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2.第一回戦



「――さぁ、クルーゼ支部国際剣闘大会予選、第一回戦、第三試合!! 大変なことになって参りましたぁー!!」


 おれは迫る冒険者を殴り倒し失神させた。


 後ろから剣を振りかぶる別の冒険者にも拳をお見舞いする。


「秒殺!! 屈強な冒険者二人の意識をきれいに刈り取りましたぁー!!」


 村人が斧で襲いかかるが、彼らと同じ末路を辿った。


「またも、ワンパンです! 一体、この黒い甲冑の男は何者なんだぁー!?」


 従騎士の一人が間合いを詰めて来たが、逆に懐に入り、これも一発K・Oだ。


「ああぁっと、騎士養成所のエリートも謎の黒騎士の前に沈んだぁー!!」


 大男が背後からおれをがっちりつかんだ。それを振り解き、首を掴んで客席まで投げ飛ばした。


「なんと、海を制してきた大船団の船長も全く歯が立ちません!!」


 互いにつぶし合ったのもあって残った冒険者は一人。

 ハルバートを巧みに操る。


「おおっと、銅級ということでしたが、素晴らしい武器捌き!! 黒騎士エドワードに土をつけるのは彼なのか!?」


 振り下ろされた刃を殴って破壊して、本人も殴り飛ばして倒した。


「そこまで! 予選一回戦、第三グループ突破はエドワード・デューク!!」


 おれの名が高らかに宣言され、拍手が巻き起こった。


「ああ、なんとーぉ!! 過酷なサドンデスの中、無傷で一回戦を突破しました、無職のエドワード・デューク!!」


 こらこら、職業欄が空白の人をあえて無職と呼ぶんじゃない。いや、適当に傭兵とか書いとけば良かったんだから、おれが悪い。

 おや、インタビューか。


「さて、この時点でクルーゼ支部代表決定戦の上位十六名に残りましたが、ご感想は?」

「不完全燃焼だ。おれの中の猛り狂った野獣が暴れたがっている。早く次の試合がしたいぜ」

「そうですか。圧勝の無職、エドワード・デューク選手に次も期待です!」


 無職を強調するな!!

 いや待てよ……就職できるようにアピールしてくれてる?

 ありがとう!!

 でも、たぶんおれ君より働いてるから。



 まぁ、皆さんお気づきかと思うけど、私、ロイドございますー。

 

 完璧な変装のおかげだ。誰もおれがここの領主だとは気づいていない。

 最近趣味で造った特殊な鎧。全身完全に覆っているから中身が誰かは気づきようがない。


 今回、予選に出ることは一部の者しか知らない。

 今後もおれが出場していることは秘密だ。


 仕方なく正体を隠しての出場になったけど、正直楽しい。

 おれってやつは目立ちたくないくせに、称賛は欲しい面倒な質らしい。


 おっと、後を付けられているな。さっそくおれの正体を探りに来たものがいるようだ。


「何か用か? そこにいるのは分かっている」

「さすがだな」


 こいつはさっき倒した冒険者か。


「なに、試合は終わったんだ。おれに勝った奴を応援しようと思ってな。酒でもどうだ?」

「流暢なローア語だが帝国騎士なのはバレバレだぞ」


 帝国騎士たちの戦い方は見ていたから、コイツのハルバート捌きが帝国仕込みなのはすぐわかった。それにあれだけの実力があって冒険者ランクが銅なのはなったばかりだからだ。調べれば、コイツが一度もクエストを受けていないことはわかる。

 別に不正ではない。他国の実力を予選の内から把握するのと、帝国人の勝者を増やすことで本選出場者を増やす作戦だ。誰でも思いつく。


 この大会は地元の名誉も絡むから、出場者の多くは地元で参加する。マドルとリース、リトナリアさんも地元に戻った。

 あくまで個人の裁量だ。


「……な、なんのことだ?」

「おれの中の獣は鼻が利く」


 このキャラ設定、段々恥ずかしくなってきた。もっと無機質な感じでいこうかな。


「貴様に話すことなど何もない。敗者は黙って立ち去れ」


 帝国騎士は無言で立ち去った。


 あ、ごめんね。ここまで言うつもりなかったの。

 キャラブレるな。

 う〜ん、無口な感じにするか。しゃべり過ぎてバレてもつまらないしね。



 尾行がないことを確認し、おれは転移で屋敷に戻った。


「おかえり。どうだった?」

「うーん、パワーと耐久力は抜群。でも視覚と聴覚が遮られるのが気になる」

「そうか。なんとかしよう」


 新たに雇った鍛冶師のフラウレス。

 彼女の造ったこの魔道甲冑は、昔のものとは全くの別物だ。


 ノワールさんの魔力を込めた金属が、強靭で、なおかつ魔力に敏感に反応する性質を利用して造られた。前のように魔力を無駄に消費することもないし、何より、動きが格段にスムーズで思う通りに動くようになった。


「あと、中でガシャガシャシリンダーの音がうるさい。まだ関節の稼働範囲が狭いし、衝撃も吸収できるようにして欲しいな。あと、暑いよ」

「ロイド、とりあえずそれ脱いだらどうだ」

「そうでした」


 転移で鎧を置いて、おれだけ移動する。これですぐ脱着可能。おれしか着られない。

 突然フラウレスに殴られた。せっかく無傷で勝ったのに、なんで?



「ぉぉおっ、い、一応、おれ高貴な身分なんですけどぉぉぉ」



「すまない、なんとなく」

「なんとなくで人を殴らないで」


 フラウレスは女性だけど、腕っぷしが強い。腕が上から振り下ろされたから首ごと持って行かれるかと思ったぜ、全く。暴力反対。


「上司への不満は拳じゃなく、口で伝えなさい」

「仕事と衣食住与えられて、文句なし。でも時々ムカついたら手が出るかも」

「ええ~、わかった。首鍛えときまーす」

 

 おれは着替えて、鎧のメンテを任せ、こっそり観客席に戻った。


「おかえりなさい、あなた」

「ロイド様、おめでとうございます」


 嫁たちが出迎えてくれる。

 母様に霧雨。紅燈隊もいる。


「さすが妾の子よのぉ。よしよし、さぁ、ここに座るのじゃ。油断してはならんぞ。英気を養い次も無傷で……む、頬が少し腫れとるのう」

「誠一さんに傷をつけるなんて、やはり油断なりませんね」


 いや、これは違うから。


「かっこよかったわ。魔法を使わずに圧倒的なんて、さすが私たちの夫です」

「はい、ロイド様、がんばったご褒美ですよ」

 

 最近霧雨に日本料理を教わっている姫とヴィオラが弁当を食べさせてくれる。

 幸せ。


「こっちのおかずは私が作ったのよ」

「おいしい」

「それは私が」

「おいしい」

「もう、おいしいしか言えないの?」

「しあわせ」


 そんな感じでいちゃついて居たら試合が終わっていた。勝った人がこっちに手を振ってる。ごめんね、見て無かったし、二回戦で君はおれが倒すんだよね。


 今日の試合はここまで。

 他の支部ではもっと参加者が多く、予選に日数を要するから我が領ではペースはゆっくりだ。

 一日中だと労働者たちが観に来られないからね。


「これは、王女殿下、クルーゼ都市伯様。私、今後こちらに店を構えることになりました――」


 イベントだし、こういうあいさつも多い。

 さて、領主として仕事しますか。


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