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幕間 英雄ネロを探せ



■帝国騎士 ピコ村のリッチモンド


 なぜ栄光ある帝国騎士たる私が、人探しなどしなければならないのだ?

 今頃、私は名誉ある戦死を遂げ、我が名は称えられ、英雄として帝国で語り継がれるはずだったというのに。


 今、私は英雄ネロに成りすまされた弱小貴族扱いだ。


 英雄ネロを探せというなら、探してやる。


 そして、その身に償わせる。

 私から英雄になるチャンスを奪ったあの男に。


「旦那かい? ネロという魔術師を探してるのは?」


 怪しい男だ。だがかえって何か知っていような気もする。


「うむ、情報があれば買ってやる」

「情報じゃない。本人に会わせてやる」

「何だと!! 本当か?」

「ああ、ネロ様がお待ちだ」


 フフ、意外と早く見つかったな。

 金と名誉を求めていずれ名乗り出るとは思っていたが。


 なんだ、小汚い路地裏に案内されたぞ。ここに住んでいるのか?


「リッチモンド卿、もう隠れるのは限界です。帝国への忠誠を示すため、私は潔くこの身を晒しましょう」


 コイツが?

 意外と老けてるな。初老ではないか。もっと若い印象だったが……


「ほう……いい覚悟だ。時に、誰もそなたが本物のネロだと証明できるものはおらん。ならば、その実力でもって証明してもらうことになるが異論はないな」

「当然です」


 余裕こきやがって。

 前は油断したが、この距離ならば!


「うぉぉ!!」

「……」


 詠唱しない?

 まさか!!


 ネロは私の剣を受けきった。


「この私に剣で挑む気か!!」


 とはいえ、魔術師とは思えぬ剣技。

 これもネロと同じ……

 

「魔法を見たいというなら、これでいかがか? はぁ!!!」

「なに?……うぉ!!」


 無詠唱で『火球』だと?


「これは序の口です。はぁ!!」


 今度は『水流』!?


「くっ、貴様、本物の……」

「信じていただけましたか?」

「ああ、その力は認めよう。であればこそ、ここで私と決闘しろ!」

「は? いや、皇帝陛下にお招きいただくんじゃ――」


 ここで会ったが百年目!!

 我が名誉の糧となり、死ね!!


「ちっ、仕方ない。殺すなよ!」


 なに?

 誰に言った?

 

「うっ……!」


 しまった、背後から風が……奴の間合いに入っ……!!

 

「寝ていろ!!」


 くそ、無念……


■帝国魔導学院所属研究員・帝都本校教諭 モニカ・ストロベリー


 オルホラの街が壊滅して、分校も無くなってしまった。

 そうしたら、本校に招かれた。


 私が第一皇子を救ったと評価された。


 本当は何もしていないのに。


「先生、おはよう! 今日もかわいいね!!」

「こら、先生をからかわないで下さい」

「だって本当のことですもの」


 こちらの生徒はエリートばかりでちょっとませているのよね。

 この帝国魔道学院の本校を卒業した者は軍部のエリートコースを進んで将校になる。


 前の方が、無垢な魔法好きな子供たちの相手ができて良かった。


 それにしても今日はなんだか校内の雰囲気が違うような気がするけど。


「モニカ先生、元気ありませんね」

「いえ。ちょっと気になることが……」


 リッチモンド卿がネロを見つけて帝都に連れて来たらしい。


 でも私にはわかる。それは本物じゃない。

 帝国には何人もの「我こそが英雄ネロだ」という偽物が、報奨金目当てに名乗り出て処刑されている。

 今度もどうせ偽物。

 彼は帝国に名乗り出たりはしない。そんな気がする。


「ああ、先生も彼のファンですか?」

「ファン? 何の話ですか?」

「知らないんですか? 彼ですよ、数か月前に亡くなった天才魔導士」

「ああ、五属性を使いこなしたという天才少年ですね。それが?」

「彼が生きていたらしいですよ」

「ええ!」


 まさか……でも、彼はネロじゃない。あの声、体格は絶対に成人していた。


「ただ生きていただけでなく、神鉄(アダマンタイト)級冒険者の資格を有し、迷宮攻略者となって戻ったらしいです」

「そんな、うそですよね?」


 それで、校内が慌ただしいの?

 でも確か、彼は生前から聖人の位を持った神殿の重要人物という噂もあった。それなら、帝国にまで介入した説明がつく。身元を隠していた理由も。


「彼はどんな風体かわかりますか?」

「さぁ、そこまでは……情報屋にお金を払えば聞けるかもしれないですけど」

「ちょっと、今日の講義はお休みします」

「え、ちょっとモニカ先生?」 


 なぜか、確信がある。

 迷宮を攻略したのなら、何か古代の魔法を修得していたとしてもおかしくないし、見た目や声を変えられても不思議じゃない。


 急がなくちゃ。

 ロイド・バリリス侯がネロだと気づかれる前に警告をしないと。



■帝国東方軍将軍 カイゼル・ウルリア・ガウス

 

 教会は沈黙している。

 これで終わったとは思えん。だが、あの暗殺計画の失敗は相当なダメージだったはず。


 これまで謎だった戦力を明かし、その大部分を削ったのだ。


 獣人やローア南部の傭兵を抱え込んでいたことはわかった。そのつながりを絶てば再び動くことなく潰せるだろう。

 我々は軍を南に進め、獣人を攫う奴隷商人たちの摘発に乗り出した。

 意外なことに奴隷商人たちの抵抗は微々たるものだった。

 我々が教会と戦う前に、何者かが致命的なダメージを負わせたようだ。


 船乗りたち曰く、その船は魔の海域から現れ、海賊行為を働く船や、奴隷船をことごとく攻め滅ぼし奴隷たちを解放しながら西へ進んだという。

 

 戦力の供給源を失い、教会が功を焦ったのが今回の戦いだったのだろう。

 

 だが、こちらも危機に直面していることに変わりはない。

 このまま教会を潰すことなく、軍備の拡張が続けば、税の負担は増し、民が蜂起する。


 戦争が無ければこの巨大な領土は維持できん。

 暗黒大陸では新たな魔王が生まれたと噂があったが、不気味なほど静かだ。

 バルトは政変で不安定になるかと思いきや、何者かの力でまとまり始めた。

 帝国に現れた英雄ネロの存在が、戦争行為を抑制する楔となりつつある。


 軍備を縮小するにはネロを探し、その威光を利用しなければならない。

 

 ネロを抱き込んだものが皇帝陛下の覚えが良く、絶大な地位を約束されるであろう。


 これからはそういう戦いになるのか。


 そうなれば、儂は役立たずの老いぼれ。人気取りの政治は性に合わん。教祖を捕らえられなければ引退だろう。


 何か手立てはないものか……



■東方軍総司令、神聖ゼブル帝国第一皇位継承者、アルヴェルト・ガルニダス・ヴァルドフェルド皇子


 ギルドから報せが入った。

 面白いね。

 世界中の英傑を集めた国際剣闘大会か。


 予選は各都市のギルド演習場。

 本選はパラノーツ王国。


 フフ、隠しもしないか。

 これはパラノーツからの誘いだろう。帝国の内政不安は王国にも影響する。我々の不甲斐なさがあちらでは笑われているに違いない。


「こんな時期に笑わせる」

「――しかし、皇帝陛下……」

「今はかしこまらんで良い、息子よ」

「はい、父上。これは願っても無い好機です」


 公然と軍備を拡張できる。

 国の名誉をかけた戦いという大義。民のガス抜きまでできる。

 それにパラノーツ王国との交流はかねてからの課題だった。


「それに、帝国だけ参加しないわけには参りません」

「うむ。だが、それだけの規模の大会を誰が開く?」

「ギルドです。正確には出資してるのはカルタゴルトですが……」

「何? 余の許可も無くか?」


 許可ですか。

 陛下はお分かりではない。


 あの会社は帝国に忠誠を誓ってなどいない。ただ、利用しているだけだ。

 その不快感など感じないだけの莫大な利益をコチラにもたらしているだけのこと。


 今回も、この予選だけでも相当な経済効果だ。士気も上がる。


「参加は自由で、帝国騎士が参加しなければ、帝国からは冒険者だけが帝国の名誉を背負うことになります」

「それはならん。無論、精鋭を参加させよ」


 こうなることは計算済みだろうな。誰が運営しているのかは謎だけど驚くべき手腕だ。

 昔はただの郵便屋だったはずが、今や帝国を動かしている。いや、今回に至っては世界を動かすというのだ。今やその力は王国はおろか、魔族国家やバルト六邦、エルフや共和国にまで及んでいる。


 世界統一でもする気なのか?


 ああ、可笑しい。

 いやいや恐ろしいね。 


「アルヴェルトよ、お前が推挙したネロならば優勝できるであろうな」

「ネロですか……」


 はぁ、彼はただの囮なんですがね。

 偽物なのはバレバレだ。


 しかしこれ以上名乗り出るのを待っていたら死体が増えるだけだ。


 いや、待てよ。


 ネロの名で大会に出し、無様に負けるようなことがあれば、楔が解かれ、地下に潜む教会勢力をおびき出せる。そうなれば、本物のネロが再び――これは期待しすぎか。


「彼が本物かどうか、試すいい機会でございましょう」

「なるほど、そうだな」


 フフ、おもしろくなってきた。




次は新章、剣闘大会編です

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