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4.虚空へ


 ロイドたち一行は民宿に泊まっていた。

 シタ村に到着した次の日の早朝。

 

 リトナリアは物音でバチっと目を覚ました。

 戸口の向こう側に人の気配を感じた。


「ロイドですか?」

「おはようございます。ちょっと山に付き合ってもらいたいんですが」


 今回お目付け役のリトナリアはロイドに行動前に報・連・相するよう言い付けていた。


「わかった」

 

 リトナリアはすぐに着替え、かんたんに髪をまとめて部屋を出た。


「早いですね」

「冒険者だ。そこらの子女と一緒にするな。ん? 案内役の彼はどうしました?」

「ああ、今日は休ませました。せっかくの故郷だし、昨日は大変でしたからね。でも――」


 ロイドが休みを宣告すると、ガイドは筋肉痛で足腰立たない状況で食い下がった。ロイドの思いやりも彼には「役立たず、もうお前には期待しない、これが最後の帰省になるだろう、もう王都に戻ることは無いな、田舎者のお前には死ぬまでここで暮らすのがお似合いだ」と受け取られた。


 ロイドがただ休みをくれるとは思わなかったようだ。


「――彼がなぜ切羽詰まっているのか、心配になりますね」

「たぶん、あなたに言われたくはないでしょうね」

「皮肉はやめてください」

「自覚あるじゃないか」


 ガイドのロイドに対する態度はありふれている。付き合いの浅い相手から恐れられることには慣れていた。


「おれはただ……」

「ええ、あなたは間違ったことはしていないわ」


 リトナリアはそっとロイドの頭に手をやろうとして、肩に手を置いた。


(本当に大きくなったな)


「?」

「さぁ、行きましょう」


 二人は宿を出た。



 民宿の裏は山になっている。

 果物や木の実、キノコ、山菜、薬草など豊富な実りに恵まれ、リスやうさぎや狸、鳥などの野生動物にあふれていた。


「ここには魔獣がいなさそうですね」

「ええ、空気は澄んで水もきれい。木も元気だし良いところね」


 魔獣の脅威どころか、狂暴な獣も山賊に襲われる危険も無い。狭く隔絶されてきたがゆえの奇跡的な空間と言えた。

 だが入り江とは目と鼻の先。そこに港を開けば人が集中し、人が住むために山を切り開くことになる。場所と資源がこれだけ豊富なら目を付ける者も必ずいる。


「私も同意見ですよ、ロイド」

「まだ何も言っていませんよ?」

「この村はこのままがいい。港を開くなどただの金儲け。この自然の豊かさは金に変えられない」

「まぁ、そうですね。魔獣が居ないし、気候も穏やかだし。どっちにしろ村を潰して港を開く気はないです」

「そうですか」


 シタ村に来たのは一番王都から近いからで、一番早く事業を片付けられると思ったからだ。しかし立地的にもっと適した場所を探した方が効率的だとロイドは考え直した。


 二人はそのまま山の上まで登った。


 ふとリトナリアの先をロイドが歩いていることに気づき、彼女はその背中を見てロイドの成長を実感していた。

 彼女がお目付け役を引き受けたのはロイドが何をしでかすのか心配だったというより、また危険な目に合うかもしれないと不安になってのことだった。


「子供は急に成長するから驚く」

「それ、なんだかオバサンくさ――すいません!!」


 ムッとしたリトナリアをなだめつつ、二人は頂上に到達。そこから村の全容を一望できた。

 小さいと言っても山間にはそこそこの数の家がある。それも中々に大きいしっかりした家が多い。だがロイドが確認したかったのは海岸線。


 村の海岸に面する入り江から南に、真っ直ぐ浜辺が続いている。


(やはり、あれでは波の影響をもろに受けて船を停泊しておくことができない)


 山の上からは条件に見合った場所は見当たらない。


「戻りますよ」

「いえ、ちょっとやることが」

「何だ? ちゃんとやる前に説明を」

「港をここに開かないにしても、どこかに造らないと。だから全容を把握しようと思いまして」


 原初魔法で塔と螺旋階段を造り、そこを登った。

 ロイドに手を引かれ、リトナリアも恐る恐るその上を登った。


「昨日も思ったがこれは一体……」

「魔力を魔力で物質化するんです」

「そんなことが? ちょっと待てどこまで行く気だ?」


 村が真下に見える程に登り、北部一帯の地形を俯瞰できた。

 

「リトナリアさん、ほら王都も見えますよ。あれは迷宮かな? パラノーツ王国が一望できますね」

「……うぅ」

「いや、リトナリアさん……そんなカワイイアピールされても。風魔法使えるんだから落ちても」

「ダメ、目がくらむ。地上に吸い込まれる!!」


 下を見てリトナリアは思わずロイドに抱き着いた。


「こ、怖い、高い!! 離すなよ? 絶対離すなよ!」

「はは、リトナリアさん。おれの愛を試そうというんですか?」

「何を言ってるんだ、お前は!! ああ、離さないで!! 落ちる!!」


 自分の魔力がどのように足場になっているのかロイドには把握できても、彼女には何も見えない。

 後ろから抱き着かれながら、ロイドは浜辺の先の方を見た。

 

「あ、湾がある。いや、あれはリヴァンプール港か」


「我々には無理だ。専門家に頼んでしっかりと調査と計画を立ててからでないと」

「ダメですよ」

「どうして?」

「……普通にやったのでは意味がない気がする。おれがここを任されたのはただの厄介払いでも、ジュールの嫌がらせでもないはずだ」


 それに普通にやろうとすれば数十年はかかる。


 ロイドは一直線に南に伸びた浜辺を見て考えついた。


「あの浜辺を埋め立てる。それか人工の波よけを造る。土魔法ならそれほど時間は掛からないはず」

「ムリ。あなたほどの土属性の魔導士は少ない。水分を含んだ土を操るのは水属性の素養を兼ねないと」


 土、風、水、火、光の順に属性魔法の難易度は上がっていく。

 大規模な埋め立てを魔法で出来る者は莫大な魔力と土、風、水の三属性に長けたものと言うことになる。それだけの魔導士は中々いない。


「もういいでしょう。降りましょう」

「う〜ん……」


 視線を北へスライドさせると広大な平野に目がいった。

 一面起伏の激しい平野が広がり、何もない。海に面する海岸線は切り立った崖になっている。


「ここは論外だな」


 平野の西に一つ、北に一つ山に囲まれた内陸の村が見えた。さらに北の海岸線沿いに村が見える。こちらもシタ村と同様に山に囲まれ、小さい入り江があるだけ。


「――ん?」

「うわ、どうしたの?」


 ロイドは辺りを見渡していると、ふと、北の空から何か視線のようなものを感じた。


(魔獣か?)


 視線を感じた先を見つめたが空と雲しか見当たらなかった。


「リトナリアさん、今何か感じませんでしたか?」

「ああ。感じている。恐怖。ただ純粋に。高さへの、恐怖」

「ああ、はい降りましょうね」


 ゆっくりと魔力楼を降りていく。地上が近づくにつれ、景色が鮮明になっていく。すると先ほどまで見逃していた物が見えてきた。

 広大な平野に唯一ポツンと石造りの建造物が見えた。


(そう言えば陛下、城があると言っていたっけ)



「リトナリアさん、このまま『風の舞踏』であっちに降りましょう」

「え、嫌だ」

「足場が無くなるので捕まっててください」

「嫌だ、やめて〜!!」


 ロイドは原初魔法を解除した。リトナリアを背負いながら風に乗って平野に降り立った。




ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!

おもしろかったらブクマ、評価お願いします。


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