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8.報告へ



 ナカ村での集会の翌日、ロイドは転移で王宮に戻り、計画を報せることにした。ロイドの立てた計画には様々な承認が必要だったし、何よりこれを口実にシスティーナとヴィオラに会える。

 予め転移で戻るロイドを待っていた召使たちが部屋に待機しており、そのまま閣議場へ案内された。


「リースとマドルは?」

「お二方は所用で出て居るとのことです」

「そうですか……」


 意外にも二人はロイドを待っていなかった。不思議に思いながらもロイドはガイドと共に閣議場の前までやって来た。


「村の要望を陛下は聞き入れて下さるでしょうか?」

「ああ、大丈夫。大したことではないから」

「さすがロイド様。私は陛下に謁見するのも初めてなもので……あ、ちょっと、局の上司に代わりを頼んできます」

「待て待て」


 怖気づくガイドを引き留めるロイド。

 事務的な仕事をこなしていたガイドが突然王国のトップに謁見する。しかも畏れ多くも要望を伝えなくてはならない。誠一だったころの自分を重ね合わせるとロイドには彼の恐ろしさが痛いほどよくわかった。

 気を落ち着かせようとした。 


「陛下は恐ろしい方ではないし、事務的な報告をするだけだ。頑張ろう。というか、おれの方が怖いんだからな」

「やっぱり怖いんですか」


 村の要望とは別に、あるお願いをしなければならない。それは平地を湾に変えるために絶対必要なものだ。

 想像するとロイドも段々怖くなってきた。


「……あ、ちょっと先に姫のところに行ってくる」

「いやいや! 戻って来ないでしょそれ! 一人にしないでくださいよ!!」


 突然立ち去ろうとしたロイドを必死にガイドが引き留めた。


「陛下をお待たせなんてしたら私は一生事務員です!!」

「安泰じゃないか! うらやましいよ!!」

「嫌です! この仕事を成功させて……私は妻に楽させてやるんだ!!」

「……ッ! おれだって!!」


 ロイドの目的は悠々自適な結婚生活。辛い目に合わせてしまった二人に、王宮から離れて、ストレスフリーな生活をさせてあげたい。


「おれはこの事業を成功させて北の港湾都市伯となる。全ては夢のマイホームとバラ色の結婚生活のために!!」

「後半庶民的だけど、できます! 叶います!! いえ、我々で叶えましょう!!」

「ああ!!」

 

 全ては愛する者のために。同じ目的を持った二人の間には身分と年齢を越えた友情が芽生えていた。

 二人は奮起して、興奮気味に閣議場に入った。


 だが、ガイドは入った瞬間固まってしまった。

 ロイドも目を疑った。


(城門から入れば気づいたのに……クソ)


「北部より、ロイド侯が戻られました!!」


 そこにいたのは王と大臣だけではなかった。



 南の国境防衛の中核を担うピストックノーツ辺境伯エシュロン。

 西の大農地、鉱山を所有するブルボン都市伯ジョルジオ。

 東の港湾都市、運河を所有するリヴァンプール伯アプル。


 さらに、王家の血筋に連なる各公爵家の当主たち。


 重要な招致には必ず名前が上がるような各地の貴族、名士、大商人。


 一領地の開発計画の進捗報告に集まるにしては大げさな顔ぶれだ。


(あ、あれは……)


 その列席者の中にはヒースクリフの姿もあった。その後ろにはなぜかジュールが立っている。

 その場の雰囲気は今集まったのではなく、しばらく議論があったことを示していた。


(一体何の話を?)


 そのまま促され、ロイドはガイドと共に報告を始めた。


「それでは北部港湾開発の展望と、それに至る具体的手段に付いてまずご説明致します――」


 内容は通常のセオリーからはかけ離れており、一つ一つ説明する度に質疑の間を設けた。だが意外なことに諸侯からの質問に遮られることは無く説明は淡々と進んだ。

 と言うより、列席者は説明の冒頭で大まかな今後の予定を聞くと、詳しい方法論については聞き流していたようだった。


(興味が無いのか? いや……それにしては深刻な空気だ)


 事態に頭が一杯なようで、ショックを受けている者が多い。


(なんだ? 受け止め方がやけに重い気がする)


 どよめきもかすかに、深刻そうな沈黙が長く続いた。

 そんな中、ガイドから村の要望――開発における要求、条項の説明がなされた。


「え〜、ここここの件におきましては、誠に恐縮ではああああり、まするが、え〜……」


 呂律が回らなくなり、脚の震えが全身に到達したガイド。

 しかしロイド以外に気にしている者は少ない。



 懸念していた村人たちの要望や計画に必要な措置に対する許可もあっさりすぐに下りた。


「――うむ、よく先まで練られて居る」


 短い間ではあったが精神力を使い果たしたガイドはフラフラになっていた。


「報告は以上とさせていただきます。では、そのように進めて参ります」

「待たれよ、ロイド侯は残っていただく」


 退席をしようとしたとき、ロイドだけ引き留められた。


「では議題に戻ることにする。ロイド侯に置かれましても、無関係ではないので席へご着席ください」


(なんでおれだけ!? おれは早く姫とヴィオラの元に行きたいのに……なんだよ?)


「あっ……」


 ガイドはさっと閣議場を出て行った。


「どうしましたロイド侯?」

「いえ……」


(裏切り者……)


 またジュールの仕業かと疑うも、議会の進行をし始めたのはヒースクリフだった。



「我が息子、ロイドの港湾開発については実行段階であることをご承知いただけたことと思います。これで最初の議題について再度検討していただけますね?」

「最初の議題?」


(何の話ですか父上? 説明してよ)


「北部に大規模な港を造ることで、食料供給はもちろん、帝国との貿易を本格的に再開できます。ですがこれまでの溝を埋めるためにはきっかけが必要となります」


 それはロイドの仕事の先の話だった。

 北部の港湾開発はある大きなプロジェクトのプロローグに過ぎない。


「今後の帝国との新たな関係を築くと共に、王国の経済活性、国民の士気高揚を目的とした『国際剣闘大会』の開催を提議致します」


少しタイトルを変更しました。

改めてカンスト魔皇をよろしくお願いします!


おもしろいと思って下さった方、続きが気になった方、ブクマ・評価で応援いただけたら嬉しいです!!

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