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9.決勝開始


 個人的には他人とは思えない。

 

 カシム・ドローレン。


 我が領内に誘致した商家ドローレン家の婿養子。仕事は軍務局の事務。真面目で誠実な人柄。四十二歳。


 昔、メイジーと書類仕事で軍務局に赴いた時、窓口で対応したのが彼だった。丁寧な対応に好感が持てた。だがすぐに若い他の者に対応する機会を奪われ、雑務を命じられていて驚いた。


 気弱な男だと思った。


 まるで転生前の自分の未来を見ているようだった。そういえば、もし死んでなかったら同じ歳か。 



 おれに嗜虐趣味はないが、この力の差を覆そうとする決意の眼差しは、甘ちゃんの勘違いのように思えて心地悪く、叩き潰したくなる。これまで何度死線を潜り抜けて、今の強さを手に入れたと思っている? 事務員がおれと対等に戦えるとでも?


 ――ああ……


 なんて小さい男だ、ロイド。

 そして浅い。情けない。

 カシムを通して、自分の至らなさを痛感する。


 この期に及んでまだ虚栄心と優越感に固執しているのか。

 成長してないな。


 ここにいる観衆も、多くがおれの勝利を望んでいる。それは理解できない彼の強さへの不信。

 八百長を疑う者もいる。だがおれと対戦している時点で彼は不正をしていない。


 実力を隠しているのかとも思ったが、こうして対面してみると分かる。

 やはり彼の実力は2だ。一般的な兵と変わらない。

 それがリトナリアさんやマイヤ隊長を倒すところを想像するのは難しい。


 2の兵士が8の実力者と戦い勝利するためには。

 

 もし、おれだったら……


「もしもーし!! 試合始まってますよー!!?」


 なるほどな。


「無視ですかー?」

「読み合いじゃ。闘いは始まっておる」



 彼を前にして、距離を取る選択肢はない。必要性も感じない。それに殺さない程度の攻撃という制約。ある程度の攻撃は予測できなくもないか。彼の間合いになるまで、彼はおれの攻撃を先まで読んで避ける。それ以外に彼がおれに攻撃を当てる手段はない。

 シンプルだが、難しい。危険で恐ろしいだろう。

 

 一方的に攻撃される恐怖。判断を誤れば、手加減されていようとも死ぬかもしれない。

 

 カシムはそれを今からやろうとしている。彼が自分の間合いにおれを捕らえるまでに、避ける攻撃回数はおそらく七から八。それも一方的な七、八度の攻撃。


 その後、この鎧の弱点を突くのか。


 おもしろい。


 おれの攻撃を予測し、避けられるのか。

 フラウとおれが完成させたこの黒騎士の鎧にまだ弱点があるのか。


 試してみよう。


 という気持ちにさせて、彼の土俵で勝負をするように誘導されている気がする。

 

 カシムが行っているのはおそらく、戦術的な先読みというよりも、もっと深い、思考の先読みだろう。

 今、彼はおれの頭の中をおれの行動から予測している。


 ならば、おれも彼の動きを予測してみよう。


 この距離を保っている意味。

 初撃はこの距離でないと躱せないということか。


 いつものおれならまずこの無駄に長い剣を振り下ろす。

 いや、おれの剣技はこの大会で披露していない。

 それにこの無駄に長い剣のギミックもまだ知らないはず。


 未知の攻撃に対して、それでも予測できるというのか?


 さっきから正面で構えたままだ。攻める気配はない。誘い込んでいる。

 ブラフか?

 おれのここからの攻撃は予測できていない?

 

 ――ん?


「――ああっと、しびれを切らしてカシム選手から突っ込んだ!!!」


 やはり、ハッタリ。

 おれの攻撃は読みようがない。


 おれにあれこれ考えさせている間に、距離を詰める作戦か。失策だったな。


 見てから避けるにしろ、勘で避けるにしろ、分が悪いのはカシムで間違いない。


「これは、エドワード選手迎え撃ちます!!! ――が、カシム選手避け――っ!???」


 おれの振り下ろした無駄に長い剣はそのまま闘技台を斬った。


「「「「えええええっ!!!」」」」


 いかん、いかん、手加減忘れてた。でも、ずいぶんきれいに避けたな。

 カシムの脚は止まっていない。

 


 続く第二撃。


 横薙ぎ。


 これも避けた。


 


「「「「おおおお!!!」」」」」

「すげー!!!」

「まぐれか?」

「いやそれでも、アレで止まらねーってすげぇぞ!!!」


 間違いない、予測されている。


 おれの動き出しに合わせて適当に動いているのか?

 違う?


「闘技台を割るほどの威力、それを目にも止まらぬ連撃で繰り出すエドワード選手の攻撃を――あ、あれ?」


 止まった?


 なんでここで止まる?


 なんでだ?


 一気に駆け抜けた方が優位なはずだ。臆したわけではないみたいだが。

 まぁいい。

 おれまで攻撃を止める必要はない。

 悪いが、重傷でもおれなら治せる。その前提で攻撃させてもらう!


「会場はヒートアップ! カシム選手、エドワード選手の攻撃を避け続けます!!!」


 当たらない?


 何らかの予知能力?

 それともおれの攻撃の癖を読み取っている?

 ありえん。そんなことができたらそれこそ達人だ。


「――一振りごとに身の毛もよだつ一撃を躱しながら、とうとうカシム選手、エドワード選手の懐に入ったぁー!!!」


 近づくほどに、予測の精度、キレが増している気がする。

 フェイントも効かない。

 この短時間でおれの攻撃パターンが読まれたというのか!?



 距離をとろう。もう一回見たい。



「エドワード選手が後退!! これは意外な展開です!!」



 二度目も結果は同じ。いや、さらに正確に避けられるようになった。会場もカシムの決死の突撃を息を飲んで見守る。


 これほど力量を計るのが難しい相手は初めてだ。鎧の出力を上げれば、上げる程にカシムの動きも冴えわたる。


 なんか初期レベルでボスに挑むゲーマーみたいだ。


 ん?


 真剣勝負に攻略法なんかないが、もしあるとしたら……

 

 おれ?

 剣?

 

 あとは……


おもしろかったら☆☆☆☆☆評価による判定にご協力ください。


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