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幕間 生存戦略



■金級冒険者 冒険者パーティー【灼熱の奏者】リーダー ジゼル・ライガー


 この都市で予選が行われるだろうと予想して、競争率が低いことも考慮してここで予選受付を待った。案の定、私はライバルが少ないここでエントリーができた。ある日突然闘技場が出現したのには驚いたけど、概ね私の予想通りだった。


 予想外だったのは【黒騎士エドワード】


 彼の実力は明らかに金級の私を越えていた。

 でも私はすぐにある可能性に気が付いた。


「都市伯様?」


 きっかけはサドンデス方式の時の戦い方だ。

 彼は構えなかった。


 構えない武芸者は珍しい。誰でも何かしらの武芸を習い、見て覚えた型から戦いに入る。例外は一部の到達者。彼らは無駄を無くし、徹底した合理化によって戦いから決まった型を排除する。中でも魔法を使う際のあらゆる動作、詠唱を無くしたロイド・バリリス侯が有名だった。


 推測が確信に変わったのは、武器を出した時。

 それまで格闘に頼っていた騎士が、高度な魔法を使った。

 近接格闘と魔法を高水準で兼ね備えている者もまた少ない。

 おまけに甲冑の技術レベルが現代の文明レベルを超えている。

 あれだけのものを個人で所有し、さらに短期間で改良する資金力。


 絶対にエドワードはロイド様だ。


 自然、パーティーでロイド様と対面したエドワードは偽物ということになる。

 それを指摘したところで、私の次の対戦相手があの唯一の神鉄級にして、迷宮攻略者であることに変わりはない。


 でも、私は負けるのであればせめてロイド様と戦ってがよかった。


 ヘルメットを取るように指摘すると彼は躊躇なく面貌をさらした。


 私の予想に反して、その中にいたのは召使いや、雇われ役者では無かった。


 その眼、その表情、その話し方は高貴な生まれを予感させた。ロイド様と遜色のない気配。

 中世的な美しい顔で屈託無く笑い、見た目の若さからは想像できない思慮深さを見せられて、私は心を奪われていた。


 それで浮かれていた私は、見知らぬ商人からの招待に応じ、パーティーに参加してしまった。エドワードも来ると分かっていたからだ。


 愚かだった。普段ならこんなミスは犯さないのに。


 パーティメンバーと共に、参加した私に待ち受けていたのは罠だった。


 気が付くとホテルの部屋で寝ていた。仲間はおらず、部屋には手紙が。

 仲間に毒を盛られ、人質に取られた。

 第三回戦。エドワードを殺さなければ仲間が死ぬ。

 

 そう書かれた手紙を読んで茫然としているところに、来客が現れた。


「あ、あなたは……」

「そう警戒しないで。大丈夫、何も始まることは無く、全て終わっています。ここはかの有名な陰謀潰しが治める場所ですから」


 半信半疑だったけど、私は彼女に言われるがまま、手紙を渡し、夜明けを待った。


 闘技台に現れた黒騎士エドワードが指さす方向には、ロイド様と共に何事も無かったかのように観戦に来ている私の仲間たちがいた。


「気を静め、集中するまで待とう」

「な、なぜ?」

「君が悔いのないように」


 この方がそれを望むのであれば、私は感謝とこの気持ちを込めて、全力を出そう。


 呼吸を整えていると、客席の方が慌ただしくなった。試合開始を待ちきれない客のせいだと思ったが違った。


 その渦中にはあの商人がいた。


■とある組織の下っ端


 うちのボスは変わっている。


 ローア南部で傭兵として生きるのに嫌気が差して世の中の暗部から抜け出そうとしたそうだ。要人警護で食べて行けるようになった矢先、依頼人に別の仕事を頼まれた。

 暗殺。自分の命を狙う相手を先に殺して欲しいと言われた。

 ボスはそれも仕事だと思って一回やったらしい。


 その一回が成功したから大失敗だ。


 その後そういう類の仕事しか来なくなってしまったから。

 

 裏社会で名が売れて、ボスの仕事は暗殺から街のゴロツキや山賊の飼い慣らしという裏方に変わった。分別の無い、救いようのない悪党たちをまとめて、今のボスになった。


 うちもそんなろくでなしの一人。

 ボスはうちらのことが好きではないし、かと言ってもちろん善人でもない。ルールを破ればすぐ殺すし、たまにキレて殺す。先輩がいつの間にか消えているなんてよくある。

 それなのになぜかうちらの面倒を見続けてる。なんでなのか気になって聞いてみたことがあった。


「おれと似た境遇の奴らはたくさんいた。だがおれだけが生き残った。奴らとの違いは、てめぇらクソ共とルールを作って共存することで妥協したことだ」


 意外なことに、ボスは自分の力で生き抜いたという自負とかは持っていなかった。世の中の許しで何とか生かされているという負い目を感じているみたいだった。


 その話を聞いてから、世の中にとって自分はどんな存在なのか考えるようになった。


 ボスはクズで人殺しの悪党だけど存在価値を認められている。ならうちは?

 ボスと違ってうちはただのチンピラだ。


 考えて行動できたことの方が少ないし、必死に生きる気力も無かった。


 そんなある日、客が来た。

 昔、ボスに依頼をした商人らしい。


 依頼内容はボスのルールに反していたけど、相手は帝国と通じている大商人。


 ボスは追い詰められ、否が応もなく仕事を請け負った。


「ボス、どうするの?」

「この依頼、おれは知らねぇ。お前が受けたんだ」

「は? うちがやるってこと?」


 殺しはしたことない。暗殺なんて無理。


「おれは仲介しただけだ。何も知らん」


 汗がブワっと噴き出した。

 

「念のため言っておくが、失敗したら殺すからな。逃げるなよ? 逃げたら殺す」


 うちは給仕として商人の家に雇われた。

 パーティーの時、毒を盛るためだ。


 待てよ、ここで成功したとしても、ボスのルール『殺していいのは自分よりクズなやつ』に反してる。

 どっちにしろ殺される。

 このままじゃ生き残れない。


 そこで一つの結論に思い至った。


 世の中にとってうちが価値あると思われれば生かされる。


 

 ボスと商人を売っちまおう。


 うちは軽やかな足取りで領主の屋敷に向かった。

 

■とある組織のボス


 おれを見て奴の方からおれの元にやって来た。


「貴様、なぜここにいる? いや、それよりもなぜ娘たちがロイドと共に!!? 薬はどうした? 見張って置けと言っただろう!!」


 全く、馬鹿なやつだ。


「まだわかりませんかねぇ?」

「どういうことだ! 契約しただろう!!」


 あんたが暗殺を依頼した男が、こうして人質を解放して現れた時点でわかりそうなものなんだが。


「おたくが帝国で地位を築いている間に世の中変わったのさ。おれが生かされてんのは荒くれ共が散らばらないよう手綱を握るためと、あんたみたいな時代遅れなクズをおびき出して駆除するための餌だからなんだよ」


 裏稼業なんてとっくの昔に廃業している。そう見せてないだけ。

 存続しているのは裏の客より、表の利用者がいるからだ。


「な、に……? 私を売ったのか!?」

「人聞きが悪いな。おれは自分の命が惜しい。だから部下に全部押し付けた。だがそいつも自分の命が惜しい。だからおれとあんたを領主に売っちまったんだ。あんたが追い詰めたせいだな」


 おれの話をちゃんと聞いていたらしい。

 追い詰められて自分の利用価値に気が付いたようだな。


 まさかおれが領主に助けを求めるわけにもいかないからな。おれも結構追い詰められていた。コイツの依頼を遂行したら領主に殺されていたし、直接領主に助けを求めに行けば、関係を絶つために殺されていた。コイツの依頼を受けなかったらコイツに殺されていた。

 おれは唯一の生き延びる道を選択しただけだ。


「そんなことをすれば、貴様もただでは済まんぞ」

「さぁな。おれはまだあきらめてねぇ」


 この街で表の仕事ができるとなったのは少なからず、おれに価値があるからだ。

 つまり、こういうことをして欲しいってことだろ?


 おれはまだあきらめてねぇ。

 この掃き溜めのまとめ役を降りて、仮初でもいい。真っ当に生きる道を。


「あんたはあきらめた方がいい。あんたの屋敷にいる私兵は全員捕まっているだろうからな」

「私には外交特権がある!! これはお前が招いたことだ!! 私は関係ない」


 往生際の悪い奴らだ。

 お前らのやり方はもう通用しないんだよ。


 陰謀潰しがこの国に戻ったときからな。


■ギルド職員?


 目的はエドワードへの敗戦の腹いせ。

 それと都市伯の名誉を貶めるため。


 地元の仕事を請け負いそうなものに金を渡して指示した短絡的な犯行。


「外交特権は王国に対してしか効力はありませんよ」

「なんだ貴様は!」

「ギルドから派遣されました。大会運営委員のものです」


 証拠は押さえてある。暗殺を依頼された彼女が全て打ち明けた後、再度潜入してもらい毒ではなく睡眠薬を盛らせて、計画が進んでいるように装った。

 別の者を雇われたりすれば厄介なので。


 おかげで、死人は出ずに、計画に加担した使用人たちも捕まえることができました。

 領主自らガサ入れし、一網打尽。証人は十分確保しました。


「この手紙、明らかな今大会への妨害行為です。これをもってギルドはあなたを訴えます」

「そんな手紙は知らん!!」

「おい、何をしている!! 親父を離せ!!」

「バカ止せ!!」


 公にギルド職員に拘束された父親を見て、焦ったドラ息子が手を出した。

 しかし、それは届かなかった。


 時が止まったように、固まって動かない。


「観念せい。お主らの悪事、すでに明らかになっておる」


 現れたのは領主だった。

 そのフリをした母親の方でしょうけど。仮にも銀級冒険者を簡単に止めるとは。


「これ以上の狼藉は許さぬ。神妙にお縄につけぃ!!」


 かっこいい。でも口調が違いますよ。


「しょ、証拠などない!! その手紙だって、我々は――」

「親父……」

「は? この字は……」

「だって、あの女が字は書けないって言うから!!」


 ようやく、観念したようですね。

 彼女がこちらの指示通り、上手く書かせてくれたおかげです。

 まさか、街の治安を守るために、あらかじめ無法者たちを内に抱えておくとは。

 陰謀潰しは伊達ではありませんね。

 

 

 まぁ、それが失敗していても結果は変わらなかったでしょう。

 商人はこの都市で雇い入れた者たちにずっと監視されていたようですしね。こちらは都市伯の指示ではないようだから、おそらくカルタゴルトのほうでしょう。

 

 結果として一番目立つ大捕り物になりました。いい見せしめになりましたね。

 この大会に不正を持ち込めばどうなるか、観戦に来た全員が見たのですから。

 

 

 では面倒な手続きは本物のギルド職員に任せて、私は彼の戦いぶりでも観戦致しましょう。

 

 


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