10.解放(新)
え?
ボスコーン家がお取り潰し?
そうか、悪いことしたらダメだって皆もわかったよね?
当然メッセージは王国中に伝わっただろう。
私を排除したければ、それなりの覚悟をお持ちください。
私にはすごい冒険者の仲間がいますけど、敵対しますか?
私と仲良くした方が得ですよー――っていう。
結構な賭けだったけどおれはそれに勝った。
ちょっとやり過ぎた気もするけど。
今回のことは結局父上には黙ってやってしまった。おかげで父上には迷惑を掛けてしまったけど、怒られなかったんだよね。騎士たちはおれの勇気を称えてくれたし、もしかしたら誰かから聞いて全部知っていたのかも。
もちろんこれで安心はできない。ボスコーン家が潰れても、親戚や関係者でおれに恨みを持つ者はいるだろう。まぁ、彼らも今回の騒動の余波で悪事は露呈していくはずだ。デイル君をはじめとして保護、減刑を条件に身内を売る人がもう出てきているらしいからな。
後は残る火の粉が消えてくれるのを優雅に待つのみ。
「おろろろ~」
「大丈夫ですか、ロイド様!?」
「ハァ、ハァ……大丈夫。後は残る火の粉が消えるのを優雅に待つのみ」
「これは大丈夫ではありませんね……さぁ、お薬ですよ」
今、大活躍中で絶賛注目されていること間違いなしのおれだが、街にも社交界にもどこにも行かずベッドでヴィオラに介抱されている。
ちょっと働き過ぎたようだ。
騒動が治まって、熱が出た。たぶん精神的なものだ。
命のやり取りをしたんだから当然だ。
「ロイド様は何も悪いことはしていませんから。だから何も心配することありませんよ」
「わかってるよ」
ちょっと食欲がないし、眠れないけど、疲れが出ているだけだ。社畜時代はそれでも会社に行ったものだけど、今回は子供だから体力もないし、仕方ない。
でも、熱に浮かされつつもハッキリとわかったことがある。
おれは変われた。
黙って殺されるまでただ生きるだけだった前回から大分成長した。
魔法という能力と、有名冒険者とのコネ、領主の息子という社会的地位。
悪くない。
これからは明るい未来が約束されている。
「……へへ、うへへ――」
「ロイド様、考え事はやめて寝ましょう? そうだ、ご本を読みましょうか? ふふ、私ももうこれくらいは読め――」
「ヴィオラ、その机の……」
「え? これを読むんですか? これは……?」
「魔法についての、論文」
「論文!? ロイド様……内容は知りませんが寝込んでるときに読むものではないのでは?」
「じゃあそこの本を……」
「はい、これ……重いっ! えっとこれは『中央大陸言語の変遷と現代の発音』!? 休む気ありますか? あと中央大陸語なんて読めないですよー!」
おれのリクエストは全部却下。
「これにしましょう。『英雄システィナ伝説』! 貴族のお坊ちゃまは普通はこういうものを読むそうですよ」
「うん、読んだよ」
絵本ではなく、原典をだけどね。
「――システィナが剣を空に振ると、雲が切れて陽の光がサンサンと――」
「ヴィオラ……そのエピソードは筋が通らないよ。雲を切るエネルギーがあるならさっき苦戦してたはずがないし、そこまで斬撃を飛ばせる力があるなら、どうして初めの戦いでその技を使わなかったの?」
「ええ……! そんな難しいこと考えて聞いていたんですか?」
「子供が読むものだからって適当なことされると困るんだよ」
「絵本に文句を言われましても。気を休めて下さい。熱が上がりますよ。子守歌でも歌いますか?」
子ども扱いするなと言いたいけど、ヴィオラの歌も聞いてみたい。
歌ってみてもらった。技術があるわけではないのに、聞いていると気が休まる。
「――あら? ロイド様。眠られましたかー?」
「全然。聞き入って眠れない」
「どうして!?」
ギンギンだよ。
よく考えたらドキドキしてきてしまった。かわいい女の子がかわいい声で子守歌を横で歌ってたら眠れないよ。
別に彼女の困まった顔が好きだからではない。決して。
でもこういうのもいいものだ。
惰眠を貪り、ヴィオラと二人。この平穏がずっと続いて欲しい。でも、これからおれは王立魔道学院に入学して青春する。そうしたら彼女とはしばらくお別れだ。
王都の別邸に住めればいいんだけど、あちらにはまだ下種兄弟がいる。
おれは学院の寮で暮らすことになる。
まぁ、でも文字はほとんど覚えたし、魔法もちょっとできるようになった。料理も上手だから大丈夫だろう。
いや、大丈夫じゃない気がしてきた。
おれが寂しい!
王都に行って、おれは一人で上手くやれるだろうか?
生意気な同級生を叩き潰してしまわないか心配だ。
いやいや……そんなことしないよ。
かわいい女子に取り合いされたらどうすればいいの?
これはあり得る。
学院にはお嬢様とか多いらしいし、同級生が同年代であるとは限らない。
何かいろんなことが学院で決まってしまう予感がしてきたぞ。
「……へへ、うへへ」
「私はずっとロイド様の側にいますからね」
思考回路がバチバチにショートしていたおれは重篤だと思われたようで、熱が下がってもしばらく部屋から出してもらえなかった。