5.第三回戦
長いから座って待ってました。
二人して体育座りで、事の顛末を眺めながら、おれが解説をした。
あの商人が連行されていく。
終わったかな?
もう客たちも限界だしいいんじゃない?
ジゼルも平静を取り戻しただろう。
「エドワード、あなたに言っておくことがあるの」
「ん、なんだ?」
「もし私が勝ったら付き合って」
もう少し、時間が必要なのかもしれない。
「み、魅力的な誘いだが、勝負に手は抜かないぞ。それに君は自分が負かした敗北者と付き合いたいのか?」
「あなたは強い。今の私よりも。でもそのあなたを越えて、あなたを手に入れる」
頭よさそうな娘だけど、意外と戦闘民族みたいな思考してるな。
「そんなに私って魅力ない……?」
「そ、そんなことは無いぞ。冒険者とは思えないキチンとした身だしなみだ。髪とか肌とかきれいだし、ちゃんとしてる感じで好感が持てる」
「ひょっとして彼女いる?」
今のどこで何を察したのかな?
「ああ、いるよ。すまない」
「わかった……」
全く、母様め。
純情な女の子をたぶらかしたみたいになったじゃないか。
「え〜、トラブルがあったようですが、試合には影響ないものとみなし続行します! 続行続行!!! いえ〜い!!!」
でも、試合に手は抜かない。
「手に入らないなら、勝ち取るまでよ」
カッコいい。
あれ、待てよ?
彼女が惚れているのはおれじゃなく、母様の式神エドワードだよね。
なんだ、狼狽える必要ないな。
「ぐふふ、おれが勝ったらお前をおれのものにしてやるぜ」
「豹変した!?」
「え〜、なんだかいかがわしい会話が交わされているようですが、試合開始しますよ!!」
悪いな。
この鎧にもだいぶ慣れた。
お試し期間は終了だ。
「それでは第三回戦、第一試合開始!!!」
彼女は魔導士だが、魔法を発動させる暇は――
「『熱風』!!」
――熱い!! スクロールか!?
試合開始直後の接近を防ぐために用意していたな。いい作戦だ――あっつい!!!
冷却キャパを越えるとマズイぞ。それにこの効果範囲は闘技台全域。いい魔法のチョイスだ。
長期戦になる前に我慢して突っ込むか。火傷しても治せるしね。
「――ん?」
あのね、さっきまでここにいたの。
目の前でゆらっと消えたの。
ホントだよ?
おやおや……
えええええ、見失ったんですけど!!
『迷彩』か?
いや、元居た場所にいないってことは違う。
これは蜃気楼か? 魔法で再現した人初めて見た。今度おれもやってみよ!! ワクワク!!
いや、感心してる場合じゃない。さっさと魔力視で見つけないと。
「ああーっと、これは強烈な熱風と共に、闘技台がゆらゆらと歪んで見えます!! 熱い!! エドワード選手、ジゼル選手を見失ったようだー!!」
これは、バレるとか心配している場合じゃない。相性が悪い。いたぞ。さっさと勝負を着けないと――
「――ッう!!」
熱い! 蒸し暑い!!!!
今度は『熱風』じゃない!!!
「動きを止めたエドワード選手に蒸気が浴びせかけられる!! これは鎧の中はオーブンでしょう!! 危険な状態だぁー!!」
くそ、今ので曇った。何も見えない!
水と火と風の複合魔法。蒸気を操るとは。
彼女の慧眼には恐れ入る。おそらくこの鎧の最大の弱点であろうオーバーヒートを狙っているな。
このまま接近はしてこない。無駄口も聞かないし、足音も消したか。
広範囲に広がった蒸気の魔法のせいで『魔力網』で探知もできない。
あれ――これ、完全に術中に嵌ってないか? 嵌ってるね。
「――ぐぉ!!」
「蒸気で吹っ飛ばした!! すごい、威力だぁー!!」
コントロールされた蒸気圧はそれだけで凶器にもなる。一撃一撃に気迫のようなものが伝わってくる。
ダメージよりもそのプレッシャーと関節から入ってくる蒸気がきつい……!
どうする?
落ち着け。この闘技台のどこかにはいるんだ。冷静に探せば見つかるはず。
蒸気で見えない!! ああ、布的なものが無いから湯気拭けない!!
あれ、身体が重くなってきた。
パワーアシストが止まってる?
ああああ、動力やられた!!
「これは審判そろそろ判定に入るかもしれません!」
認めよう。
おれの負けだ。完全に見誤っていた。
彼女の実力、覚悟は本物だ。これだけ広範囲に複合魔法を使い続けて、魔力の出し惜しみはせず、初っ端から勝負に出ていた。それが勝敗を分けた。彼女と戦うには何より真剣さがおれに足りなかった。かっこよく勝とうなんて甘かった。
「蒸気がやや薄まって来ました。これは判定を促しているようですね」
だが、勝負に負けても、試合には勝たせてもらう。
本当はこれを使う気はなかったが仕方ない。
「さぁ、波乱の三回戦、第一試合は蒸気を操る金級冒険者ジゼルによる一方的な試合になりました!! 司会席まで茹だるような暑さです。鎧を着こんだエドワード選手の正に天敵とも言えるでしょう!! 果たして、彼の体力は持つのでしょうか? 試合続行は可能なのか!?」
「早くギブアップしなさい。あなたに手立ては無いはずよ!!!」
「無いこともない」
見える。
魔力視で君の位置はわかる。
動ける。
身体は熱いがさっきまでに比べれば大したことない。
おっと、動き出した。
蒸気でおれが動き出したのを感知したか。
だが、遅い!!
「くっ――」
「これは! ジゼル選手が蒸気の中から飛び出して来ました!!」
一発目を避けたな。
蒸気を噴出させて移動もできるのか。
結構早い。
しかし、高温の蒸気を受けての移動は捨て身だろう。
それに、今はおれの方が早い。
「ケホ、ケホ!! 一体何が!?」
「君を追い詰めた」
「え――後ろ? いつの間に……?」
ジゼルの後ろからおれはその首に刃を突き付けた。
「そこまで!!! 勝者……だ、誰ですかあなたは?」
「あれ? えっとぉ〜、蒸気で見えにくいのですが。ジゼル選手に刃を突き付けているのは――黒騎士ではありません!!! 白い……騎士です!!!」
使ってしまった。
鎧換装。
しかも、この鎧を使うことになろうとは……
「蒸気が晴れて参りました! 奇妙なことに、黒騎士エドワードが消え、代わりに白い騎士がジゼル選手を追い込んでいます。黒騎士より一回り小さい……あれは鎧なのでしょうか? 表面が艶々して、真っ白。不気味な雰囲気を漂わせています」
「ジゼル、君はよくやった。黒騎士の鎧は君に歯が立たなかったよ」
「その声、あなたはエドワードなの?」
「ええ〜っと、上層部より、エドワード選手で間違いないとの情報が入りました。どうやら鎧を着替えたみたいですね。というわけで、準々決勝進出は、大逆転勝利でエドワード選手!!!」
ああ、くらくらする。早く水飲みたい。
この後も試合を観戦しないといけないんだ。久しぶりに霊薬キメて――
「おや、勝ったエドワード選手。ジゼル選手に抱えられて控室に戻っていきますね。皆さん、この両雄に今一度拍手を……」
情けない。
「ここで預かる」
お、この声は……
「え? あなたは?」
「フラウレスか? 頼む」
「ああ」
「ちょっと待って。彼をどうする気よ!!!」
彼女じゃないとこの鎧、『幽鬼』は分解できない。助かった――
フラウレスに抱えられておれは意識を失った。
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