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12.魔皇翻弄



 姫が最近増々大人っぽくなってきて、その表情を見る度にドキッとする。

 何気ない瞬間に姫の方を向くとよく目が合う。


 彼女はそれで蠱惑的に笑い、一々ことあるごとに、おれのハートを射抜く。

 

「どうしたの、あなた?」

「君に見惚れてる」


 このままではマズイ。

 すぐに骨抜きにされてしまう。

 だから見つめられたら見つめ返すことを心掛けている。

 昔と違って、今は二人の間に距離の制約はなく、主従のわずらわしさもない。


「そうなの? どうして?」


 頬杖をついて聞き返す。

 こういう姿におれは目が釘付け。

 あの王女が頬杖ついて、おれの顔を覗き込んでいるのだ。


「んん?」


 頬杖をつくという姿勢を考えついた人がすごいと思う。

 疲労から頭を手で支えるという動作の帰結として、怠惰なイメージと化したはずのこのポーズ。

 派生したその表現の幅は広く、無限にも思える奥行きを感じさせる。

 時に威厳ある者の余裕を表し、大人っぽい表情を際立たせ、愛嬌と同時に近しい距離感までも演出する。

 首の角度、表情、片手か両手か、グーか、パーか、指の添え方次第で、その効力は千変万化に変化する。

 

 そして、今王女システィーナが見せる姿勢は、〝首こてん流し目片手顎クイバックオブザハンド〟である。


 手の甲に顎を乗せ、やや上向きに首を傾げた様相で隣にいるおれを流し目で見つめている。


 おまけに!

 あえて脚を組むという抜け目の無さ!!


 おれの脳内の審査員たちが無限に十点札を上げ続けており、集計不可能。


「――言葉にすると、足りなくてウソになりそうだ」

「でも言ってみて?」


 いじらしい笑み。

 姫にあるまじき崩した姿勢。

 それによって逆に強調される成長と大人びた魅力。

 それを見せつけてくる無邪気でむき出しな好意。


 今、この姫はおれだけのものなのだ。


 だから一瞬一瞬がとても大事に思える。柔らかいベールで包んでこの刻を止められたら。

 でもそうしたら、姫の輝く変化を見られなくなる。このジレンマがどれだけ幸福なことか、噛みしめる。


「どんどん美しくなるから、目が離せない。今もこれからもずっとあなたに夢中だ」

「もう、そんな……」


 ああ、こんな言葉ではこの想いは伝わらないと思う。

 それでも彼女は顔を紅くして恥らう。

 さっきまでの余裕から一転、年相応の娘が姿を現した。


 だが、それを悟られまいと眼は逸らさないのであった。

 

「ありがとう、側にいてくれて」

「……どういたしまして」

 

 ついに顔を俯かせた。

 おれの褒め言葉に対して耐性無さ過ぎてかわいい。


 そんなこんなで姫と戯れていると、後ろから手が伸びて来た。


「ロイド様……私も――」


 ぐっとおれの身体を引き寄せたヴィオラから、消え入りそうな声で聞こえた言葉。

 

『――私も可愛がってください』


 そんなことを言われたら可愛がらないわけにはいかない。

 

「よしよし、甘えんぼだなヴィオラは」

「もう! 私の方が歳上なんですよ? もっと私に甘えて下さい」


 そう言って両手を広げるヴィオラ。


 昔はその胸に躊躇なく飛び込んだものだが、大人だからな。いや、あの時も子供では無かったが、身体が大人だから場所を考えないと。


「わかった。じゃあ、こうさせて」

「あ……」


 彼女の腰をグイっと引き寄せ、そのまま抱き寄せた。

 なんという収まりの良さ。


「は、恥ずかしいですよ……」


 と言いつつピッタリくっ付いて離れないヴィオラ。

 こちらを見上げる顔。

 とても近い。


 いかん、おれもドキドキして目を逸らしてしまった。


「ロイド様? すごい身体が揺れてますヨ? どこか悪いんですか?」

「なんでもナイヨ」


 ただ心拍数がはねただけ。


「ん~? 本当ですか? 私にできることがあったら何でも言ってくださいね?」

「う、うん」


 ちらっと彼女の顔を見た。

 ニンマリと頬を紅くして微笑んでいる。


 はぁっ!!

 こ、こいつ……おれの反応を楽しんでるな!!

 

 そう、恋愛においてヴィオラは〝天然〟から一転、〝策謀者〟へと変貌する。


 くそぉ……かわいい奴め。かわいいやつめ〜。

 


「ロイド様、もしかして照れてるんですか?」


 当たり前だ!!!

 

 想像して欲しい。

 おっとりしたかわいいお姉さん。いつもメイド服に同じ髪型の彼女。

 

 それが!!!


 自分と外出するときだけ、すごい気合の入れ様なのだ!!


 清楚でありながらも柔らかく、体のラインが出る選ばれた者のみが着られるドレス。

 控えめながらもセンスよく選ばれた首飾りやイヤリング。

 歩きにくそうなかかとの高い靴。

 セットに時間がかかりそうなヘアスタイル。

 自然でいて少しだけ大人っぽさと、女性らしさを意識させるメイク。


 おれの嫁が、未だにおれを本気でオトしに来る。

 惚れる。そりゃ惚れるよ。


「お、お前は恥ずかしくないのか?」

「私はうれしいですよ。こうしていると幸せです……」


 そう言いつつ、耳が赤い。

 なんだそのニマついた顔は。

 精一杯なんじゃないか、こいつめ〜。


「――ん」


 ヴィオラがこちらをしばらく見つめ、ふと目を閉じた。


「え?」


 一際大きく唸るおれの心臓。


 ヤメテ、これ以上翻弄しないデ! おれの身体が持たない!!

 


「ひどいわ二人とも。私をのけ者にするの?」

「ほぉわ!!」


 反対側に姫がくっ付いて来た。

 こうなってしまうと、おれは正常に頭が働かない。

 

 おれの両脇に収まった二人の嫁に弄ばれる。

 成す術無し。


 まぁ、いつものことだけどね。



「うぉほん!! 主殿、勝ちましたぞ?」

「きゃ」

「ひゃあ」

「うぉあ!! なんだ驚かすなリース!!」

「申し訳ございません。お三方とも気づかれて居られなかったので」


 ごめん、リース。

 試合観て無かった。


 闘技場を見ると、客席まで破壊され、原型が無かった。

 壁には対戦相手と思わしき壁のくぼみがあった。

 埋まったらしい。


 道理でまわりに人がいないはずだな。

 リースって怖いわ〜。


「それで、優勝した?」

「次が決勝ですが、延期になりました」


 不服そうな顔するな。どう考えてもお前が原因だって言うおれも同じことしたから口には出さない。

 

「じゃあ、マドルあたりの試合でも観に行く?」

「ぜひ」


 次はみんなでマドルの応援だ。


すいませんタイトル思いつかない……

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