1.大会出場
わかってる。
皆さんが知りたいことを今こそ明かそう。
新都市の名はクルーゼ。
いい響きだろう。港にピッタリだ。今や北部の高級保養地として有名になりつつある。温泉に美味しい食べ物、豊かで静かな自然。
苦労して港を開いて早半年。ようやく街も充実してきたのでやっと命名しました。
あ、都市の名前は今はいいの?
そうだよね。
はい、おれの身分が都市伯になりました。すごいよね。宮廷魔導士になれば安泰とか思ってたのがすごい昔のような気がする。ぶっちゃけ、ここまでえらいと優秀な官僚が小難しいことやってくれちゃうからすごい楽してる。
これでご満足?
違う?
楽しているとは言ったけどおれはキチンと仕事を全うしている。結果を出している。環境に配慮した都市設計。騎士団の誘致、インフラ、道路、上下水道の整備。
だから、特別な許可が出た。
今、クルーゼのおれの屋敷には姫とヴィオラも一緒に住んでいる。
神殿で婚儀はすでに済ませ、式だけまだというよくあるパターンだ。
もちろんこれに関してもひと悶着あって……
あ、うん、どうせというか、ハッピーエンドでしたね。
あとなんだ?
えーっと、そうだ。
最近のおれの趣味なんだけど――これも違うの?
うーん、母様と嫁たちの関係とか? リトナリアさんのその後とか? それともおれの護衛騎士選抜の話? あれはまだ全然進んでいなくて……これは関係ないか。
もしかして……魔で始まって王とか皇で終わる言葉?
これに関してはおれは無関係を主張しますよ!!
「何のことですか? ロイド侯は、大会には出られないのか伺いたいのですが」
「出ないんじゃないよ!! 出られないんだよ!!」
なんだそんなことか。
おれは国際剣闘大会に出られない。出られないというか出るなって言われたから。
今回の国際剣闘大会は各国との審議の上でルールが決まり、各地で予選が行われることになった。ギルドの演習場がある支部で代表者を決め、その後に王国の本選に進む。
参加は自由で、身分は関係ない。ただし、身分証明と参加費用が必要になる。
ルールは無用で、何でもあり。魔法も武器も何でも使える。
ただし、殺したら失格。
審判は公平を期するため、神殿の聖騎士が駆り出される。
難関だった帝国の参加があっさりと解決して、今やこの大会は大盛り上がりだ。
だがおれが出るとその地域予選の参加者の棄権が増えるので、「ロイドは出ない」というお触れを出されてしまった。
それに今回の大会の賞品が、おれに関係するからという理由もある。
せっかく嫁たちの前で格好いいところを見せられると思ったのに。
しょうがないから嫁たちと観戦して楽しませてもらうことにしたんだけど。
「私共と致しましては、ぜひロイド侯に出場いただき大会を盛り上げていただきたいのです」
ちなみに、おれにアレコレ質問に来ているのはギルドの人だ。予選参加締め切りなのに、おれの名前が大会にないから直接来たらしい。
「そもそも、今回の大会にはロイド侯も出資頂いているのに、出られないのは不公平ですよね」
これ言ったっけ?
大会の運営費を話し合う会議でジュールがとんでもない公募金を払って、おれもそれに続いたら、なんか出資額が公開されてえらい騒ぎになった。あの時ばかりはジュールを殺せと諸侯が騒いだ。
結局、諸侯も結構な額を出資して体面を買うことになった。
露骨な金権政治だけど、国民は喜んで受け入れてくれたから何事も起こらず済んだ。
「それにロイド侯が参加されないとガッカリする民も多いのではないでしょうか?」
営業大変だな。
でももう出ないって言っちゃったからな。
「実は今回、ロイド侯のような方は複数人居られまして、運営のために有力者が出場辞退するのは本末転倒では? という議論の末、ギルドで身分を確認できた方に限り、偽名での参加が許可されます」
「え? おれに他人のフリして出ろって?」
「あくまでそういう選択肢があるということを知っておいていただきたいのです」
そうか……でも、おれは街づくりで忙しいんだよね。
あ、そうだ。
「なら、この都市でも予選してもらえませんか?」
ここはまだギルドや神殿を立ち上げたばかりで、予選会場になってない。それに村と街で区画を分けたら、街の方がちょっとまだ寂しいんだよね。入港する船は増えてるけどまだ少ないし、スカスカで……人が来てくれないと維持が大変だ。
「そうおっしゃられると思い、許可は取ってあります」
すごい営業さんだ。
「ただし、規定通りの広さの演習場が無ければ許可は無効となります」
「大丈夫。今日中に造っておくから」
「そうですか。では、参加という方向で」
「開催という形で、よろしくお願いします」
よし決まりだ。
ここなら参加者も少ないから影響少ないだろうし、趣味で造ったアレで出よう。