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9.夜会へ



 長い議会が終わり、夜も更け慰労のための夜会が開かれた。ロイドもシスティーナ、ヴィオラの元に駆け付けようと夜会の広間にやって来た。そこにはすでに諸侯の跡継ぎ、令嬢たちが交流していた。システィーナはその中心に居た。


(居た……ん? 姫だけか?)


 マドル、リースに続いてヴィオラも居ない。


 広間に入ると歓声が上がった。

 王都に戻って以来、社交の場になかなかでなかったため、青年たちは武勇を聞こうと、少女たちはお近づきになろうと群がった。

 だが急ぐロイドは人の波を躱し、システィーナの元へ。


「おや、我々にあいさつも無しか」


 一人の青年がロイドの前に立ち塞がった。

 長身で若いが顔つきは他の同年代と比べ大人びている。その顔にロイドは心当たりがなかった。


「北に左遷されたらしいな。ククク、いい様だ。少しばかり頭が回るからって調子に乗っているからだ」

「えっと……失礼ですがあなたは?」


 さも知り合いのように話しかけたが、ロイドは彼の名を知らなかった。『記憶の神殿』を持つロイドが覚えていないということは初対面と言うことだ。

 

 周囲からは嘲笑が漏れた。


「笑うな!!」


 広場に轟いた怒号。

 猛々しいその声に令嬢たちは怯え、令息たちはそれを咎めることも無い。


「ロイド侯ともなれば我々のことなど眼中にないということか」


(何で? 初対面だって気が付いてないの?)

 

 ふとロイドは、不安気な、悲しげな目で見る少年、少女の視線に気が付いた。

 

「……ご無沙汰しています。ピノセント家エンデ様」

「こ、光栄なんだな。覚えてて頂けて」

「トリアナイト家のミラン嬢も」

「まぁ! 覚えて下さっていらしたのね。うれしいですわ」

「ユトレヒト様、ニース様、ご健勝でなにより」

「お帰りロイド卿」

「見た目以外はちっとも変わらないわね」

 

 ロイドはその場にいたあいさつを交わしたことのある者たちの名を次々に呼び上げた。


「……さて、あなたは……姫の13歳の誕生日会に来ていましたね。いや覚えているんですがあの時は……ああ、エシュロン侯の後ろにいた」


 記憶の神殿を探り、青年に似た子供がエシュロンの後ろで姫に緊張しながら挨拶しているのを目の端で見た時の映像が蘇った。


「そうだ! おれはピストックノーツ家に連なる正当な後継者! ディランドロンだ!」


(すごい名前だな。歌も演技もできなさそうだが)


「そうですか。初めまして。では失礼」

「待て!」


 もう姫の元へは目と鼻の先だ。ロイドはディランドロンのしつこさにため息を吐きそうになるのを堪えて振り向いた。


「ボブ。要件があるなら早くしてくれ」

「誰がボブだ! バカにするな!!」


(しまった。つい……)


「いつまでもそんな態度でいられると思うなよ」


 これまで自分たちが実力を示す機会は奪われて来た。南でローア南部の小国家から王国を護って来たのに、北でロイドが活躍すれば自分たちの存在がかすむ。

 闘いと訓練の日々に対し、王都では優雅な夜会が催され、気が付けば戻ってきたロイドがシスティーナと恋仲になっていた。

 彼にはそれが許せなかった。

 王女の力でのし上がろうとするロイドを叩きのめす機会をうかがってきた。

 

 そしてそのチャンスはようやく訪れた。


「だが、これから大会が開かれるというじゃないか。おれがそこでお前よりも強いことを証明してやる!!」

(ほう、耳が早いな)

 

 宣戦布告。

 それよりも大会の話を聞いて周囲はざわめいた。


 ここ数か月社交の場も限られ、退屈な日々を送っていた貴族の子息、令嬢には魅力的なイベントだ。しかもロイドが出るとなれば沸き立つのも必然。彼が王都に戻ってからその実力を目の当たりにした者はいない。


「実戦となれば、北の貴族に南の本物の戦士が負けるはずがない!」

「そこまでにしろ、ディル!!」


 ディランドロンはその一喝に身体をビクつかせた。振り返ると額に青筋を浮かべたエシュロンが居た。


「お爺様……しかし!」

「聞こえんかったのか? 身の程を弁えろ!!」


 周囲にいた者たちはもれなく歯を食いしばり、身体のバランス感覚を一瞬失った。

 不服そうなディランドロンに代わりエシュロンが頭を下げた。


「孫の無礼を許せ。何せ社交などほとんど出さなかった故、無作法者でな。南では知らぬ者が居らぬ己の名を、ここでは誰も知らんことが気に喰わぬらしい。全く誰に似たのか」

「あなたですよ」

「ん? ウハハハ!! そうだな! この豪胆さと才気は紛れもなく儂の血筋よ!!」


(皮肉が通じん!)

 

 ディランドロンの人の話を聞かない一方的なところは正にエシュロンの血筋による。


 エシュロンはロイドがボスコーン家をお取り潰しに導いたことで、南部貴族をまとめることに成功した。そのためロイドには恩義を感じていた。だがロイドからすれば何の貸しもないし、彼の体育会系のノリは苦手。

 それでも無下にできないので相手をするのだが、その理由は当の本人もわからない。


(無視したいが、なぜかこの人の話を聞いちゃうんだよな……)


「しかしな。君も悪いのだぞ」

「何のことですか?」

「王は王たる資質を下々に示す責任がある」

「私は王ではありません」


 プラウド国王を差し置いて何を言っているんだと思った。しかし、エシュロンの言う王とは【由緒ある血筋の統制者】的な意味ではなく、もっと単純に【力と責任を持つ者】を指した。


「いや、討議会で君の発案した策。あれは王たる者の力だ」

「……」

「プラウドは気の毒だな。いや、いい気味だ」

「え?」

「国盗りがしたいときは言ってくれ。儂は君に味方するぞ」

「はは、無いですよ。そんな大望など」


(怖いこと言うなよ爺さん。おれを巻き込むな。というかその時はおれが潰すからな)


「冗談でもそのようなこと、言うものではありませんよ」


 エシュロンとロイドが振り返るとシスティーナが降りてきていた。


「それに知っているでしょう? 私、待っているだけは嫌いですのよ」

「姫……」

「ロイドちゃん……」


 見つめ合う二人。



 一週間会わなかっただけ。だが、二人を行き交う熱い視線はまるで時の流れに逆らうかのように、周囲を置き去りにした。

 互いに一目惚れしたかのよう緊張に似た衝動に突き動かされ、困惑に苛まれながら歩み寄る。一歩踏み出すごとにそれが相手も求めているのだと喜びを噛み締める。

 相手の手を取りたいと望めばもう相手が自分の手をつかんでいる。

 見つめ合う二人。


 そして、互いの意思は一つに溶け合い、甘美

な誘惑が若い衝動を――


「ええい、上に行ってやれ」


 エシュロンの声に二人はハッと我に返った。


「おほほ、これは失礼しました」


 ロイドはシスティーナに連れ去られる形で広間の上のラウンジへ。その様子をディランドロンが歯噛みしながら見ていた。


「……姫をたぶらかしやがって」


 嫉妬に駆られた孫をエシュロンはド突いて、共に夜会を退散した。



読んでいただきありがとうございます!


北部開拓編は残り四話の予定です。

更新頑張りますので、どうぞお付き合いください。


続きが気になる続きが読みたいと思われた方は、ぜひ評価・ブクマをお願いします!

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