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11.親睦へ


 ロイドの報告から三日後。


 北部の不毛地帯――地元の村人たちがクレイ平野と呼ぶ土地と、その先にある海までを一望できる山の中腹。

 そこに人々が集まっている。

 遠巻きに見ている村人たちはまだいい。委縮しているだけで済む。

 だが、各村の村長たちは気の毒なことに、失神しないよう意識を保つか、現実逃避に興じるかで忙しい。


「なな、なんでこんなことになっとると……?」


 彼らが同席させられているのは各地の有力者、大領主、大臣、宰相――王国の根幹を担うお歴々。


 その諸侯もまた普段の悠然たる振る舞いからはかけ離れている。

 緊張でのどが渇き、視線は鋭く、沈黙を貫いている。


(何たることだ。まさか、こんな時代が来ようとは……)


 国王プラウドがいることも、もちろん理由の一つだ。

 それに加え、その国王が対峙している者たちに原因があった。


 国王の正面にいる男――紅い髪と褐色の肌、金色の瞳をした屈強な大男が王に握手を求めた。


「西の『大王』にお会いできて光栄である」

「『大王』とはな……余も名高き『赤獅子』に相まみえ光栄の至り」


 この男。名はレオン・リカルド・カルバイン。共和国の代表である。

 

 当然ながら、これまで王国と共和国が外交を交わしたことはない。

 ゆえにこれは歴史的瞬間であった。


 共和国は平和的な超先進国だが王国とは離れている。なぜはるばるパラノーツ王国までやって来たかと言えば、原因はロイドにある。

 ことの発端はロイドが港湾開発のために、知っている有能な魔導士に助力を募ったことだ。


(それがまさかこうなるとは……)


 当然ながらロイドは人海戦術で土木工事を進める気は全くなく、魔法で一気に開発を終わらせようという腹だった。

 だがリトナリアが言うように、大規模な魔法を使いこなす者は少ない。

 そこで旅の途中出会った高名な魔導士たちに、音声を転移して連絡を取り、協力を募った。ロイドはそのことを討議会で説明の上、承認を得たので転移で呼び出した。

 


 ロイドの誤算は魔導士と一緒に有力者たちも来てしまったことだ。



 これを再度報告したところ急遽国王や諸侯がやって来て、非公式ながら親睦会のような形になってしまった。

 今後開催(予定)の国際剣闘大会の参加を呼び掛けるためだ。


 こんな機会でもない限り、各国の有力者を交えて国際的催しを企画することなどできない。


(ああ、嫌な予感……)


 大森林を治めるエルフの王が国王の元に歩み出る。


「素晴らしい臣下をお持ちだな。彼の高潔な魂と崇高な信念は我々エルフにも引け劣らない」

「それに不屈の精神と、ユニークな思考もな」

「フフ、ユニーク……そうであるな」


(うわ、なんかコレ恥ずかしっ! あとユニークって何すか?)


 二人は愉快そうに笑みを浮かべながら握手を交わした。

 

 次に魔境にある不死王の城の主、ナルダレート・ハメス。


「我が王の……あ、いや、失礼。まだローア語は不慣れでな」

「十分堪能であろう。なぜローア語をそこまで学んでいるのかは……聞かないでおこう」

「ほう、さすがは我が王の……いや、失礼」


(おいおい、今のはわざとだろ。やめてくれよぉ)


 二人は含み笑いで握手を交わした。

 そこにもう一人割り込んだ。


『お前がロイド様の王か。普通の人間じゃないか』

『レティア! 馬鹿者、貴様の出る幕ではないわ!!』

『あん? 私だって由緒正しい紅火族の女王だぞ!!!』

『貴様のことなど誰も知らぬわ!! ただの火山に住む少数部族であろうが!!』

『なに~!』


 魔族共通語で会話し始めたのでプラウド国王には何の話か分からない。差し出されたレティアの手を律儀に握ろうとしたところをロイドが止めた。


『レティア、後でキチンと紹介するから。君が握手したら陛下が火傷される』


 紅火族の体温は異様に高い。

 今は発火していないが、不意に炎を纏い周囲を焼き尽くすので注意が必要だ。


『ちぇ、ロイド様が言うならしょうがないな』


 引き下がったレティアの顔が燃えて周囲が騒然とした。

 これは彼女特有の照れ隠しである。


「人界から隔たれし異境より参りました。葛葉と申します」


 次にあいさつしたのは葛葉。

 彼女を呼び出したのは開発の後の都市化で知恵を借りるためだったが、母として紹介する機会が必要だった。他の有力者を紹介しておいて後回しにはできないのでこのタイミングとなった。

 彼女は品よくあいさつをした。

 

「クズノハ……ではそなたがロイド侯を助けたという……」

「母、でございます」


 周囲はざわついた。


 母親と言うには若く、一切の血のつながりを感じない。

 それにどんな人種か、見当がつかない。


 一人を除いて。


「ん? んん?……んんん????」


 共和国代表レオンはその特徴に心当たりがあった。

 それもそのはず、彼は葛葉を側室にしていたレイダー・カルバインの子孫。

 当然誓約の民である葛葉たちのことも知っていた。


 彼女は周囲を見渡し、そろそろと一人に近づいた。


「おお、やっと会えた。そなたが誠一の嫁だな?」

「え?」

「思っていた通りの器量良しじゃのう」

「いえ、私は……」


 諸侯の後ろで隠れるように気配を殺していたリトナリア。

 それを見てエルフの王が眼を見開いた。


「ああ!!!」

「ああ、しまった!!」


 彼はリトナリアの肩を掴んだ。


「リトナリア、おお我が娘よ! 生きていたのか!!」

「「「ええ!!」」」


 ロイドはため息をついた。

 

 場は大混乱。

 

「しかも、お前、まさかロイド君の嫁になっておったとはな! でかしたぞ!!」

「ちがっ、痛い痛い!! ちょっと、離してください父上! 誤解です!!」

「何が誤解だ。お前が里を飛び出して早七十四年……」

「ああ!!」


 七十四年という言葉をかき消そうとするがもう遅い。


「婚姻を嫌って出て行った放蕩娘がこうして最良の縁を持って待っていたとは。何と親孝行な!!!」


 興奮するエルフの王。恥ずかしさに身を震わせるリトナリア。

 その様子を傍観する葛葉。


「器量は良いのだが、少し歳が離れすぎではないかのう?」

「母様、わざとですね。どうするんですか、これ」

「知ら―ん。妾は何もわからーん。だってずっと放置されてたもーん」


 プイとすねる葛葉。

 一緒に付いて来た霧雨が頭を下げた。


「ごめんね、誠一さん。母様、二月前に島に呼び出された後、お嫁さんたちを紹介してもらえず帰らされたのが悲しかったそうなのよ」

「あ、そうか……」


 失念していたが葛葉たちが暮らす平安京と現世では時の流れが異なる。

 こちらでは二週間とちょっとしか経っていないが平安京ではすで二か月も経っていた。


「ごめんなさい母様、機嫌を直してください」

「つーん。タダでは嫌じゃ」

「ええぇー、何をすれば許してくれますか?」

「……妾も住む」

「え?」

「妾もこちらに住む! もう姥捨て山は勘弁しておくれ。老い先短い母を放っておくのかえ?」


(人聞きが悪すぎる!)


 寿命とか年齢の概念が無いとか言ってたのに、と思いつつも泣き出した葛葉を皆に見られているのが居たたまれず、ロイドは折れた。


「わかりましたよ、母様。ここに一緒に住みましょう」

「おお、そうか。このぉ~全くぅ〜母離れができぬぞぉ~」


 ケロリと泣き止み、嬉しそうにしっぽを振る葛葉。


「じゃあ、誤解解いてもらえます?」

「誤解とはなんじゃ?」

「……」


(ごめん、リトナリアさん。おれ仕事があるから……)


 主要人物のあいさつが一通り済み、普通ならこのままパーティでそれぞれ親睦を深めるか、本題の剣闘大会について意見を交わすところだが、本来の目的は港湾開発である。


 父親に誤解されたままのリトナリアは泣きそうになりながら助けを求めた。

 しかし、救いを求めた相手は指揮を執るために魔導士たちを配置に付かせた。



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