7.幽鬼改恐
ピーキーマシン『幽鬼』に適応するのに三日、休息をとり、四日目、準決勝が行われた。
「オラぁ!! 血が滾るッッ……ゼェェァ!!!」
うるせっ。
「クルーゼ駐屯騎士団、第一部隊長、ジュリアス・フレア選手!! ものすごい気合です!!」
会場は盛り上がっている。
こういうのが好きなんだ。へぇ〜。
「さぁ、準決勝からはここクルーゼ都市伯ロイド様が解説にいらっしゃってます!! よろしくお願いします!」
「よろしく頼む」
「ロイド様はこの準決勝をどう観ますか?」
「ここまで勝ち上がって来た二人、勝敗を分けるのは事前の準備と策であろうな」
ちょっと待てよ。
おれはエドワードとして闘技台にいるのに、誰が解説をしてるって?
司会の娘と解説席にいるあのロイドは一体誰だ……?
ワナワナ……ワナワナ……キャー!!!
はい、母様でした。
「だが、あの鎧には前回の試合では見せて居らぬ機能があるからのう……」
「のう? えっと……白い鎧にはまだ隠された力が?」
「そうじゃ」
「じゃ!?」
じゃ!?
ちょっと母様!!!
これからおれの語尾が永遠にじゃになっちゃうよ……
「ここで勝ち上がった方が、栄えあるクルーゼ代表を決める決勝に上がれます!! 勝つのは気合と雄叫びで突き進む『熱血根性野郎!』、ジュリアス・フレアか!? 高性能な鎧を使い分ける、謎多き『イケメン騎士』。エドワード・デュークか!!」
降り注ぐ歓声。会場に満ちる熱狂。
「まぁ、エドワードが圧勝するじゃろうな」
「あ、まだそういうことは言わないで下さい」
もう、母様ったら~期待に応えよう。
「準決勝開始!!!」
「オラァァァ!!!!」
「ああっと、試合開始と同時にジュリアス選手突っ込んだ!!!!」
ジゼルとの戦いで反省したおれは、持ちうる限りの力で戦いに臨むことにした。相手選手の戦法に合わせて、完全に準備を整えた。
ジュリアスは典型的な猪突猛進、根性論ゴリ押しタイプだ。
あ、ディスってないよ?
優位に試合を運ぶにはどうすればいいか、明白だった。
「オラァ!! オ――ぐはぁ!!」
「突撃失敗! 投げ飛ばされて叩きつけられました!!!」
「ほう、組討ち技じゃな。キレイに決まったのう」
ジュリアスはおれが何をするのかわからないだろうが、おれはパラノーツ式軍隊剣術を熟知している。
「き、効かねェェ……ゼ!!!」
いやいや効いてる。
「気合で立ちましたが完全にエドワード選手を見失っている!!」
タフなやつと斬り合うのはごめんだ。
出し惜しみはしない。
「おや、エドワード選手の両腕の装甲が開きました。不具合でしょうか?」
「いや、あれは装備じゃな。無限弓を使うらしい」
おれが文句を言ったらフラウが幽鬼に装備を追加してくれた。元の基本フレームに少し改良を加え、腕から矢を射出できるようにした。
「オラァ!!! てめぇ、この、勝負しやが――」
ジュリアスの足元に刺さった矢が爆発し、吹っ飛んだ。
「ぐぉぉぉ……かはっ!!」
「えええええ!!! なんじゃあれー!!!」
「矢じりに爆燐鉱を使い、特殊な塗料で覆ったのじゃ。矢尻が何かに当たると塗料が剥げて日の光で爆発する仕組みじゃな」
会場、引かないで。
武器の威力があり過ぎて、普通の矢では即死させてしまうからこういう手の込んだものを用意したんだ。殺さず勝つには工夫も必要だ。
「うへぇぇ〜。え、えげつないですね……あれ? 無限弓ってまさか……」
ジュリアスは黒焦げになりながらも立っていた。
タフなやつだとは知っていたが、なんだコイツ。痛覚ないのか? ハイになってわからないのかな?
「効かねェェ!!!! オレを倒したかったら百発撃って来やがれェェ!!!」
「え? いいの?」
「――あぁ?」
両腕を突き出し、肘の十字に広がった弓ユニットが回転。魔力で引き絞り矢を放ち、回転。次の矢をまた放つ。
秒速十発放たれる徹甲矢の斉射は続き、黒い煙を立ち上らせた。
「グォォ!! ちょ――…………」
「イヤアアア!! 容赦ありません!!!」
「いや、直撃はさせておらん。当てたら一発で死ぬからのう」
腕を突き出すだけで無限に矢を放てる新装備。
矢は転移でいくらでも補充できるし、強力なしなりを生む木材と、弦を弾き絞る構造は元から搭載していた。ユニットを追加するだけで攻撃範囲の拡大とタメの間の時間稼ぎができるようになった。
「エドワード選手圧倒!!! 全く近寄らせません!!」
「あれは気合でどうにかはならん。無限弓の連射は止まらんから、耐えればその分ダメージがかさむだけじゃ」
「ほぉ〜、あの両手バンバンしてる無限弓、矢はどうやって補充しているのでしょうか?」
「うむ、それはそれは広い武器庫がじゃな――」
母様? それは言っちゃだめよ!!! ほら、霧雨仕事して!!! そう、ほら止めて!
「グォォ、効かねェェ!! こんな攻撃じゃおれは止められないぜェェ!!!」
止まっているというか、立つのでやっとじゃないか。もう鎧ほとんどないし。
でも、直撃してないとはいえ、まだ意識があるとはすごい。
あ、がんばって耐えたところ悪いが、タメ終わったよ。
「ふむ、幽鬼の攻撃はここからじゃな」
「へぇ〜、あの鎧、幽鬼って呼ぶんですね」
なんで知ってるのって空気になっちゃうから。
「フフ、あの攻撃は早いゆえ、見逃すでないぞ」
「は、はい……エドワード選手の攻撃はここからのようです!!」
タメを開放。
張力を利用し、弾き出されたおれの身体は移動を制限するあらゆる要素を置き去りにした。
移動しようとした先へ、おれはもう到達している。
ジュリアスが剣を構える間に、彼の両肩を爪で斬り裂いた。
「がはぁ!!!」
「あわわわ……皆さん見えましたかぁー? 私には全く見えませんでした」
「脇を去り際に一撃、後ろに抜けた後、返しでもう一撃加えたな」
「はぁ〜!! これはジュリアス選手、続行不可能かぁ〜!!!?」
ジュリアスのダメージは深刻だったが、気合で立っていた。しかし剣は握れていない。もう戦えないだろう。
「まだだァァ!! 一撃も入れず負けられねェェ!!!!」
コイツ……意地張ってるだけだ。これ以上は無駄だな。
「おい、一発くれてやる」
「なんとエドワード選手、歩み寄った。近接戦闘に応じる構えだ」
どうだ?
何もできないとわかったかね?
「負けを認めろ」
「なめんじゃやねェェ!!!」
「お?」
ジュリアスは痛めた肩で剣を振るった。
バカなやつだな。
鎧の装甲でやれるか? よし――
「――え? 剣が当たったように見えましたがジュリアス選手が振るった剣は空を斬り、そのままエドワード選手に組み伏せられました!!」
「てめぇ、卑怯だぞ!!!」
「勝者、エドワード選手!!」
鎧に刃先が当たる前に、こちらから当たり瞬回の円で技を逸らした。
「エドワード選手は相手を慮ったのじゃよ。あの鎧、並みの剣は弾き返す。その衝撃にあ奴の肩は耐え切れんかっただろう」
「なるほど……これは完全に実力差ですね」
有言実行。
完勝してやったぜ。
会場はエドワードコール。
「え~すいません、次の試合ですが闘技台が激しく破損したため数時間延期となります」
大ブーイング!!
キャーーーー!!!
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準々決勝→準決勝でした。おや~?っと思った方、申し訳ございませんでした。