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10.追及へ


 階上のラウンジには護衛のピアースと従騎士の少女が二人。それにセイランが居た。

 ロイドの顔が曇った。


(ヴィオラが居ない。セイランが居る)


「私で悪かったですね。でも、そういう顔は少しは隠してください」


 セイランはプンプンだ。


「姫、これは?」

「あのね。ちょっと彼女から面白い話を聞いていたのよ」


 システィーナはにっこり微笑んだ。

 つられてロイドも笑う。


「長い旅の途中に楽しかったこともあったと。共和国では娯楽が発展しているそうで。中でも温泉が人気とか」


 ロイドは話の流れを即座に察した。

 

「ああ、そうですね。懐かしいなー。でもなんで……またそんな……」

「討議会の内容は聞きましたわ。北にも温泉があったそうですね……」


 姫はじっとロイドの方を見つめ、愛らしく笑っている。

 ロイドはヒヤリとした。


(姫、責めるお顔もお可愛い……いや、マズイ。これはやはりあのことか?)


「リトナリアとはどうだった?」


 バレていた。

 もちろん報告に、『リトナリアと一緒に温泉巡りをした。楽しかったです』みたいな間の抜けた内容は入っていない。


(まさか、ガイドか? おれがリトナリアさんと温泉に入ったことを知っているのは彼ぐらいのはず……)


「それはその……」


 セイランが居るのでウソは通用しない。


「ごめんなさい! 一緒に温泉に入ってました!!」

「プっ、引っ掛かった」


 セイランがからかうように笑う。

 それでロイドは理解した。


(クソぉ!! 引っ掛けだったのか!! おのれセイランめ、要らん入れ知恵を……あとカイトさん疑ってごめんね)


「……ロイドさん」

「さん……?」

「噂が流れていますよ? 『ロイド侯は無類の女好き』だと」


 ゴールの無い質疑応答。

 焦りを見せるロイドを見て、システィーナは内心楽しんでいた。


(私を置き去りにして美女と混浴した罰よ)


 彼女はロイドを信じているし、自分だけのものとは思っていない。だが、離れ離れの時間が長く、どうすればもっと一緒にいられるか考えた。その結果、危機感を持たせる作戦に出た。


(フフ、焦っているわね。もっと私を大事にしないと離れてしまうかもしれないわよ?)


「まぁまぁ、天然温泉が混浴なのはよくあることですからねぇ」


 ピアースがシスティーナの愉悦に水を差した。


(そんなことは知っているわよ)


「むしろ私とは浴場で入ってましたよ。ねぇー?」


 ピアースがいやらしく煽って来た。

 ロイドの眼は死んだ。

 さらにオーバーキル――


「私だけじゃなく紅燈隊の女子とは一度は一緒に入ってますよ、彼は」

「そ、それは浴場に男湯が無かったからでございます!!」

「そうです! 決してやましいことはありませんでした! ロイド侯も幼かったですしね!!」


 従騎士たちが必死に弁護した。


「え?……ちょっと、待って。あなたたちも入ったことあるの?」

「……はい」

「セイラン、あなたもよね?」

「温泉を島で見つけて入りましたよ」

「ヴィオラは?」

「彼女も紅燈隊の屋敷に住み込んでましたから、時間が被ることはありましたし、普通にロイド侯の背中を流していました。ちなみに私もあります。やってもらったこともね」


 得意げに語るピアース。

 冗談で始めた話題だったが、システィーナは重要なことに気が付いた。


(私以外と大体入ってる……!!!)


 彼女は必至に頭を巡らした。

 これがロイドの年代において、一般的にあり得ることなのか。


「そもそも、どうして平然と入れるのかしら? 普通なら……」


 システィーナは皿を運んでいた給仕の青年に声を掛けた。年のころは16,7歳ぐらいだ。


「あなた、彼女たちと一緒のお風呂に入れる?」

「え?」


 青年はピアースと従騎士の少女たち、セイランを見渡して、しどろもどろになった。

 動揺なのか、興奮なのか、ブレブレに身体を震わせた青年は持っていた皿を全部落とした。

 すかさずロイドがキャッチ。


「ああ、申し訳ございません!!」

「違うんだ。謝るのはおれの方だ。本当にごめん!!!」

「やっぱりこれが普通よね。あなたもう行っていいわよ」


 訳もわからず青年は皿を受け取り下がった。

 階下で盛大に皿の割れる音が聞こえた。


「本当にごめーん!!!」


 奇しくもその音はシスティーナの思考にひらめきを与えた。

 

「もしかして……ロイドちゃんあなた……女性に興味が……」

「いえ姫、私は女性が好きです」

「侯は幼いころから美女に囲まれて女性の身体に興奮できなくなってしまったのですよ」

「おい」


 セイランが勝手に話をまとめ出した。

――紅燈隊が面白がってロイド侯を弄んだのが原因で欲情できない体になってしまった。そしてその紅燈隊に配属させたのはシスティーナだから彼女にも責任がある――というのだ。


 システィーナは愕然とした。しかしロイドは納得しない。


「なぜおれが女性の身体に興奮しないと言い切れるんだよ」

「だってあなた、私と同じ湯船に入っていても、“いい湯だな〜はは〜ん”って全然動じてなかったじゃないですか!!」

「だってセイランちゃんはまだ子供だし」

「あなたとは一歳違いです!!」


 やれやれとロイドは腑に落ちた。セイランがわざわざシスティーナをけしかけるような真似をしたのは、子ども扱いされて来たことへのちょっとした意趣返しだったのだ。


「それにマドルはどうなんですか? 彼女を見ても興奮してなかったですね!?」

「だってあの娘は重くて」


 彼女は元々誰かに仕えるような人物ではなく、誰かを従えるような高名な戦士だった。


 そのせいか、受け止め方が一々重い。

 温泉に主と入ることを曲解したマドルは最大限のサービスをしようとしてリースに止められた。その時の鬼気迫る様にロイドは貞操の危機を感じた。

 


 ロイドの話を聞いていたシスティーナは段々不安になって来た。

 果たして本当は自分がロイドの眼にはどう映っているのか。


(スタイルお化けのピアースやマドルさんには敵いっこない。ロイドちゃんはバカにしているけどセイランだって私からすれば年相応の可愛らしい女子……)


 不安を一蹴すべく覚悟を決める。

 彼女がそっと手に嵌めた指輪をかざす。周囲は意図を察し二人きりにした。

 それに付いて行こうとするロイド。

 

「ロイドさんはこちらへ」

「はいぃ……」

「もっとよ。もっと……もっと」


 ソファで密着するように座る。

 システィーナはロイドの眼を見て顔を近づけた。


「姫……」




 ズキュウゥゥゥン!!




 そっと顔を離すと見たことの無いぐらい蕩けた顔のロイドがあった。

 

「……初めて……よね?」

「はい」

「フフ、私もよ。うれしいわ」

「怒ってないのですか?」

「ちゃんと私を愛してくれるのなら幸せ」

「もちろん、愛しています」

「ええ、見ればわかるわ。ちゃんと私の愛は伝わってる?」

「はい」


 階下で音楽が演奏され始めた。

 するとロイドはシスティーナを引き寄せ、踊った。

 

 踊り疲れたら二人寄り添い座って、この先こうしたいとか、こんな暮らしがいいとかを話した。


 音楽が終わると夜会も終わり。

 ロイドはまた明日には北へ戻らねばならない。


「リトナリアが羨ましいわ。私よりずっと長くあなたと二人きりでいられるなんて」


 段々ロイドを独り占めしたいという欲が満ちて来た。

 ヴィオラやリトナリア、マドルや他の女よりも自分を一番に愛して欲しい。

 

「ロイドちゃん、私を……」


 そこまで言いかけて、気持ちを飲み込んだ。

 抜け駆けをしている後ろめたさ。自分本位な嫉妬心に身を任せるよりも、ロイドの幸せを願った。


(私だけ幸せになってもしょうがないものね)


「何ですか?」

「いいえ。ただ、いくら混浴でも結婚前の男女が二人きりで入るのはダメですからね!」

「わかってます。いくら何でも二人きりなんてことは……あ」

「あら~ロイドさ〜ん?」


 システィーナはロイドを追求し、葛葉と二人きりで入ったことを懺悔した。そもそも葛葉の説明から難しいので、後日実際に会ってもらうこととなった。




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