幕間 流刑
それはロイドたちが各村の村長と計画を練った次の日。
その男には別の計画があった。
「フヒヒ、おれを怒らせたらどうなるか思い知れ!」
男は宴が終わるのを待ち、皆が寝静まった頃合いを見計らって旅館に侵入した。
「匂いがする……ハァハァ、この部屋か……」
男の手には縄と眠り薬。
(冒険者といえど、女だ。おれは女の扱いは上手いんだ……! うひひ、たっぷりかわいがってやる!!)
ゆっくりと音を立てないよう戸を開け、中を確認する。
「……? いない!」
ベッドはもぬけの殻だった。
慌てて、部屋の中を見渡す前に、男の背後にいたリトナリアが昏倒させた。
「バカか。なぜ私を狙う?」
「あなたを捕まえたら、おれが言いなりになると思ったんでしょう」
ロイドは男の持っていたロープと眠り薬を使い、捕らえた。
◇
眼が覚めると目の前にはロイドがいた。
「な、なにしやがった! 小僧、おれをなめてんのか!! 放せ、おれを誰だと思ってる!! おれは城の主だぞ!! 大地主だぞ!!」
「選択肢は二つ。村人たちのために一生働いてこれまでの罪を償うか、それともここに残るか」
男はロイドの全てが気に入らなかった。
きれいな服と、立派な身分、大きな仕事、尊敬される人格と能力、見惚れる女。
それでも男はロイドを見下した。
「ああ? おれに命令できると思ってるのか、小僧! おれが何歳だと思ってる!!! 今年で五十歳だぞ!!!」
眼を見開き、とにかく大声で捲し立てた。
だが、男の予想に反して、ロイドはたじろぐどころか男を蹴り飛ばした。
「ぐえええ!!」
「そうか、ここに残るか。すばらしい。償いをすると言い出したら、責め苦を負わせておれが手を汚さなければならなった。命拾いしたな」
「……はぁ、はぁ……?」
男にはなんのことだかわからなかった。
(ここに残った方がコイツにとって都合がいいってのか?)
ロイドは何も言わず、消えた。
男は縄が解けず、転がってもがいていた。
「殺す度胸も無い臆病者が! 許可なんかいるかよ。ここはおれの土地だ!!」
「勝手なこと言うなよ」
「あぁ!?」
男が振り返るとそこには骸骨がいた。
あっけに取られて、何がなんだかわからない男。
「これがキャプテンロイドの言っていた情報の対価か〜。まぁ、退屈しのぎにはなるか」
よく見ると、そこは男が良く知るクレイ平野ではなく、どこかの島だった。
「どこだここは? 何だお前!!」
「コラコラ、しつけのなってないエサだな」
「うわ来るな!!」
冷たい骨の指が、男の頭を掴み、顔に食い込んだ。
「落ち着いて、怖くないよ? ほぉら、ちょっと皮をアレするだけだから」
「ぎゃああ、やめろぉぉぉお!!!」
「ええい、もうめんどくさいなぁ!! 丸かじりしてしまおう!!」
「ぁあああ!!!! あああ!!! ああああ!!!」
パルクゥーンは食人種ではない。
元は人族だった。だが、骸骨となったため血肉を食らうことで補給し、皮を被ることで見た目だけでも人に戻ろうとしていた。
ただのファッションである。
だが……
「なんでこんなことするんだ!? おれがアンタに何したってんだ!!!?」
「……そんなこと、お前も考えて来なかっただろう?」
「え?」
骸骨の暗い節穴が男の眼を見つめていた。
「わかるよ、お前がろくでなしの虫以下の野郎だってね。ここにキャプテンが置いていくはそういう奴だけだからさ」
男には心当たりがあった。
女を手に入れるために男を殺し、女を手籠めにした後飽きてその女も殺した。
子どもから奪い、老人を騙し、時には楽しみのために人を殺した。
だが、そのことを悪いと思ったことが無かった。
自分の行動は人として正しい。
自分は人より優れているから自由に欲望のまま生きられる。
他人を貶め、傷つけることは自分の価値の証明だった。
「勘違いしないでくれよ? おれはお前を罰しているわけじゃない。楽しいんだ。恐怖に歪みながら、これまでの自分の生き方を何から何まで自分で否定することになる、そんな顔を見るのがさ」
男にはその考えが理解できた。だからこそ、心底恐怖した。死に付きまとう恐怖と痛みと苦しみで弄ばれることへの絶望。あらゆる権利の蹂躙。
「ひひ、おれとアンタは同族ってわけじゃないか!! なぁ、アンタの家来になる。頼ぁむッ、見逃してくれぇぇ!!」
「え? いいよ!! じゃあ、自分で耳を引きちぎってみせてくれ!!」
「……ああっ、い、い嫌だぁぁ!!!」
絶海の孤島でそれから幾日か、男の絶叫が鳴り響き続けた。カタカタと骸骨の笑い声と共に……
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