幕間 お迎え
ミラ鉱山郊外の神殿で、畑を耕して二週間。
ノワールちゃん、お客さんのようですよ?
「……」
「あ、ジュール!」
わざわざ迎えに来てくれたの、ジュールくん。
「お前は何をしてるんだ?」
もっともなご指摘でございます。私は止めたよ?
農夫の恰好で土だらけで鍬を持ってるノワールちゃんなんて、想像もしてなっただろうね。でも意外と上手いんだよ。やっぱり食べ物のこととなると真剣さが違うようです。
「畑を耕したり収穫したり」
「そうか、帰るぞ」
「でも、まだ刀が直ってない」
「ロイドの身から出た錆だ。お前が責任を感じる必要はない」
「でも、自分でどうにかしろって」
「ああ、言ったな。もういい。ロイドも気にしていない」
あらあら、あらあらあら。
ジュールくんたら、素直じゃないんだから〜。
「……もしかして、私が居なくて寂しいのか?」
おっと〜、思わぬ展開です。
ジュールくん、図星でしょ!
「私は少し心細かった」
「……」
やいやい、女の子が自分の気持ちを話してるのに黙はねーでしょーよ!!
おや?
ジュールくんが鍬を奪い取って耕し始めましたね。これは照れ隠しですね。
「おれがお前の力を利用してるのだから、お前にはおれの力を利用する権利がある」
「そうか」
手伝うって、素直に言えばいいのにな〜。
おほほ、ノワールちゃんも嬉しそうに並んじゃって、まぁ〜!
これで分かり合えるのは、二人がいろんなものを共有しているからなのかもしれないね。
夢や理想。
失ったもの、過去の後悔。
対等でうそのない関係。
数千年越しに出会えた相手だから互いが呪いやルール以上の絆で結ばれてるのかもしれません。
おっと、少し黙りますね、あたし。
「……意外と不器用」
「うるさい、おれが土仕事などできるわけないだろ」
「フフ、貧弱」
「黙れ脳筋女」
「お前がノワールの男か?」
あら、いたんですか、鍛冶屋さん。
い、いつから見てましたの?
「強いて言えば、コイツがおれの女だ」
コイツ呼ばわりやめなさいよ、ねぇ?
あれ?
ニマニマしちゃってうれしそう。
「あれはただの刀ではない。魂を内包した特殊な魔道具だ。ただの鍛冶師には直せん」
直せないってわかってたのか!!
イジワルめ。
ああ、だからさっさとノワールちゃんはあきらめて帰ってくると思ったんだね。それなのに戻らないから心配で迎えに来たと……
かわいいとこあるんですね。
「……そうか。直ったけどね」
「なに!?」
ええ!!
直ってたの!?
納屋には抜き身の、黒い刀身の刀が鎮座していた。
折れてたなんて信じられないくらいキレイに直ってますね。
「どうやった?」
「この刀を両断したノワールの魔力をつなぎに利用した。彼女の黒い魔力には魂をつなぎ止め、崩壊を防ぐ効果がある」
へぇ〜。
ああ、だから私も消滅せずに済んでるんだね。
いや、それより、直ってたのならなんでずっとノワールちゃんに黙って畑仕事させてたの?
神殿の畑なんだから騙して耕させる意味ないよね?
「お前、おれを待ってたのか?」
「ノワールがただ利用されてるのかどうか知りたかった」
ひょっとして心配してくれたのかな?
「その心配はないようだから渡したいんだが、持ち主は来てないのか?」
どうしたの?
あとは持って帰れば……
「また、暴れるのか?」
「そういうことだ。直した私なら触れるが、ここから出そうとすると攻撃してくる」
あれ、なんか黒い鎧を着た大男が見えるんだけど、私だけじゃないよね?
前はこまいおじいさんだったのに、ノワールちゃんの力でパワーアップしたのか。
うわ、ノワールちゃんへの敵意がすごい。
物体なのに気門法で動いてるし。
こりゃロイドを呼ばないとダメだね。
「あいつには無理やり北部を開拓させた。結婚を山車に働かせたが、もう動かす材料が無い。街ができたから嫁たちも北部に移った。あいつを呼ぶとなると、次の仕事をさせるのが面倒だが……仕方ない。これをここに置いておくわけにもいかない」
そんな不安そうな顔しなくてもノワールちゃんのせいじゃないよ。
「次の仕事ってなにかな〜?」
「……!」
「ロイド」
噂してたら現れた!
「人には仕事を押し付けて置いて、自分はノワールさんを追いかけて東に旅立ったと聞いて、嫌味を言いに来たんだけど。おれの刀直してくれたんですね、ノワールさん」
「私が折ったからな。ごめん」
良かった。ロイドは怒ってないみたいだね。
おお、刀が飛んでロイドの手に収まった。
さっきまでの禍々しい雰囲気がウソみたいに消えた。
さすが魔皇。
「うわわ、ナニコレ! 飛んで来た!! どうなってるの!? 何したの!!?」
あれ、魔皇も驚いてる。
「……ひょっとして刀が勝手に暴れたのってマジなのか……?」
自分の刀のことなのに知らなかったのかよ。
でもこれで、ほんとうにおつかいは終了だね。大成功だ! 偉いぞ、ノワールちゃん!!
早く帰って、ゆっくりお風呂に入っておいしいものを食べよう。
あれ、鍛冶屋さんとロイドが何か話し込んでる。
何か企んでる雰囲気だね。
でも関係ない。
ジュールくん、君の女ははやく帰りたそうにしてますよ。
ねぇ、ちょっと……
「ロイド、私は帰る」
「え、はい」
ジュールくん、君もだよ。
「む、なんだ? おれはロイドの『転移』で…‥コラ、離せ!」
「あ、ノワールさん。おれの街に温泉あるのでよかったらどうぞ」
「ありがとう」
「おい、おれはベルグリッドだ。ベルグリッドで仕事が――」
やれやれ、仲いいんだから。
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