表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

185/242

14.能力開放



 国際剣闘大会、ノトス支部代表決定戦、決勝が始まった。


《さぁ、文明都市ノトスの代表はどちらになるのかぁー!? 片や美貌の剣士、元エルシオン、神器五式剣を受け継ぎし魔人族の純血統、マドル選手ぅーーー!!!》

「「「「「「「「「「きゃーーーー!!!!」」」」」」」」」」


 すごい人気だ。

 さすが地元。


 おれもやっておこう。


 あ、嫁に止められた。なんで?


 一緒にやろうゼ。


《はい、あと挑戦者のカルオン・ハルでーす》

「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」」」


 素っ気ないな。

 もう、挑戦者扱いにしているし。


 エルシオンのミューラーを倒したことで、地元の人たちに嫌われているみたいだ。

 カルオン・ハルは気にも留めていないようだが、こういうアウェー感で不利にするのはどうかと思う。

 野蛮な殺し合いではなく、競技なんだから、もっと理性的な観覧を心がけて欲しいものだ。


「ガンバレ、マドル!!! 叩きのめせぇ!!!!」


 あ、こっち向いた。

 気負いは無さそうだ。


「それでは、決勝戦……開始ぃーー!!!」


 先手はマドル。


 標準モードの短剣を鞭に変形させ、打ち込む。


 しなり、うねり、不規則な軌道を描いて叩きつけられる鞭をカルオン・ハルは最小限の動きだけで避けた。


「目がいいですな」

「ミューラーとの戦いといい、反応速度が速い」


 鞭は獲物を見失い、闘技台を抉る。

 

《あ、当たりません!!! あの鞭の軌道が見えているかのようです!!!》 


 距離を詰められる。

 ほぼ最短距離で向かってくる。


 だが、それはマドルもわかっている。


「――『氷結』!!」


 魔法で広範囲に攻撃を仕掛けた。

 これなら、大きく避けるしかない。


『氷結』によって闘技台の摩擦係数が下がり、移動速度は大幅にダウンする。


 カルオン・ハルの行動範囲も狭まる。


「上手い!」

「はい、ですが……」


 氷結によるダメージはない。

 

《――あ、当たらない!!? マドル選手の攻撃を滑る氷上で軽々と避けている!!?》


 カルオンが、地面を叩き、氷のリンクはバラバラに砕けた。


 同時に、その手から何かが弾かれた。


「指弾か!?」

「魔導士に詰めるときの常套手段。しかし、マドルには効きますまい」


 鞭で放たれた石礫を叩き落としていく。


 問題は距離が縮まっていることだ。


「そいつの間合いは広いぞ、油断するな!!!」


 一足飛びで数メートルの距離を一瞬で詰め、カルオンは完全にマドルの懐に入った。


「マズイ!!」


 先ほどのミューラーが脳裏に過った。

 あいつの一撃は重い。

 マドルは打たれ強い方ではない。


 くらったら致命的。


「――っ!!」


「退くな、マドル!!!」


 おれの声が届いたのかは分からないが、マドルは【瞬回】を駆使して攻撃を受け流した。


 身体の回転と踏み込みを用いて身体を入れ替える。


 懐に入り、投げの体勢に入る。

 だが、相手もただ者ではない。


 掴みに伸ばした手は肘ではらわれた。


 そのまま、蹴りがマドルの脚にめり込む。


 防御はしたがガードし切れていない。


 重い蹴りが集中する。

  

 形勢は一気に不利に。


「あの野郎!!」

「主殿、殺気が」


 カルオンは容赦がない。

 常に眼や内臓、人体の急所を狙っている。


 蹴り飛ばされたマドルの顔面を目掛けて拳を突く。

 マドルはそれを転がりながら躱す。


 起き上がると同時に、脚で拳を受け流し、もう一方の脚で顎を蹴り上げた。


「よしよし、いいぞ!!!」


 だが全く怯まない。


「ああ!!」


 顔面に『発光』を発動させて、牽制し、ようやく距離を取れた。


「上手い!」

「ですが、今の攻防でかなりのダメージを負いました」


《凄まじい、まさに決勝に相応しい攻防です!! 両者主導権を譲りません!!!》



 バカ言え。

 完全に向こうに握られている。

 懐に入られた時点で後が無いんだ。

 

 躊躇するな。


 勝負をかけるなら早くするんだ。


 奴は確かに速いし、強い。


 強さで言えばカルオン・ハルは10、マドルは8だ。


 だが、この差は決して絶対的ではない。

 カシムのように、覚悟や集中力は時に、この実力差を大幅に覆す。



「行け、マドル!!! 」


 マドルは五式剣を槍に変化させ、『風圧』で加速し真っ直ぐ突っ込んだ。


《――これは勝負に出たか、マドル選手!? カルオン選手は――》


 カルオン・ハルは迎え撃つ姿勢を見せた。


 一瞬の攻防。


 マドルの槍がカルオンを捕らえた。


 間髪入れず乱れ突くこと、五回。


 全てが決まった。


「よし!!! やった!!!! よくやった!!!」

《決まったぁー!!!! マドル選手、怒涛の連続攻撃に、カルオン選手成す術なく倒れました!!!》


 馬鹿め、余裕ぶっているからだ。


 五式剣には、隠された能力がある。


 形態を変えた五つの武器形態にはそれぞれ謎の魔石がついていた。

 それらは形態を変えるためのものではなく、能力開放による魔法の付与を目的としたもの。


 まさか、相手も想像すまい。槍に付与された魔法が『予知』とは。


 数秒先の未来を見られる。


 マドルにはカルオンの次の動きが全て見えていたのだ。

 

「ん、どうしたリース、もっと喜べよ」

《これは――勝負あったかぁー? いや、まだです!!!》

「なに? 立てるのか!?」

「攻撃は全て決まっていました。しかし、相手もまた常人はありません。一撃目で動きを読まれた後、避けるのを止め、守り受けていたのです。マドルの『五爪』が真に決まったのは最初の一爪のみ」


 なんてやつだ。

 あの一瞬で、避けられないからと槍での攻撃をあえて受けたのか。


 いや、受けたからって重傷だろう。


「傷が浅い?」

「いいえ、あれは精神力。あの程度の傷では怯まない訓練を受けているのです」


 不気味だ。

 本当に人間か?


《おや、マドル選手が逆に、息を上げています。これはどうしたことかー!!?》


 槍の能力開放に魔力を使い過ぎたか。

 それに、奴のプレッシャーは並じゃない。

 傍目に見ているよりも、体力の消耗は早いはずだ。


「ガンバレ、マドル!! 相手のダメージは深い!! 回復させるな!!!」


 だが、その時信じられないことが起きた。


「――グルゥ゛ゥ゛!!」

「うわ、びっくりした。なんだリース!?」

「……『獣化』の体勢に入った! マドル、させるなッ!!!!!」


 通常時であれだけ強いのだ。『獣化』されたら手に負えない。

 だが好機でもある。

 

『獣化』の時、身体の変異が完了するまでは無防備だ。

 

 マドルはその隙を見逃さなかった。


 青白い肌が白い鱗に覆われていく。爬虫類のような特徴。


「「鱗魔族?」」


 マドルのダメ押しの攻撃。


 それは変化の過程にあった手で、難なく受け止められた。


「どうなっている!!」

「おのれ、『部分獣化』か!!?」


 先に片手だけ獣化を完了させていた?

 マズイ、『獣化』の練度も相当なものだ。


 だがそれだけではない。

 マドルが負わせた傷が治っていた。


「『獣化』で傷まで治るのか!?」

「いえ、そんなはずは……」


 そのまま、『獣化』が終わり、現れた姿は鱗魔族のものではなかった。


 金髪が逆巻き、頭部には角が生え、身体の鱗は白く荒々しい。


 そして顔は龍。



 おれたちも、そしておそらくマドルも訳が分からないまま。


 槍を掴まれていたマドルへ、その拳が振り下ろされ、会場からは悲鳴が上がった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
新作です。よろしければこちらもお読み下さい
『ゾンビにされたので終活します × 死神辞めたので人間やります』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ