでの的確で秩序を持っていた武力が、野性的な猛威を伴ってジュライスを襲った。


「グル゛ォ゛ォ゛ォ!!!!!!!!!!!」


 

 多くの観客が、パニックを起こしたという。



 殴る。


 ただひたすら殴る。


 相手が倒れない限り続く、無情なラッシュ。


 体格で上回るジュライスをあっという間に壁まで置き込み、さらに壁を破壊しながら、なおも攻撃の回転は上がっていく。


 局所的災害に等しいそれは、観る者に恐怖を植え付けた。


《ぎゃああ、唐突に始まった猛攻!!! と、止まらない連打連打連打!!! ああ、逃げて下さい客席の皆さん!!! そこは危険です!!! ぎゃああ!!! 飛来物に注意して……》



 彼はなまじ耐久力があっただけに、より長く悪夢を体感し続けた。

 前後不覚、訳が分からないまま殴り飛ばされた。

 

 全く同情を禁じ得ない。

 彼には情報が少なく、また環境も不利だった。


 狭い闘技場内で、リースから逃げることは困難。

 さらに、あらゆる魔法を食らい治されを繰り返した彼の身体は、並大抵の魔法が全く効かなくなってしまったのだ。おれのせいだ。


 魔法による制圧を攻撃の要にしていたジュライスには初めから相性の悪い相手だったわけだ。

 


 

 結果、反撃をする間もなく最後には壁と一体になった。


 後を追うように会場全体が軋み、崩壊。


 


「この世にはまだあのような者もいたのだな」





 決勝進出を決めたリースは脱ぎ捨てたコートを羽織り、客席にいる主の元へ戻った。




 



 以上が、当時観戦していた者、当事者であるリース、そして対戦相手のジュライス本人から聞いた闘いの経緯である!!


 そう、これは準決勝の話である!!!

 おれはちょっと試合から目を離していたため知らなかったのである!!!


 ノトスからこちらに戻り決勝に待つカルオンの仲間を見てやるつもりでいたら、決勝、リースの対戦相手が棄権。

 同時にボロボロで観覧席にいたジュライスをカルオンが発見。


「壁に埋まっていたの、あんただったのか!!!」

「……え?」


 話を聞くに至った。


 これは余談だが、決勝が無くなったリースがエキシビションを呼びかけ、名誉挽回を計るカルオンが応じ、ジュライスと同じ末路を辿った。


 今度はちゃーんと観た。

 とってもおもしろかったです。



 だが、他人事じゃないな、おれも……


 


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