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1.左遷へ


「ただいま」

「酷い有り様だな」


 転移で戻ると、部屋にジュールがいた。

 なんだ、コイツは。人の留守中に勝手に入って。今何時だと思ってるんだ!!


「帝国で暴れて来た感想は?」

「あぇ?」


 バレてるー!!


 ななな、なんでぇ!!


 まさかマドルが話すはずが――


 彼女は部屋の隅で土下座していた。話しましたね、これは。やめなさい女の子がするもんじゃありません。リースはそのままでどうぞ。

 

 いや、まだ巻き返せないと決まったわけではない。二人には帝国に行ったとしながら、実は別のところに行っていましたと言って誰が否定できようか、いやできるはずがない。


「誤解があるようだから言っておこう。おれは帝国には行っていない!!」

「ならどこに行っていた?」

「私の眼を見て言ってくださいね」


 セイランちゃんいる。

 じゃあだめじゃん。


 いや、後ろめたいことなんて何もない。自己弁護の最良の手立ては真実を話すことだ。


「帝国には行った」

「あきらめ早っ」

「手のひら返しだな」


 


「だが、理由があってのことだ」





「理由があるというなら申してみよ」


 あれー、なんで陛下の前に引き出されているんだろー?

 

 まぁ、いい。

 キチンと報告すればいいだけのこと。遊びに行ったわけでもないし、有益な情報をたくさん持ち帰った。


 主要戦力である獣人や傭兵、魔物を生み出す力、それと銃。

 どれも強力な力でありながら、歯車がかみ合っていなかった。


 兵は連携が無く帝国軍の戦術の前に掃討された。魔物は指揮に従っているのか怪しかった。銃は単発の散弾銃のようなもので、近づいて撃たないと当たらない粗末なもの。


 全体的に実験をしていたような印象だ。



「――以上が私が現地で確認した情勢です」

「ふむ……」


 皆驚いているようだな。

 そうなんです、私はまた大きな功績を打ち立ててしまったのです。


 しかも、たった半日、皆さんが寝ている間にですよ!!


「教会の力は侮れません。しかし今回は私が介入したことで帝国軍の勝利となりました!!!」

「「「おおお!!!」」」


 議会の皆々様も感嘆の声を上げた。

 

 ふぅ――これで理解してもらえたよな?



「まさかお前の正体がバレるようなことはしていないよな?」

「……ん?」


 ジュール、コイツ絶妙に嫌なタイミングで嫌な懸念を……


「どうだ、ロイド卿?」

「変装して帝国軍に潜り込みましたので」

「魔法は何を使った?」


 ジュール、また核心を突いて来る! 怖いんですけど!!


「まさか雷魔法なんて使ってないよな? 転移魔法を使ったところを見られてたりしてないよな?」

「ハハ、アハハ……何と言いましょうか」


 泣きそう。

 いや、やれる。


 ここから巻き返して見せる!!


「どれだけ立派な大義を掲げて美化しても、戦争は醜くおぞましい。人のなんと愚かなことか……あの場で何を優先すべきだったのか? 後になって語ることは簡単です。ですが私は選択を迫られ、皇子を救うことを優先しました。やり方に問題があった点については反省しています、しかし、自分が取った行動、決断に後悔はありません」


 いや、本当に頑張ったんです。

 あそこでおれが雷魔法を使わなかったら教会は第一皇子の暗殺に成功してたんだ。そうしたら帝国は一層戦力を投入するし、反帝国感情を持つ市民が蜂起して全面戦争になったかもしれない。


 それに比べたら、別におれの正体なんて些細な問題ですよ。ねぇ、皆さん――あれ?


「ああ……そうか」

「ふむ……」


 なんだろう、この重苦しい空気。


「ロイド、お前を北部の港湾開発担当に任命する」

「はい?」


 一体何の話だ?


 議会の皆さんが乾いた拍手をした。

 それってめでたい事?

 あと、なんでジュールに任命されないといけないの?


「ピンときていないようだからハッキリ言ってやろう。要するにお前は()()だ」

「はい?」

「一歩間違えれば帝国への宣戦布告とも取られかねないお前の行動を罰しないわけにはいかない」


 左遷……罰……?


「はは、御冗談ですよね、ジュールにそんな権限あるはずが……陛下?」

「ジュール候は大領地ベルグリッドを治める伯爵位にして、枢密院主席。この場での発言権もそなたより勝る」


 そーだった!!!


 伯爵位は土地関係とか面倒な仕事があるから、事あるごとに断ってたんだ。

 この王国内ではおれはジュールの下。

 ジュールめ。おれの下に就くみたいなこと言っておいて、油断させる罠だったのか……


 厄介なことになってきたぞ。

 マズイ、開発事業なんて死ぬほど興味ない。これ以上仕事を増やされてたまるか!!


「しかし私は内政には疎く、実績もございませんし」

「だからだ。これから王女を娶ろうというのに、お前には戦いの実績ばかり。これをいい機会に、少しは民衆を治めることを覚えろ」


 ああ、正論だ!! くそう、姫と結婚するために護衛の任を解かれたせいで文官系のややこしい仕事をしなくてもいいという大義名分も無い。

 

 だがおれを左遷なんてして、議会が承認するはずが――


「満場一致、ロイド侯には北でおとなしくしていていただこう」

「えぇー……」


 けど、陛下は――


「あそこはのどかで療養にはちょうどよかろう。特異な風土ゆえに北だが温かく、自然も豊かだ。それに城もある」

「えぇー……」


 それって田舎を良く言い換えただけだよ。


 でも、そうだ。教会のことはどうするんだ?


 おれ抜きでどうにかなるの、ねぇ?


「教会についてはしばらく静観する。今回の戦いで敵は打撃を受けたはず。大きく動くのは当分先のことだろう。こちらも有能な人間を遊ばせず、国力の底上げのために尽力してもらおう。それが国を護るため、民衆を護るために我々が負った貴族としての責務だからな、ロイド侯?」

「あ、でも……」

「問題は誰を同行させるかだな。リースとマドルはロイドを踏み留まらせることができない」


 話が勝手に進んでる!!

 そもそも、北部の田舎に港を作ってどうするんだよ? あと何年かかると思ってるの?


「そんな北に港湾を整備してもですね……」

「ロイドに言うことを聞かせられる者と言えばマイヤ卿ぐらいしか」


 聞いてない!!

 ああ、一睡もしてないし戦った反動で立ち向かう勇気が出ない。


 いや待てよ。逆に考えてみよう。

 田舎でぬくぬくとスローライフ。仕事はキツイだろうが余計な面倒事は増えない。


 アリなんじゃないか?


 足りないとすれば――



「私たちも付いて行きます」


「ダメだ」


 ジュールの応接室に二人を呼び、交渉することにしたが取り合うこともしない。


 姫とヴィオラが来れば完璧だったのにここでもジュールが反対した。なんだよ、嫌がらせかよ!!

 


「お前たちが居たらコイツが仕事をしなくなる。ノルマ達成ごとに王都への報告を許す。会うのはその時だけだ」


 懲役刑食らった囚人みたいじゃないか!!

 それはいくら何でも無慈悲が過ぎる。


 彼には人の心ってものがないんですかねぇ、ノワールさん?

 ああ、おれらの今後より食べ物のほうが大事ですか……


 ノワールさんはヴィオラの作って来たクッキーを独り占めしている。


「でも、それはあなたのお仕事ではなくて? 今は地位が上でも本来あなたはロイドちゃんの部下なのでしょう?」

「そんなせせこましい事業をこのおれ自らやるなど、人材の無駄遣いだ。それにおれはお前の父親の命も受けてるからな」


 ジュール、姫をお前呼ばわりするな。何様だよ、コイツ! 腹立ちますねぇ。首ちょん切るぞ――ってノワールさんが居なかったら脅してやるのに。


「でもあなたがロイドちゃんを左遷させたと知れたら国民がどう解釈するかしら? あなたの評判を貶めることになりますわよ」


 さすが姫。

 うはは!! そうだ、頭がいいのはお前だけじゃないんだよ!


「気にするな。今はロイドの実績、地位を名声に見合う形にするのが最優先だ。でなければ結婚など夢のまた夢だぞ」

「うぅ、実績が必要なら王宮の仕事を」

「開発でロイドは土地も得る。爵位も上がる」

「ならばベルグリッドの方が」

「もちろんあそこをおれがいつまでも治める気はない。だが、ギブソニアン家が王族と釣り合うにはヒースクリフに実権を戻した方が都合がいいだろう」

 

 この野郎、父上を引き合いに出すなんて卑怯だぞ!!


「問題はそれだけじゃない。コイツの従士たちや持ち物が騒動を起こしたことにも、責任を取らせ、王宮への出入りを制限しなければならない。コイツのまだ見せていないお友達たちも王宮に招くよりいいだろう」


 おれが居ない間、おれの刀が暴れてノワールさんが折ったという。


 何言ってんの?


 刀が勝手に動いてたまるか。これについては納得してない。

 刀を折ったのはノワールさんで間違いないっぽいが、その上王宮内の修繕費やけがの治療費を請求された。


 踏んだり蹴ったりだ。きっとこれもジュールの陰謀だ。この上おれたちの仲まで引き裂こうというのか?


「全て順調に行けば、結婚ししがらみから逃れた静かな土地で穏やかに暮らせる。これを拒めばお前たちの結婚に掛かる莫大な費用と人手の確保におれは協力しない」


「くぅ――」


 姫、困ってるお顔もお可愛い。

 いや、姫が困っている。助けなければ。


「わかりました。ロイドちゃんには北に行ってもらいます」


 えぇー……


「そんな、姫」

「どうしてですか姫様!」

「ロイドちゃんを迎えに王都を出た件で、今の私は大きく動けないわ。それに今国庫は度重なる不祥事の賠償と軍事費でカツカツ……。ごめんなさい、無力な私を許して、二人とも」

「姫……」


 謝るのはおれの方だ。軽はずみな行動でまた二人を悲しませることになってしまった。反省はしていたが後悔は無かった。でも、二人には申し訳ない。


「すぐに終わらせて帰りますから」

「ロイドちゃん……」

「ロイド様……」


 三人で涙を流し別れを惜しんだ。


「茶番はいいから早く行け」

「鬼!!」

「人でなし!!」

「外道め、地獄に堕ちろこの裏切り者!! あぁ、ノワールさん止めないでくれ、一発だけだから!! 顔面は殴らないから!! おい何笑ってる!」


 女の影に隠れていい気になりやがって、腹立つー!!!


「ああ、悪かった。港の整備には大規模な人員がいるだろう。手伝ってやろうか?」

「いらないね! お前の手なんか借りるか!!」


 やってやる。

 おれが本気になれば街の一つや二つ、一瞬で作れるんだよ!

 

 


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